共同買収によって服飾雑貨事業をM&Aした話①

Dさん人物紹介

今回のコラムでは、「サラリーマンが300万円で小さな会社を買う」サロンメンバーの2人が共同買収した事例を紹介します。

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彼らは、三戸さんの本を読んでから2ヶ月ぐらいで会社を辞めてサロンに入り、この共同買収を行いました。サイトが勧めるM&Aの形は、基本的にはひとりで100%の株を保有してオーナーシップを取ろうというものです。今回は共同買収で、サイトの勧める形とは違うものになりましたが、個人がM&Aをしたという観点では同じです。

彼らが一体どのような経緯でM&Aしてきたのかを今回は、メンバーの一人(Dさんとします)が語ってくれたので、それを見ていきたいと思います。

DさんのM&Aフロー

①ソーシング・売り手現状

(Dさん)

初めに、事業譲渡をした事業について少し述べます。この事業は、東京都にあり、古着の生地をリメイクして作る服飾雑貨の製造・販売を行うものです。加えて、この事業の特徴は、有名百貨店や有名商業施設での期間限定、ポップアップでの催事出店で販売するところにあり、この実績により、消費者にある程度、認知もされ、ブランド化もされていました。そのため、売上〇千万円、営業利益〇百万円弱を計上しており、従業員構成としては、正社員1名とパートが数名でした。この事業のオーナーである人が始めた別の事業が軌道に乗り、こちらの事業まで手が回らなくなったため譲渡したい、という案件で、サロンの掲示板にありました。

②M&Aするきっかけ

(Dさん)

この案件情報を、分科会(サロンの中にある1つのグループみたいなものです)の進捗報告会に参加していたHさんが最初に興味を持ちました。その後、交渉を開始することになりましたが、Hさんから「資金が集められない」ということで、私が相談を受け、この案件を知ることになったのが、この案件を知ったきっかけです。そして我々は、買収資金について、ほかのサロンメンバーも交えて相談した結果、サロン内に共同出資を呼び掛けることにしました。

私たちは、出資の参加条件を200万円以上として呼び掛けを行ったところ、3時間ほどで6~7人の応募がありました。そこでいったん締め切りましたが、結局その後も応募が殺到するぐらいの人気案件でしたね。

私たちは、その応募者の中から6人を選び、順次、秘密保持契約(NDA)を結んで、議論を開始させ、PLや出店先の情報などを共有してオンラインで議論し、必要な情報開示と質問事項の精査を行いました。 その後、その6人の中から最終メンバーとして、私とHさんとほか2人の計4人を選定しました。このときの選定理由は単純に多く出資してくれる人だからでしたね(笑)

③トップ面談

(Dさん)

この4人のメンバーで、さらに案件の精査を進め、売り手オーナーとのトップ面談を行いました。この面談には仲介会社もいたのでスムーズに進み、我々としてもかなりの手応えがあり、相思相愛という感じだったと記憶しています。ちなみにオーナーの希望価格は〇千万円でした。

トップ面談を受けて、メンバー同士でこのまま進んで大丈夫と判断し、DDまで進めようということで、事業計画やDDの内容をまとめました。しかし、「さあDDだ」というところで、出資に対する不安を持った1人のメンバーが抜けることになってしまいました。

④DD

(Dさん)

結局、残ったメンバーの3人で仲介業者立ち会いのもとDDを実行することになりました。DDでの確認事項はある程度まとめておいたつもりでしたが、いま考えると、このときのDDでは足りない部分が多々あったと思います。

その後、最終合意をして事業譲渡の契約日が決定しました。これで「やっと事業譲渡まで行ける」と思っていたら、またメンバー1人が体調不良となり、離脱してしまい、結局、残ったのは私とHさんの2人だけになりました。ですが、事前に譲渡日がすでに決まっていたので、それまでに、私は資金集めをやり直しながら、会社も設立しなければならないという状況に陥りました。そのため、バタバタな状態での事業譲渡日を迎えることになりましたが、なんとか無事に譲渡手続き、登記も済ませて、事業譲渡は完了しました。

こう振り返ってみると、かなりバタバタしていますね笑

DさんのM&A後について

⑤PMI-1

(Dさん)

続いて事業譲渡後の話をします。PMIをちゃんと事業計画を立てて実行していこうと思っていましたが、それがなかなか難しかったです。

そもそもとして、この事業の出店先は、催事のポップアップ店なので、収益が出るところと出ないところの差が大きいのが課題でした。そこでまず私は、それらを整理して、収益の高い店舗だけ継続して、低いところは切り、別のところへの出店を増やして、平均出店数は増加させるという事業計画を立てましたが、結果は大きくズレてしまいましたね。

具体的には、譲渡前には、常設の店舗がありましたが、そこは赤字だったので、譲渡の段階で閉鎖することにし、常設店で働いていたスタッフをポップアップ店舗に回そうと考えていました。しかし、常設店のスタッフは、ポップアップ店に通勤すること、それも期間によって変わるという働き方を受け入れてくれず、辞めてしまいました。その結果、スタッフ減少で、店舗に回せるスタッフがいなくなり、派遣社員で補おうという案も、社員が「派遣では売れない」と大反対をしたことで叶わず、1店舗しか出店できない状態になってしまいました。

これはかなり失敗しましたね。

社員がやめてしまう、というのは、前回の事例紹介である「父親から承継した水産物販会社を3社のM&Aによって立て直した話」でも見られましたね。後編では、この話をしてくれたDさんが一体どのように課題解決に取り組んだのか、今後展望を抱いているのか、ということに加えて、三戸の質疑応答で、より話を掘り下げていこうと思います。ぜひご覧ください。

後編はこちらからご覧いただけます


記事監修

三戸政和(Maksazu Mito)

2005年ソフトバンク・インベストメント入社。兵庫県議会議員を経て、2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行う。


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