なぜ個人M&Aに注目すべきなのか?個人M&Aの手法、メリット・デメリットをわかりやすく解説。

昨今、サラリーマンや個人投資家の間で「個人M&A」が話題になることが多くなってきました。従来は、企業同士の吸収合併の一手段として語られることが多かったM&Aですが、紹介業態の変化などもあり、将来への自己投資の一環として、個人でも挑戦する人が出始めています。ですが、その実態を把握しかねている方も多いのではないでしょうか。まずは個人M&Aの概要から、説明していきましょう。

個人M&Aとは?

個人M&Aとは、少額の会社を買収する方法を指します。別名「スモールM&A」「マイクロM&A」とも呼ばれることもあります。取引規模としては、売買価格が数百万円から一千万円程度のM&Aを指すことが多いです。

近年、個人M&Aの事例が増えてきた背景には、次のような理由があります。

  1. 経営者の高齢化による事業承継ニーズの増加
  2. M&Aマッチングサイトなど、新しい形態の仲介事業の誕生
  3. 企業だけでなく、個人が買い手となる事例が知られるようになった

中小企業経営者の高齢化や、60代以上の個人事業主の増加など、これからは、多くの事業主が廃業を迎える時代です。そのため、従来の身内承継にこだわらず、事業を引き継いで欲しいというニーズも増えてくるでしょう。

一方、サラリーマンの働き方も多様化し、副業として個人事業主やフリーランスとして働く人も増加傾向にあります。起業についても、近年は新規の起業件数自体はやや減少傾向ですが、いずれ起業したいという人は後を絶ちません。双方の需要に応えるかのように、事業の買い手と売り手を結ぶM&Aが、個人と中小企業の間でも、活発化していると言えるのです。

個人M&Aで買う会社の規模感とは?

M&Aのマッチングサイトで紹介されている会社の売却価格は、数十万~数千万円程度と、金額設定も幅広く設定されています。
たとえばサラリーマンの場合、給与が主な収入源であるため、予算には限りがあります。ですが、売却価格が数百万円であれば、個人でも手が出せると感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

実際に、脱サラや独立起業の手段として、サラリーマンが会社を買収するケースも増えてきています。一例として、実際にM&Aのマッチングサイトで紹介されていた事例を見てみましょう。

東京都内にあるコンセプトカフェの居抜き譲渡

売上高 1000万円~3000万円
希望譲渡価格 220万円
地域 東京
従業員数 15名
備考 SNSに力を入れており、Twitterでの集客や採用ができている

2021年8月頃に内装を改装済み

譲渡対象 事業譲渡(建物・付属設備、取引先、従業員)
譲渡に際して最も重視する点 スピード

この案件は、希望譲渡価格は220万円に設定されており、サラリーマンの貯金でも手が届く範囲です。また、ECサイトを利用したネット販売事業なども、比較的安価で売りに出される傾向が見られます。

参考:BATONZ(バトンズ)「【内装改装済/SNS運用◎】キャストの採用力が強いコンセプトカフェの居抜き譲渡」

国内・海外ECサイトを利用したネット販売事業の売却

売上高 1000万円~3000万円
希望譲渡価格 300万円
地域 東京
従業員数 3名
備考 フィルムカメラを中心に、国内・海外ECサイトで販売する事業。中古市場で仕入れたカメラを清掃・検品し、場合によっては簡単な修理を行った上で販売する。
譲渡対象 会社譲渡

このように、金額面だけを考慮すれば、M&Aは決して企業だけの話ではないことがわかります。

参考:BATONZ(バトンズ)【1日1時間〜】国内・海外ECサイトを利用したネット販売事業の売却

 

個人M&Aのメリットとは?

M&Aに何らかの魅力を感じなければ、数十万円、もしくは数百万円も投じて個人M&Aを行おうとする人は、いないでしょう。将来への自己投資として個人M&Aを成功させるのであれば、まずは、個人M&Aのメリット・デメリットを把握することが大切です。

会社のもつ事業を買うことができる

個人M&Aのメリットの一つは、会社の持つ事業を、個人でも購入できる点です。独立開業を目指して新規事業を立ち上げるには、膨大な時間やコスト、労力を投資しなければなりません。M&Aというと、会社を丸ごと買収するイメージを持たれがちですが、売り手側が事業の集中を目的として、特定の事業を売りに出している場合も多いものです。

買い手側としても、会社の事業購入には、以下のようなメリットがあります。

  • 短期間、かつ低リスクで新規事業を始められる
  • 人材育成や商品開発などにかかるコストを抑えられる
  • 数字には現れない、販売や仕入のノウハウ・商品やサービスのブランド価値など、無形の資産を引き継げる

