M&A業界へ就職・転職する前に読むべき本やサイト、獲得すべきスキルや能力を紹介

M&A業界に興味・関心ある方へ

この前のコラムでは、M&A業界に就職・転職する人達に向けて、M&A業界の仕事内容や年収などの業界基本情報について、PEファンドの視点から解説していきました。そして、その際に、M&A仲介には「営業スキル」、FAやファンドには「M&A実務スキル(未経験がダメというわけではありません)」が、メインで求められていることを、会社の募集要項などを例にお伝えしてきました。

しかし、この記事を読んでサイトに質問してきてくれた人がいるように、一体どこで、どんなM&Aに関連する知識やスキル(特にFAやファンドの)を身につければいいのか?と思う人も多いでしょうし、そもそもM&Aに関連する知識やスキルとはなんなのか?という人もいるでしょう。そこで、今回のコラムでは、このような疑問にお答えしていく、つまり、「M&A業界に就職・転職の際、事前に獲得しておくべき知識やスキルをお伝えしながら、我々PEファンドから、それらを獲得するために、何をすべき・読むべき・見るべきなのか」ということを紹介していこうと思います。

先に、M&A仲介には「営業スキル」が求められていると述べましたが、正直我々は、それを身につけるには、どこかの会社で「営業経験」を積むしかないと考えています。ですが、M&A業界である以上、入社するには、それ相応のM&A知識も求められるでしょうし、FAや専門家と違って、案件を取ってくるところからクロージングまでの全てを、1~数人で対応することが多いので、営業スキル以外にも、当然、M&Aの実務知識・スキルを事前に持っていることに越したことはないでしょう。

加えて、仲介・FAに関わらず、「入社してから身につければいいや」という考えを持って、業界に飛び込むと、(もちろん入社してからも、ある程度学ぶ期間は存在するとは思いますが)業界全体が「完全実力主義=成約案件の多さ・規模に基づくインセンティブ方式」であるため、いつの間にか同期はおろか、後輩にも追い抜かれ、埋もれていくかもしれません。しかし、これは裏返せば、スキルや知識を事前に身につけておけば、就職・転職に有利になるどころか、入社してからも差をつけることができるかもしれないということになります。ですので、これからお薦めすることは、M&A業界に、今まさに、飛び込もうとしている全員に役に立つことを確信しています。

かなり長い文章にはなっていますが、ぜひ最後までご覧ください!

(*なお、ここでお薦めするものは、あくまでもM&A業界を目指している人向けのものであり、スモールM&Aを実行しようとしている人向けではないことをあらかじめご理解ください)

M&A業界の面接・就活対策のメディア

M&Aメディアにて情報収集

まずは、新卒の方へ向けての話をします。この前のコラムでもお話しした通り、業界どこの会社の面接においても、「最近気になったM&A関連のニュースは?」という質問が頻繁に聞かれます。加えて、新卒の段階で比較的ニッチな業界であるM&A業界を目指すことに関して、それ相応の志望理由や前提知識が求められます。そのため、ニュースや時事を気にしていなかったり、仕事内容に関する知識・業界形態に合致した志望動機を適切に答えられなければ、採用人数がものすごく少ないM&A業界では、まず受からないでしょう。

そして、そうならないためには、常に新しいM&A関連のニュースに敏感になったり、M&A知識を(少しでも)獲得しておく必要があります。M&A知識においては、我々「SMALL M&A.com」も助けになり得ますが、やはりニュースなどになると、MARRM&A Onlineなどのサイトがリアルタイム更新であるため、より有効になり得ると思います。ですから、新卒でM&A業界を目指す方は、まずは、前提の前提として、これらのサイトを活用して、事前に情報収集しておきましょう。

M&A業界において必要不可欠なもの

次は、M&A業界において必要な知識・スキルの話です。この章で述べるものは、新卒・中途に関わらず、入社する段階においては、確実に持っておくべきです。さらに、今回のコラムでは、その中でも、外銀やファンド・戦略コンサルなどといった、より高度なM&Aスキルが求められる現場を目指している・入社予定の人もいると思いますので、3章で述べる、最低限身につけておくべきこと(こちらは全員マストです)に加えて、実践的な知識・スキルやM&Aに関する深い理解の習得のための本やサイトも、4章で紹介していきたいと思います。

