買収候補先の分析しよう
M&Aにおいて、買収候補先を選定、検討するとき、あるいは、M&A以外の場面でも、特定の企業の財務状況や特性を把握したいときには、たいてい以下の4つの観点で分析することになります。
- 1 収益性・生産性
- 2 安全性
- 3 リスク
- 4 成長性
そして、上記の4つの観点で、財務諸表を読み解いていくことで、数字の裏にある背後情報や、評価対象企業のキャラクター、置かれている状況などを推し量ることができます。
今回のコラムでは、企業分析について、この4つの企業分析のうち、主に「②安全性」を分析するための枠組みとして利用される、D/Eレシオについて解説していこうと思います。
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そもそも、「安全性」とは、企業財務の健全性のことを指します。どれほど、収益性や生産性の高いビジネスを行っていても、企業のキャッシュフローが不安定で、資金ショートが発生したりすると、企業は倒産、そして元本や利子の返済も不可能になります。
そのため、安全性という企業の財務状況の健全性、安定性を把握し、企業が持つ財務リスクの度合いを明確にするための指標が必要なのです。
DEレシオとは?その計算式はどうなる?
結論から言えば、D/Eレシオ(デット・エクイティ・レシオ)は、負債資本倍率、有利子負債比率とも呼ばれ、
「有利子負債÷自己資本(株主資本)」
という計算式によって算出されます。
では、何故、D/Eレシオは安全性を分析する上で重要なのでしょうか?ここでは、中小企業を例にとり、解説を進めます。
D/Eレシオは、前述の通り、他人資本であり、返済の義務がある企業の借金(有利子負債)が、返済義務のない自己資本の何倍になっているかを測ります。多くの中小企業の場合、社債は発行していないため、有利子負債は、銀行などの金融機関からの短期借入金と長期借入金の合計になります。
有利子負債とは、その名前の通り、毎月、金融機関に元本や利子を返済する必要のある負債です。これは、毎月、企業に課されるキャッシュ流出要因となります。そのため、有利子負債が大きければ大きいほど、流出するキャッシュの絶対額は大きくなっていきます。ですが、そのキャッシュアウトに耐えうるだけの自己資本があれば、どんなにキャッシュアウトの絶対額が大きくても、それほど問題ないでしょう。
そこで、有利子負債が自己資本(株主資本)の何倍になっているか、その相対的な割合を求めましょうというのが、このD/Eレシオになります。
つまり、言い換えれば、D/Eレシオが高ければ高いほど、有利子負債の割合が大きいため、「財務状況は悪化している・倒産のリスクは大きい」といえます。例えば、現在は、業績が好調で順調に成長を続けている企業でも、D/Eレシオが高い場合、少しでも成長が落ち込むと経営状態、財務状態が一気に悪化していく、というケースも多々あります。
D/Eレシオの目安は?トヨタで実践
現代のファイナンス理論では、会社の規模や事業内容、その他おかれている環境などによって、企業それぞれに個別の最適なD/Eレシオがあるといわれています。なので、経営者目線としては、まずは自社でベンチマークとする会社(おかれている財務状況や、事業内容などが類似している会社)を見つけ、そのD/Eレシオに近づけられるように努力するといった使い方をするのが、良いのではないでしょうか。
また、企業を分析するための、あくまで一般的な目線感としては、D/Eレシオが、「2.0」を超えたら、リスクが大きい、と判断できるのではないでしょうか。(本当に一般的な目線です)そして、それに対して、D/Eレシオが「1.0」を下回るケースであれば、一般的には、財務状態が健全、と判断できるのではないでしょうか。
トヨタ自動車のD/Eレシオ
では、ここで実際の企業を使ってDEレシオを算出してみましょう。(あくまでも一例です)今回調査するのは、日本が世界に誇る自動車会社である「トヨタ自動車」です。
再度ですが、D/Eレシオ(デット・エクイティ・レシオ)は、
「有利子負債÷自己資本(株主資本)」
という式で算出できるため、トヨタのD/Eレシオを算出するためには、「トヨタの有利子負債」と「トヨタの自己資本(株主資本)」の2つの数値が必要になります。また、ここでは自己資本(株主資本)と記載していますが、純資産でも構いません。
まずは、「トヨタの有利子負債」ですが、我々はこの数値を知るために「Yahoo!JAPAN ファイナンス」を利用しました。これは、後に利用する有価証券報告書などの財務状況だけでは、「有利子負債」という特定の項目だけを推定することは不可能な一方で、「Yahoo!JAPAN ファイナンス」には、有利子負債の記載があるからです。
そしてこれを見ると、トヨタの有利子負債は、『25,659,635(百万円)』ということがわかりました。
次に、「トヨタの自己資本(株主資本)」ですが、この数値を知るには、トヨタが上場企業であるため、「有価証券報告書」を見るのが早いのではないのでしょうか?説明する必要はあまりないと思いますが、有価証券報告書とは、上場企業が各事業年度終了後3カ月以内の提出しなければならない、会社の概況や事業・設備、さらには財務状況の情報を盛り込んだ報告書のことで、誰でも閲覧が可能になっています。
EDINETという金融庁が運営する電子開示システムから、2021年(令和3年度)のトヨタ自動車の有価証券報告書を見ると、すぐ純資産額が記載されている項目を見つけることができました。
そして、第117期(2021年3月期)のトヨタ自動車の純資産額は、『13,894,021(百万円)』ということがわかりました。
ここから、トヨタのD/Eレシオは、
『25,659,635(百万円)』÷『13,894,021(百万円)』≒1.85
と算出することができました。前述した目安感の数値から見比べると、トヨタのD/Eレシオは少し高いように見えますね。(もちろんこれは一つの目安の数値かつ、現金があれば、DEレシオ比率は高くても問題がないため一概に判断することはできませんが)
まとめ
今回のコラムでは、企業分析における一つの指標であるD/Eレシオを解説してきましたが、いかがだったでしょうか?D/Eレシオは、「有利子負債÷自己資本(株主資本)」で算出することができ、実際の企業であっても(上場企業なら)誰でも3章のような方法で求めることができます。(有利子負債を記載しているところは少ないと思います)
企業を分析する際、一度D/Eレシオを使用してみてはいかがでしょうか?
企業分析やM&Aにおける買収候補先の選定においては一般的に、「この企業はこれくらい成長しそうだ」「こんなに利益率が高い!」のような収益性や成長性にばかり目を向けがちですが、安全性の分析も、企業分析においては非常に重要です。是非、この機会にご活用ください。
記事監修
三戸政和(Maksazu Mito)
2005年ソフトバンク・インベストメント入社。兵庫県議会議員を経て、2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行う。