副業に理解が広まりつつある現代において、サラリーマンなどが副業として、別の事業を営んでいるケースも多いものです。そのような場合でも、個人M&Aを利用して新規事業に挑戦すると、通常の起業よりも途中プロセスをカットできるため、ローコストかつ短期間で成果を上げやすいと言えます。

従業員もそのまま引き継ぐことができる

中小企業のM&Aにおいては、従業員の雇用を引き継ぐケースが一般的です。中でもキーマンやベテラン社員が残っていれば、業界未経験のサラリーマンが経営に乗り出しても、大いに助けになってくれることが期待できるでしょう。

優秀な人材の確保は、今後難しくなっていくと予想されています。新卒採用の難易度も上がっており、採用できたとしても、教育や育成には長期間を見込まなければなりません。

個人が新規事業に乗り出す際には、その人自身が人材募集やノウハウを確立するところから始めなければならず、途方もない労力が掛かります。
M&Aでの人材確保は、その業種における知識や経験を役立ててもらえるため、積極的に社内に残ってもらえるように図ると良いでしょう。

具体的には、最終契約締結前に面談を実施するなど、M&Aについて理解を得た上で、進めることも検討するべきです。

起業よりも簡単に迅速に事業を築ける

起業の際には、技術やノウハウの取得が必要不可欠です。また、競合の存在も念頭に置かなければならず、競合より優れた技術やノウハウ獲得には、長い時間がかかります。独立起業の難しさの一つは、この点であると言っても良いでしょう。

一方、それらを最初からクリアできるのは、M&Aのメリットの一つです。加えて、ブランドが最初から確立されている点も見逃せません。新たな市場で自社ブランドを確立させるのは長い時間がかかります。

ですが、その業界で確立した既存のブランドをM&Aで取得できれば、既存の顧客・取引先との人脈、業界内・物流などあらゆるネットワークを最初から手に入れられるのです。

行政上で必要な免許などの許認可も、所定の手続きを経て引き継ぐことができるため、ゼロから自身で起業するよりも、ローコストで事業に乗り出せます。

個人M&Aのデメリットとは?

一方、個人M&Aは一定のリスクも孕んでいます。仲介会社やM&Aマッチングサイトの担当者に勧められるままに話を進めると、買い手自身も財産を失う恐れがあるだけでなく、買収先と共倒れになりかねません。

個人M&Aの失敗要因として考えられるのは、「買収後に簿外債務が発覚した」「買収後に発覚した問題からトラブルが広がった」などのケースです。個人M&Aにはどのようなリスクがあるのでしょうか。以下、デメリットについても紹介します。

簿外債務の恐れ

簿外債務とは、本来は帳簿に記載されていなければならないのに、記載されていない債務を指します。中小企業においては、簿外債務を抱えているのは珍しくありません。

具体的には、

  • 仕入や費用の計上漏れ
  • 貸倒引当金
  • 未払残業代・未払賞与
  • 退職給付債務
  • その他偶発債務の発生

などが考えられます。

M&Aが成立して前の起業から引き継ぐのは、このようなマイナスの資産も含まれます。場合によっては、引き継いだ会社宛に訴訟を起こされると、引き継いだ人も損害賠償義務を負わなくてはなりません。

また、簿外債務が投資額を上回る場合には、投資回収の負担が大きくなり、回収しきれなくなる恐れもあります。これらのトラブルを回避するには、専門家と共にデューデリジェンスを実施、表記保証条項の設定、事業譲渡の選択などを視野に入れると良いでしょう。

表記保証条項は、契約目的物の内容が正確、かつ真実であることを売り手に保証させる条項です。契約違反が発覚した場合、相応のペナルティを負わせることが可能ですから、売り手側に真摯な対応をしてもらいやすくなります。

M&Aのスキームのうち、特定の事業のみを買収する方法を、事業譲渡と言います。多くのM&Aは株式譲渡の形で行われますが、この方法を取ると、負債を含め、対象会社の全てを引き継がなければなりません。

一方、事業譲渡は不要な負債や契約を除外して買収できます。株式譲渡より手続きは煩雑ですが、簿外債務のリスクは低減するので、損害は少なくて済むでしょう。デューデリジェンスについては、後段で説明します。

買収後に発覚した問題によるトラブル

個人M&Aでは、決して失敗したくないものです。ですが、契約締結前にどれほど注意していても、思わぬトラブルが発覚し、負債を抱えることもあり得ます。買収後に発覚する問題としては、次のようなものが考えられます。

