どうやって会社を探すのか 案件発掘〜基本合意契約

基本合意契約までの簡単な流れ

今回のコラムでは、基本合意契約を締結するまでの流れについて扱っていこうと思います。

ソーシングでは、M&Aのマッチングサイトを見たり、仲介などのプレイヤーを回ったりすることで情報を収集しますが、そのとき入手するのが、いわゆるノンネームシートというものです。ノンネームシートとは、FAや仲介が持っている売り案件の情報です。M&Aマッチングサイトに上がっている情報もそれです。

ノンネームシートは、その会社が特定されないよう、限られた情報に留められています。会社の名前は出ていませんし、事業も概要程度で、所在地もざっくりとしています。

買い手は、ノンネームシートを見て、「この会社、良さそうだな」「事業内容を詳しく知りたい」と思えば、その会社と連絡を取って、NDA(秘密保持契約)を結びます。NDAで情報を漏らさないことを約束した上で、さらに詳しい情報をもらうわけです

関連用語→NDAとは?

そして手に入れるのがインフォメーションメモランダム(IM)です。IMには会社の実名、所在地、事業内容、財務状況、資産構成、組織概要など、会社の詳細な情報が載っています。買い手はIMを分析して、さらに知りたいことがあれば、メールなどで売り手側に問い合わせます。

会社の詳細を知った上で、「この会社を買いたい」と思ったら、「面談」に進んで、実際にオーナーに会って話を聞きます。M&Aではこの面談が重要になります。序盤の山と言っていいでしょう。

面談を経て、「この会社、やっぱりいいな」と思い、売り手側も交渉を進めることに合意したら、基本合意契約を結ぶことになります。

関連用語→基本合意書とは?

ただし、基本合意契約を結んだからといって、買うことが決まったわけではありません。基本合意契約は、「買う前提で、もう少し詳しく見せてください」という、M&Aの実行フェーズに入るための約束です

ソーシングのコツとは?

ソーシングで重要になるのが、売り手を「口説き落とす」ことです。

以前のコラムでもお話ししましたが、会社は商品ではありません。オーナーさんは事業承継の必要性を感じつつも、まだ迷いがあって悩んでいることがほとんどです。とくに日本には身売り文化が残っているので、オーナーさんは本音では、事業承継のことを表沙汰にしたくないと思っています。「従業員や取引先にバレたら離反される」「銀行が知ったら融資を引き上げられる」「競合に知られたら事業に差し障りがある」などと考えているのです。

ソーシングを始めればわかりますが、買い手がオーナーさんと会ったとしても、オーナーさんはなかなか事業承継の話をしてくれません。オーナーさんは、事業承継をしたいと思いつつも、「情報は表に出したくない」「信頼できる人にしかそんな話はできない」「この人は果たして信用できるのだろうか」などと考えているのです。

ですからみなさんとしては、オーナーさんに信頼感を与えて、「この人だったら事業承継のことを話してもいい」と思ってもらう必要があります。それが口説き落としです。オーナーさんを口説いて信頼を得ることで初めて、事業承継の案件が動き出すのです。

これはM&Aマッチングサイトにおいても同じです。ネットを介してのやり取りになりますが、買い手はメールやメッセージの文面や内容を駆使して、オーナーさんを口説かなくてはなりません。

多くの人に会って、自分を知ってもらってネットワークを広げ、いろいろな情報を得て、良い会社が見つかれば、そのオーナーさんを口説き落とす。こうした地道な努力を続けることで案件に出会えますし、つかみ取ることもできるのです。これを続けるのがソーシングです。ドブ板の営業回りと同じなのです。

M&Aの土台となる案件ソーシング

私の場合、ファンドを立ち上げて、最初の1件の投資を決めるのに、3000人くらいにコンタクトをして情報を集め、200社くらいの会社のデータを検討して、最初の投資すべき1社を決めました。そのくらいのソーシングをして、やっと自分と相手のニーズがマッチする案件に出会えるのです。

結婚相手を探す婚活でも、自分の望む相手にはなかなか出会えないように、ソーシングでも自分の求める案件に出会うのは簡単ではありません。情報を取るのも大変ですし、売り手を口説いて、交渉に辿り着くのもかなり大変な作業になります。私はソーシングが、M&Aのプロセスにおいて、もっとも労力のかかるものであり、かつ、労力をかけるべきものだと思っています。

ソーシングを乗り越えられる人だけが、会社を買えて、資本家への一歩を踏み出せるのです。

それからもうひとつ、この段階でなすべき重要なタスクがあります。それは地固めです。

自己紹介のプレゼン資料にしても、フラッグの立て方やターゲットの条件設定にしても、初めから100%のものはできません。それらを、この時期にできるだけ多くのプレイヤーたちに見てもらって意見を聞きましょう。多くの人から意見をもらって、修正点はないか、足りないものはないかを確認して、必要があればどんどん修正しましょう。そうやって徐々に、自分のやり方が固まっていくのです。

私が最初に作ったプレゼン資料も、この段階で多くの人と話をする中で、「ここはあまり伝わらないな」とか、「ここでこういう質問が来るならこういう情報が必要だな」と修正していきました。そして数ヶ月経ったら、資料の半分くらいは変わっていました。そんなふうにして、この段階で、みなさんのM&Aの土台が作られていくのです。

会社の情報収集から基本合意契約までは、以上のような流れで進みます。次のコラムからは、それぞれのソーシングプロセスの詳細を見ていきます。


記事監修

三戸政和(Maksazu Mito)

2005年ソフトバンク・インベストメント入社。兵庫県議会議員を経て、2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行う。



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