事業承継特別保障制度を利用して、小規模製造業を引き継いだ事例➁

Mさん人物紹介

今回のコラムでは、「サラリーマンが300万円で小さな会社を買う」サロンメンバーの一人であるMさんのスモールM&A買収劇の後編を紹介します。

前編はこちらからご覧いただけます

彼は、事業承継特別保障制度を利用し、個人保証を解除することによって、後継者がいない北陸地方の小規模製造業を引き継ぎました。現在はまた別の製造業の案件を引継ぎセンターから紹介してもらって、さらなるM&Aに向けて交渉をしています。

彼が一体どのような経緯でM&Aをしてきたのかについて、今回のコラムでは見ていきたいと思います。

MさんのM&Aポイント

(*急に、事例紹介の続きが始まりますので、是非前編をご覧になってからお越しください)

⑤資金調達

今回のM&A取引でのポイントはやはり事業承継特別保証制度なので詳しく見ていきましょう。この制度は簡単に言えば、事業承継前に申請をして、オーナーの個人保証を解除するための制度になります。Mさんは、既存の借入の借換えとニューマネーの借入の両方でこの制度を使い、「旧経営陣が手続きをして、県の信用保証協会の保証を付けることで、オーナーの個人保証を外すことができる」というような流れを作り出しました。結局、その状態になったものを、Mさんが引き継ぐことで、Mさんの個人保証が外れることになりました。

もう少し簡単にいうと、保証協会が保証をして、Mさん自身の個人保証はなく、保証協会の保証だけで丸々借換えができたということです。ちなみに、金融公庫の〇百万円の融資は、Mさん個人で借りた形だそうです。

しかし、事業承継特別保証制度を使うには、「承継前に手続きをすること」・「資産超過であること」・「EBITDA有利子負債倍率の数字」・「法人と個人の財布の分離」などの条件があります。また、借入の返済の緩和は一切ないので気を付けましょう。ちなみに、信用保証協会の保証を受けるには、保証料が掛かりますが、経営保証コーディネーターの確認を受ければ、それが大幅に減額されるということも覚えておきましょう。Mさんも確認を受けて減額してもらったそうです。

この事業承継特別保証制度は、経営保証コーディネーターと同じ、令和2年の4月から始まったものです。なので、Mさんの案件への制度適用が、その県では初めてらしく、県も銀行もやり方が「よくわからない」ということで、チェックシートを見ながら、チグハグと進めて行っていったそうです。そのチェックシートの項目には、「事業承継計画書があるかどうか」・「決算書の中身がどうか」・「試算表や資金繰り表がどうか」などといったようなものが存在し、それらをチェックして〇×を付けるというもので、Mさんの場合は、「経営者が事業活動に必要な資産を有していない」というところが×になりました。これは前編でも述べた通り、会社の土地の中に個人名義の土地があり、それを賃貸などのきちんとした手続きを取って使用していなかったからです。(結局、事業引継ぎセンターから×がついたらちょっと困るといわれたので、事情を説明してお願いをしたら、総合判断で〇にしてもらうことができたらしいです笑)

また、Mさんの場合、融資に関しては、6月に株式取得資金向けに公庫さんに申し込みをして、コロナもあったので時間的に厳しいとは言われたそうですが、2週間くらいで融資が実行されました。また、事業承継特別保証制度を使った地銀の方は、最初、銀行もやり方がわかっていなくて、とりあえずMさんが借入申し込みを作成しましたが、旧経営者でやらなきゃいけないということがわかって書き直しをしたそうです。そこも時間のロスになり、保証協会も慣れていないので、審査にかなり時間がかかり、さらに、本部とやり取りをしながらチェックをして、その都度、いろんなことを聞かれることになり、それでもなんとか2~3週間くらいでやったそうで、結局、審査が終わった後に銀行で決済ということになりましたが、そこでも時間が掛かったので、融資実行にはとにかく時間が掛かるということを念頭に置いておかなければいけない、とMさん実感したそうです。

なお、金利、公庫の株式取得資金については事業承継の活性化融資を使ったので特別金利で実施されました。地銀の人は会社の過去のこともすべて知っているので、融資方法の中でも一番高い金利にしようかという話も出たそうですが、結局、それよりは少し下がって〇%にしてもらいました。ちなみに、ほかの銀行からは、保証付きなのにその金利はちょっと高いですねと言われたそうです笑

Mさん自身の学び

最後に、Mさん自身に今回の学びと次に向けてを少しお話ししてもらいました。

(Mさん)