買収先企業とのミスマッチ

M&A仲介会社に企業買収の意思を伝えると、希望条件や譲渡金額に適した企業の買収を打診されることがあります。ただし、仲介会社によっては売り手企業に対する理解が浅いケースもあり、中には、何件も断られた買収案件が持ち込まれるケースも。そのような案件は、何かしらのトラブルを抱えている可能性を考慮するべきです。

仲介会社の情報に違和感や不信感があったら、即断即決は避けましょう。

M&A後の偶発債務の発覚

偶発債務は、現時点では債務として確定していなくても、過去の取引や事由を条件として、将来確定する可能性のある債務です。

具体的には、

  • 第三者の債務保証
  • 訴訟による損害賠償債務
  • 未払い賃金
  • デリバティブ取引
  • 割引手形・裏書手形

などが考えられるでしょう。これらも、デューデリジェンスの際に存在していないかどうか確認し、取引にどれだけ影響を及ぼすか、専門家としっかり話し合ってください。

個人M&Aの具体的な流れ

個人M&Aを進めるにあたっては、そのプロセスを把握しなければなりません。M&Aの具体的な流れは、次のような手順で進められます。

  1. 買収案件の発掘
  2. 基本合意契約
  3. デューデリジェンス
  4. 事業計画
  5. スキームの選択
  6. 最終合意契約

以下、それぞれの内容について、詳しく解説していきます。

買収案件の発掘

個人M&Aを行う際には、事前準備として、以下のことを検討しなければなりません。

予算

買収のためにいくら用意できるのか、自己資金を確認しましょう。この資金の中には、M&A仲介会社への手数料なども含まれます。

業種

自分が経営してみたい業種、運営していけそうな業種、業績向上が見込める業種など、多角的な視点から検討しましょう。

大まかな方針が決まったら、会社探しに入ります。多くのM&A仲介会社では無料相談を行っています。会社によって紹介できる案件や手順の進め方が異なるので、複数の会社と話し合い、自分に合っていると感じる仲介会社に依頼するのが良いでしょう。

M&A仲介会社と業務依頼契約を締結した後は、仲介会社が買収先候補会社の絞り込みに入ります。多くの場合、複数の候補リストを渡されるので、入念に検討しましょう。無理にリストから候補企業を決めなくても構いません。

この段階では、先方の社名などが匿名となっているノンネームシートの状態でしか資料閲覧ができない点に、注意してください。

基本合意契約

買収先の候補が決まったら、M&A仲介会社などを通じて、先方の意向を確認します。先方が交渉を希望する場合には、秘密保持契約書(NDA)が締結されます。NDAを締結することで、先方の社名を含めて、経営状況などの情報開示の局面に移行するのです。

NDAは、互いの機密情報を第三者に無断で漏洩しない旨を取り決めた契約書。情報の取り扱いルールや契約違反の場合のペナルティなどを含めるので、法的効果を持ちます。

この際の条件交渉は、多くの場合、仲介会社が代行します。仲介会社と契約していると、金額交渉などを当事者が行わなくて済むので、初心者の心理的にも、交渉のハードルが下がるでしょう。

また、条件交渉とは別に、買収先候補の経営トップと面談を行います。そこで、従来の経営ビジョンや売却の理由、会社の社風などを確認して、買収の妥当性の判断材料を増やしていきます。

双方の大まかな条件が合意したら、基本合意書締結のフェーズに入ります。この時点では、基本合意契約書は、合意内容の確認書に過ぎません。一部の項目を除き、法的拘束力を持たない点に注意してください。

基本合意書で法的拘束力を持つ重要事項は、「独占交渉権」です。これは一定期間、売り手側に他の買い手候補との交渉を禁じることを意味します。このまま正式に成約まで持ち込むためにも、必ず条項として盛り込みましょう。

デューデリジェンス

デューデリジェンスとは、譲渡対象の企業に対する事前調査のことです。財務や法務・事業などさまざまな面から、譲渡対象企業の情報について確かめ、情報の信憑性や内容を精査して、買収に値する企業であるか検証します。

デューデリジェンスの目的

個人M&Aで成功するためには、調査対象を買収することで得られる相乗効果や、予想されるリスクの把握が欠かせません。そのために、数字には現れない点も含めて調査対象に含め、譲渡対象企業の実態を正確に把握して正確な企業価値評価を下すことが重要です。

デューデリジェンスの種類

デューデリジェンスの種類は、多様なジャンルに渡ります。主なデューデリジェンスは、次のようなものです。

  • 事業(ビジネス)デューデリジェンス
  • 財務(ファイナンシャル)デューデリジェンス
  • 法務(リーガル)デューデリジェンス
  • 税務デューデリジェンス