では、まずは、最低限必要な知識やスキル、そして、それらを獲得するためにやるべきことを紹介していこうと思います。

M&A実務必須のエクセルスキル

これは、もう当然中の当然です。M&A業界は、事業計画の作成や企業価値算定のために、多くの時間をエクセルに費やすこととなります。そして、それらの作成には、絶対にミスをしない正確性(特にベタ打ちの箇所)だけでなく、M&Aフロー各所に期限があるので、スピードも求められます。そのため、入社前の段階で、エクセルに触れて慣れておく必要があり、スキルとして、基本的なショートカットや簡単な数式を組む能力だけでなく、知識として、財務モデルに関する基本的な考え方やルールなどを獲得しておく必要があります。

そして、これらを獲得するために、我々がお薦めするのは、「外資系金融のエクセル作成術(東洋経済新報社)」になります。これは、初心者向けに一から、世界で通用するようなエクセルシートの作成方法を、わかりやすく説明しているものになります。本にはサンプルとして、エクセルデータもついているので、読みながら一緒に財務モデルを構築することができます。

我々「SMALL M&A.com」も財務モデリング講座としての記事をあげていっているので、そちらもぜひご覧いただけると嬉しいです。

M&Aに関連する財務知識

M&A業界に飛び込むと、財務・税務・法務+会計に対して、密接に関わることとなります。税務・法務に関しては、税理士や弁護士に任せることも多いため、比重は低めですが(もちろん使いはします)財務と会計知識は必須となってきます。中でも財務知識は、「今後どう成長していくのか、どう資金調達し、どう資金活用するのか」といったような場面で用いることになります。もう少し述べると、M&Aという経営戦略は、ある種の長期投資であるために、投資家をはじめとしたステイクホルダーに対して、財務分析をもとにした資料を通じて、どう納得させるのか、という際に使うことになります。

そして、この財務知識を獲得するために、我々がお薦めするのは、「コーポレートファイナンス入門編(丸善出版)」または、「コーポレートファイナンス第10版(日経BP)」または、「コーポレートファインアンス戦略と実践(ダイアモンド社)」になります。この3冊の中で、一番簡単なのは、「コーポレートファイナンス戦略と実践」になりますが、これらの本、どれを通じても、ファイナンスに関する基本的な考え方や知識を習得できます。特徴として、理論上的な話から、実務面でも活かせるような話まで盛り込まれているので、実際にM&A業界に携わる人達にとっては、かなり有用になり得ます。

さらに、IRRや現在価値などファイナンスの基礎がかなり書かれているという点では、「道具としてのファイナンス(日本実業出版社)」もお薦めです。

M&Aに関連する基本的な会計知識

財務知識同様に、M&A業界で必須になるのが、会計知識です。これは、公認会計士に任せる部分もありますが(故に基本的な会計知識としています)、企業のB/SやP/Lなどの会計情報を通じて、「現在の企業がどのような体質(財政状態)にあるのか」などを把握するために必要であり、先にあげたような財務・税務・法務の基盤となるため、より重要度が高くなっています。中でも、簿記(2級)は、「入社前からとっておく必要がある」と会社から通達されていることも多く、なんなら最近では、M&A業界に限らず、多くの会社でも入社前資格になっていることが多いです。

関連記事→簿記を学ぼう(PL編)(BS編)

そして、この基本的な会計知識を獲得するために、我々がお薦めするのが、先に述べた「簿記2級の取得」と、本としての「財務三表一体理解法(朝日新書)」です。この本では、モデルを作る上で必要な、Pl、BS、CFSの連動についてわかりやすく解説されています。簿記2級の取得に関しては、「正直なんでもいいのでとってください」って感じですかね。

さらに、基本的なモデルづくりに関する知識として、Udemyの熊野さんの講座もお薦めですね。これは、自学(本やサイト)だけでは難しいと思った人にお薦めなので、ぜひ視聴してみてください。

