M&Aにおけるノンネームシートは数が勝負?見るべきものとは?

ノンネームシートは数を集めよう

とにかく、ノンネームシートはたくさん集めましょう。ノンネームシートはM&Aマッチングサイトを見れば載っていますし、FAや仲介から紹介を受けて手に入れることもできます。

ノンネームシートに載っている会社の情報はざっくりとしたものです。会社の名前はありません。所在地は、関東などの地方レベルか都道府県までで、会社や事業のことは、簡単な事業内容と特徴、大まかな社員数と簡単な設備内容くらいです。財務情報も売上高と営業利益が書かれている程度です。さらに、売却理由と、売り手が希望する売却希望価格と売却方法が載っているのが通常です。希望価格は、金額が指定されていることもありますし、「純資産+営業利益何年分」という書き方もあります。

ノンネームシートがあるということは、オーナーが「会社を売る」と決めて、FAや仲介に依頼しているということです。「案件化」されている会社ですね。

前にも言いましたが、事業承継の必要がある会社が、すべて案件化されているわけではありません。事業承継をする方法を知らない、そもそも自分の会社が売れるなんて思っていない中小企業のオーナーはたくさんいます。案件化されていない会社には、当然ノンネームシートはありません。

自分の取引先や知り合いなどを回ってソーシングする場合、案件化されていない会社に出会うことが多いでしょう。その中で良さそうな会社があれば、オーナーさんと話をしながら、ノンネームシートレベルの情報を自分で手に入れなければなりません。これが案件の発掘です。案件の発掘のためには、相手から信用を得るという作業が必要になります。

とにかくこの段階では、M&Aマッチングサイトを見たり、M&Aのプレイヤーを回ったり、自分の伝手を使うなりして、ノンネームシートレベルの情報を、100社でも200社でも、できるだけ多く集めて、気になる会社、興味が持てる会社がないか、探していきましょう。

ちなみに、買いたい会社の条件を定めるときに、ノンネームシートのような形で条件設定をしておけば、FAや仲介などのプレイヤーにとって分かりやすいものになります。

守秘義務はないがしろにしない

ノンネームシートレベルの情報を見て、良さそうな会社があったら、次は、その会社と守秘義務契約を結びます。情報を漏らさないことを約束して、さらに詳しい情報をもらうわけです。

業界では守秘義務契約のことを、NDA(Non Disclosure Agreement)と言ったり、CA(Confidential Agreement)と言ったりします。こういう専門用語は一応、頭に入れておいてください。たとえば「NDAをください」と言われて、「DNAですか?」なんて言ってしまうと、相手はがっかりして、話が進まなくなるからです。

秘密保持契約は、「ここで得た情報は外に漏らしません」と約束するものです。細かく言うと、秘密保持の対象となる情報を定義して、その情報をM&A目的以外に使わないことや第三者に漏らさないことを約束します。情報を漏らして損害が出た場合の損害賠償の方法や、契約の有効期間についても定めます。

関連記事→秘密保持契約書のサンプルはこちら

こう説明するとたいそうな契約のように聞こえますが、買い手にとって秘密保持契約は、契約内容をそれほど気にせず結んでも、大きな問題になることはありません。ただし、売り手のオーナーにとってはそうでないことは覚えておきましょう。秘密保持契約は、売り手にとって、買い手が想像する以上に大切な契約です。なぜかというと、会社の情報を外部に出すということは、さまざまなリスクに会社を晒すことになるからです。

たとえば、競合相手がM&Aを装って情報を取りに来ることがあります。私のファンドでも経験がありますが、ある会社を売りに出したら、競合の会社が入札に参加してきたことがありました。その競合会社が入札で一番高い値段を入れてきたので、ちょっと不安に思いながらも、それなりの情報を出して、経営陣とも面談してもらいました。しかしその競合会社は、情報を取るだけ取っておいて、次の入札には参加しなかったのです。こういうことは珍しいことではありません。

また、たいていのオーナーは、会社を売ろうとしていることを、従業員や取引先、銀行などに知られたくないと思っています。その可能性を高めることにもなりますので、オーナーとしては、情報を外に出すことにはセンシティブにならざるを得ないのです。

ちょっとした行動が信頼度を分ける

こうしたオーナーの気持ちを理解せずに、情報をぞんざいに扱っていると、オーナーからの信頼を得ることはできません。逆に、こうした部分でオーナーへの配慮を示せれば、オーナーからの信頼を得られやすくなります。

たとえば、オーナーと面談するときです。テーブルにはきっとIMや財務諸表などの書類が並んでいるでしょう。そこに従業員がお茶を出しに来たら、どう行動するでしょうか。

オーナーというのはたいてい、会社を売ろうとしていることを従業員に知られたくないと思っています。ですから買い手としては、そういうときは、パッと書類を隠して、従業員の目に書類が入らないようにした方がいいのです。

書類を隠さなくても、お茶を出しに来た従業員が見るとは限りませんし、そもそもその従業員はオーナーが会社を売ろうとしていることを知っているかもしれません。それでも、そうやって書類を隠すことで、買い手は、オーナーの気持ちを理解して配慮ができる人間だということを示すことができます。

これが、書類を広げたまま何もしなければ、そういう配慮ができない人間だと思われるかもしれません。現場でのこんなちょっとした行動の違いが、オーナーからの信頼度に大きく関わってくるのです。

NDAを結んだら、ノンネームシートよりももっと詳しい、インフォメーションメモランダムという資料をもらって、初期デューデリジェンスのプロセスに入ります。その解説はまた次回


記事監修

三戸政和(Maksazu Mito)

2005年ソフトバンク・インベストメント入社。兵庫県議会議員を経て、2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行う。



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