事業承継特別保障制度を利用して、小規模製造業を引き継いだ事例①

Mさん人物紹介

今回のコラムでは、「サラリーマンが300万円で小さな会社を買う」サロンメンバーの一人であるMさんの個人M&A事例を紹介します。

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彼は、事業承継特別保障制度を利用し、個人保証を解除することによって、後継者がいない北陸地方の小規模製造業を引き継ぎました。現在は、また別の製造業の案件を引継ぎセンターから紹介してもらって、さらなるM&Aに向けて交渉をしています。

彼が一体どのような経緯でM&Aをしてきたのかについて、今回のコラムでは見ていきたいと思います。

個人M&Aを思い立ったきかっけと案件ソーシングのプロセス

①M&Aするきっかけ

Mさんは、30年間大手重工業メーカーにて航空宇宙分野に携わってきた、50代半ばの男性です。彼は、モノづくり系で地元の製造業に貢献したいと考えている中、前社長が他界して後継ぎがいなく、弟が代表取締役になった今回の会社の紹介を受けました。この会社は、経営未経験の弟が引き継いだ要因もあり、多額の債務を抱え、破綻懸念先といわれていた上、コロナウイルスの影響でさらに経営が厳しくなっていました。

②案件ソーシング・対象会社の状況

もう少し、この会社について説明すると、この会社は〇〇製作所といって、北陸地方の〇〇県〇〇市にあり、塗装や組み立てだけでなく、産業用の部品の加工の一部を請け負っている小規模の製造会社です。従業員は、工場が7名・事務が1名の他に、役員が4名いて、このうち2名は非常勤役員でした。会社自体、取締役会設置会社(定款で取締役会を置くと定めた会社)という形態で、たくさん役員がいたので、M&A後の手続き後に、取締役会を置かない非設置に変更してもらったそうです。資本金は〇千万円で株主は10数名と比較的多かったので、これも後の手続きで、株主を5名に集約してもらい、そこから引き継ぎをする形にしたそうです。

また、会社のある土地が○○平米で割と広かったのですが、その所有権の半分が会社、半分が個人にあり、これが後々ケチのつくことになりました。

財務的には、「ちょっと前には厳しい状態がありつつも、現状良くなりつつある」という感じで、当時は売上高が〇千万円ぐらいで、営業利益が〇百万円くらい、ここ4年間は営業黒字でした。

しかし、地銀からは破綻懸念先とされている上に、引き継いでいた弟さんも70才を過ぎていたので、リスケもできない状態であったことに加えて、この会社自体はこのままいくと、年末には破綻してしまう可能性が高かったので、去年の10月に引継ぎ支援センターに登録をしたそうです。

Mさん側の流れとしては、昨年11月に引継ぎ支援センターの人材データベースに登録をし、センターから仲介を受けて、この会社を知りました。

③トップ面談・基本合意

Mさんは、昨年暮れに会社訪問をして、トップ面談をしました。そして、年明けの1月にも訪問・調整をして、3月に基本合意をしました。

売り手の希望としては、「個人保証を外すこと」・「個人所有の土地を会社が買いあげること」・「6月決算なのでその数字を見て遅くとも8月末にはクローズをしたい」というものがあったいうことだったので、それに対して、Mさんは、「いろいろと整理をして引き継げる状態にしてもらえれば、そのスケジュールで進めていい」と伝えました。形式としては、基本合意を6月の決算の数字を見てから、〇百万円を限度に時価の純資産で譲渡金額を決め、8月末に譲渡する予定で手続きを進めて行いました。

MさんはDDは一人で!?

④DD

Mさんは、ディール途中に、引継ぎ支援センターだけでなく、県の経営支援課にも相談に乗ってもらいました。そして、そこで、公庫の融資を受ける手続きの内容や特別保証制度の利用に必要な申請書類などのアドバイスをもらい、「公庫にお金を借りるためには、経営承継円滑化法の認定が必要だが、その認定は会社のある県ではなく、住民票があるところでも認定を取ることができる」などといった今回のポイントを教えてもらいました。かなりお世話になったそうです。

次に、Mさんは、4~5月にDD(デューデリジェンス)をやりましたが、そこで資金繰りに問題があることがわかり、借入金の返済をストップして、引継ぎも7月に早めようということにしました。それで、6月に公庫と地銀の融資と事業承継特別保証制度に申請をして、経営保証コーディネーターの確認を受け、公庫からは融資を実行してもらいました。7月に入り、経営者を変える登記をしようというところで、事業承継特別保証制度を使うには旧経営者が全部手続きをしないといけないことがわかり、登記は直前で取りやめることにしたそうです。それで、会社の方で事業承継特別保証制度の手続きを進めてもらって、経営者保証協会の特別保証審査も完了し、7月下旬に地銀から融資をしてもらえました。

これらのDD全体は、コンサルタントにも相談したところ、50~100万くらいかかると言われたので、半分素人仕事ながら、自分でやるかということにしたそうです。ここがすごいですよね。具体的には、Facebookなどでも推薦図書として紹介されている書籍を使ったそうです。Mさんにとって一番役に立ったのが、中央経済社の「事業デューデリジェンスの実務入門」だそうで、この本のサイトでデューデリのレポートフォームがダウンロードでき、それを使ってレポートを作っていったそうです。ぜひご覧になってください。

また、DDをすすめながら、譲渡の条件を調整しつつ、株価の確定をさせていきました。DDでは、借入金が多額なこと、設備更新や簿外債務の処理の必要性も見えました。このまま9月に借換えを実行するのでは資金的に行き詰まることがわかっていたので、4月から借入金の返済をストップして、融資と引き継ぎを前倒しすることにしました。株価は、3月時点の財務情報をベースに債務免除を含めた時価純資産法で計算することにして、資産はいろいろとありましたが、最終的には株価〇百万円という形で折り合いました。

全体的な数値感としては、オーナーの役員借入が〇千万円くらいあって、地銀からの既存の借入が〇千万円あったそうです。銀行借入についてはすべて借換えをすることにして、さらにニューマネーで〇千万円を借りることにして、地銀からの合わせて〇千万円の融資について、事業承継特別保証制度を使い、加えて公庫からは〇百万円を借りて譲渡代金に充てました。

この話は後編へ続きます。彼は、どのように新制度を利用したのでしょうか?

後編はこちらからご覧いただけます


記事監修

三戸政和(Maksazu Mito)

2005年ソフトバンク・インベストメント入社。兵庫県議会議員を経て、2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行う。


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