ここまでの話が、M&A業界に飛び込むなら持っておくべき必要最低限の知識・スキルになります。「M&Aは総合格闘技」と称されるように、M&Aアドバイザーには、多くの人達をまとめる交渉術だけでなく、今あげたような会計・財務知識など、覚えておくべき知識、やるべきこと業務が多く存在します。ぜひ今のうちからコツコツと学んでおきましょう。

プロフェッショナル(外銀・投資銀行)を目指す方

ここからは、M&Aプロフェッショナルを目指す人(主に中途でFAに行こうとしている人)に向けたものになります。しかし、新卒でも外銀や日系投資銀行レベルになると、入社前に求められることがあるので、ぜひチェックしてみてください。

M&Aディールに関する理解

まず、M&Aプロフェッショナルとして、M&Aのディール全体を、表面的な基礎知識としてではなく、広く・深く把握する必要があります。そこで、我々がお薦めするのが、「ザ・M&Aディール(中央経済社)」または、「会社売却とバイアウト実務の全て(日本実業出版社)」になります。これらの本は、真に実務上で活かせる知識を提供しながらも、ディールの流れが綺麗にまとまっていることに加えて、実例なども組み込まれているので、複雑なM&Aディールながらも理解しやすくなっています。

バリュエーションに関する知識の取得

次に、M&Aプロフェッショナルとして必要になるのが、企業価値評価(バリュエーション)に関する知識です。基礎知識として取得した、財務知識や会計知識を活かし、M&Aにおいて最も重要かつ難しいといっても過言ではない、「会社の値段を決める」作業をこなすためには、バリュエーションに関する知識の取得は必要不可欠です。正直、ここまでくると入社してから、その会社のバリュエーション方法に従って経験的に身につけていくものになるかもしれませんが、基礎と実践の間ぐらいの知識は持っておいて損はないです。(どの会社においても共通なことが多いので、いつかは覚えることでしょうし)

そして、このバリュエーションに関する知識を獲得するために、我々がお薦めするのは、バリュエーションに関して、現在価値などの考え方の部分からわかりやすく解説してある「MBAバリュエーション(日経BP)」と、かなり細かい部分までしっかり解説してある「企業価値評価(バリュエーションの理論と実践)マッキンゼー(ダイアモンド社)」になります。

財務モデル作成に関するスキル

最後に、全ての知識を活かして、実際にモデルを作ることができるスキルです。ここまできて、ようやくM&Aプロフェッショナルと言えるでしょう。(まだ実は税務や法務もありますが)そして、ここで我々がお薦めするのが、個人ブログサイト「壁の道の向こう側」です。これは個人ブログではありますが、実際のモデルの作り方やポイントなどを、プロセスの流れに沿って学んでいける、まさに我々の財務モデリング講座の理想形です。また、もう一つ「財務モデリング本格入門」もお薦めです。これは、各ポイントごとに細かく解説が加えられていて、わかりやいのでお薦めです。

その他のM&A実務的な知識の取得方法として、

  • 上場企業の開示資料や取引事例を見る
  • EDINETなどから上場企業の財務諸表を入手して、モデルを作成してみる

ことだったり、「M&Aファイナンス(金融財政事情研究会)」「M&A・組織再編スキーム発送の着眼点50(中央経済社)」などを読んでもいいかもしれません。もちろんこの「SMALL M&A.com」も同じです。

まとめ

ここまでM&A業界に入社予定の人、就職・転職活動の人に向けて、必要なスキルや知識の獲得するために、具体的に何をすべき・読むべき・見るべきなのかを紹介してきましたが、いかがだったでしょうか?

新卒で就職活動中の人は、とりあえず最低限の箇所を読んでいただけたら、確実に大丈夫だとは思いますが、中途の人や既に内定先が決まっていて時間がある人は、実務・実践的な箇所にまで触れて、今のうちに色々慣れておきましょう。この記事は長いですが、ぜひ皆様のお役に立てられば、光栄です。同じ業界で働けることを楽しみにしています!頑張ってください!


記事監修

三戸政和(Maksazu Mito)

2005年ソフトバンク・インベストメント入社。兵庫県議会議員を経て、2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行う。


こんなタグの記事が読まれています