今回私がM&Aをしてみて感じたことを7点お話しさせていただきます。

まず1点目。事業承継特別保証制度はなかなか有効な制度だということです。県の経営支援課では「これからは経営者の個人保証を外すのは当たり前で、絶対大丈夫だから頑張れ」みたいなことを言われました。実際にやってみるとそんなに簡単ではなかったですが、有効な制度だというのは間違いないです。

2点目。小規模の会社というのは書類の記録がほぼないので注意が必要ということです。今回は社長もいないケースだったので、全然わからないみたいなことが多くありました。

3点目。数字はいまの数字だけを見て判断するべきではないということです。過去の数字は、銀行の融資に影響するし、買った後の数字は変わるし、変えられます。将来の数字については自分の持つシナジーも含めて、詰めて考えるべきです。

4点目。県との連携、とくに事業引継ぎセンターと連携するのは有効だということです。

5点目。今回はひとつの地銀一本でやってしまいましたが、やはり別の銀行などのオプションがあればよかったということです。融資計画を立てておくことが重要だと思います。

6点目。新しい制度というのはどこも慣れていないので気を付けようということです。今回は手探りすぎて、スケジュール的には余裕を持って進めませんでした。

7点目。社長がいるのといないのとでは交渉は全然変わってくるということです。最近、私は別の案件で、思いの強い社長がいる会社と交渉をしているので、前回とは全然違うなと実感しています。

Mさんへのインタビュー

(質問1)株主数を減らしたり、取締役会を非設置にしたり、どうやって進めたのか?

(Mさん)実は、私は全然やっていません笑。ほぼすべて顧問の方が調整してくれました。小さな会社なので、それぞれの株主さんにちょっと説明をして、ハンコは会社にあるので、全部押して終わりみたいな、そんな感じで済ませていました。ちなみに、顧問の方は、銀行に10年ぐらい勤めた後、この会社に2、3年くらい勤めた人で、会社を辞めた後、経営コンサルタントみたいなことをやっている人でした。

(質問2)この案件を選んだ一番の理由はなんだったのか?

(Mさん)実は他の案件というのはありませんでした。近県も含めていろいろと地元を回ったり、トランビやバトンズも見て探したりしたのですが、地元の製造業の案件がまったくなかったです。それで、よくよく聞いてみると、製造業はトランビみたいなところに案件を出さない、引継ぎ支援センターにいっぱいあるよという話を聞いて、引継ぎ支援センターに行きました。でも私は、個人なので、個人で製造業を買うというとやはり抵抗があるし、業績のいいところの価格は億単位でしたね。個人は、飲食店やレストランでしょみたいなこともいわれましたが、資金も公庫さんが貸してくれるんで大丈夫ですみたいな話をして、結局、規模感などからセンターが紹介してくれたのが、この案件でした。

(質問3)返済のリスケジュールは具体的にどうなったのか?

(Mさん)既存の借入の〇千万円をあと3年で返済する予定でしたが、9年返済に変えました。リスケ前は、月に〇百万円も返済するというものでしたが、現金は〇百万円しかないし、営業利益も〇百万円、減価償却費も〇百万円くらいでしたので、合わせても全然足りず、そのままではお金がどんどん減っていって破綻という状況でした。それを1回の返済額を3分の1くらいに減らして、年間〇百万円を返済する計画に変えました。

(質問4)もう一度確認すると、会社の借入に関しては保証協会が保証をしているだけで、一切の個人保証はないのか?

(Mさん)はい。事業承継特別保証制度というのは、そもそも経営保証コーディネーターに相談をして経営者の個人保証を外していくというプロセスで、パンフレットにはその流れが掲載されています。これから利用される方はこの流れに則ってやればいいと思います。今回の私のプロセスは、通常とは違って、経営保証コーディネーターからは確認を受けただけでしたね。

(質問5)会社の将来のビジョンは?

(Mさん)この会社は、やっぱりちょっと苦しいし、鉄鋼業なので斜陽産業だし、先の見通しはあまり良くないです。だから、もう少し付加価値の高いモノづくりをやっていきたいと思っています。でも、そういうモノづくりをするには人がいるし、設備や建屋はお金で買えるが人は買えないし、育てるのにも時間が掛かるので、また次、M&Aをやるしかないかなと思っていますね。

(質問6)法務デューデリも全部自分でやったのか?

(Mさん)はい。全部、自分でやりました。とはいえ半分素人の仕事ですね。

以上のようにMさんの体験談を見ていきましたが、いかがだったでしょうか?

このように、これからもいくつか実際に会社を買った人の体験談やインタビューコラムを増やしていきたいと思うので、チェックお願いします。


記事監修

三戸政和(Maksazu Mito)

2005年ソフトバンク・インベストメント入社。兵庫県議会議員を経て、2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行う。


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