調査の結果次第では、M&Aスキームの変更を行うこともありえます。デューデリジェンスにかかる費用は、数十万円~数百万円と、幅があります。

個人M&Aを行う場合、予算が限られているケースがほとんどでしょう。その場合には、財務、税務の簡易的なデューデリジェンスに絞ることも考えられます。費用は、数十万円程度を見積もっておきましょう。

事業計画

会社や事業買収の際には、綿密な事業計画が欠かせません。事業計画書を作成するのは、買い手が一般的です。M&A後に経営の主体となるのは、買い手だからです。

買収される企業が事業計画を立案しても、採用される可能性は低いでしょう。むしろ買い手が作成することで、売り手にM&Aについて、自分のビジョンを伝えることで、その後の交渉の進め方が見えてきます。

買い手が事業計画書を作成する際には、次のようなポイントを抑えましょう。

売り手側の意向に沿った内容であること

M&A後の経営方針や運営方法が売り手側の意向に沿わないものであれば、落札の可能性が低くなります。個人M&Aを成功させるためにも、売り手の意向をしっかり確認しましょう。

デューデリジェンス内容の見直し

売り手側から事業計画書を提出され、それがデューデリジェンス前に作成されていた場合には、デューデリジェンス結果との整合性を確認するべきです。場合によっては、M&A価格の変更など、計画全体を再検討しましょう。

M&A価格の妥当性の検討

M&Aの価格は、見込みの数値が元になっています。デューデリジェンス内容の検討の結果を踏まえて、M&A価格の妥当性は、十分検討しなければなりません。

決算書などで確認できない企業価値の確認

買い手側から見た場合、相手から提出された報告書には、取引リストなど、今後の事業展開に価値があるものも含まれていることがあります。それらは、財務諸表などの数字だけでは判断できないものです。

また、利益率の低い部分なども含めて、専門家の意見を仰ぎながら判断しましょう。

双方がM&Aに前向きなのであれば、ヒアリングをしながら事業計画書を作成することもできます。コミュニケーションのきっかけにもなり、より具体的な計画を練り上げられますから、積極的に働きかけてみましょう。

スキームの選択

個人M&Aにおけるスキームは、次の2種類が考えられます。

株式譲渡

株式譲渡は、売却企業の株主が保有する発行済株式を、買い手側企業へ売却することで、企業を譲渡する手法です。株式譲渡のメリット・デメリットは、以下の点が考えられます。

メリット デメリット
  •  他の手続きと比較して、簡単に譲渡しやすい
  • 会社組織をそのまま残せる
  • 会社の資産は負債や従業員の雇用関係、第三者との契約や許認可も含めて原則存続する
  • 株主が個人なら、譲渡対価を会社ではなく個人に支払われる
  • 株主が個人ならば、譲渡所得に課される税率が原則一律20.315%と低い
  • 簿外債務や将来発生するかもしれない偶発債務を引き継ぐリスクがある
  • 株主が複数の場合、分散した株式をまとめるのに時間がかかる
  • 契約にチェンジオブコントロール条項がある場合、契約継続のための事前協議や交渉が必要な場合がある

株式譲渡は、手続きが簡単でメリットが大きいので、個人M&Aではもっとも多く利用されている手法です。

事業譲渡

事業譲渡は、売り手側企業が保有する全部の事業もしくは一部を買い手側に譲渡する手法です。事業譲渡のメリット・デメリットは、以下の点が考えられます。

メリット デメリット
  • 個別事業ごとに譲渡できるので、必要な事業や従業員を引き続き手元に残せる
  • 特定の事業のみを譲受できるので、簿外債務や偶発債務のリスクを回避しやすい
  • 株主が分散しているなど株式譲渡が困難な場合でも、株主総会の特別決議で実行できる場合がある
  • のれん相当額の損金算入が認められているので、節税になる
  • 債権者や従業員の同意が個別に必要
  • 第三者との契約や許認可などは承継されないことが多く、新規取得が必要
  • 20年間は同一または隣接する市町村の区域内で譲渡対象事業と同一事業を行えない
  • 税金負担が大きい(株式譲渡の税率が約20%であるのに対して、事業譲渡は実行税率約34%)

どちらの手法もそれぞれ一長一短がありますから、スキームの選択に悩んだら、M&A仲介会社の専門家などに相談すると良いでしょう。

最終合意契約

デューデリジェンスが完了した後は、最終交渉のフェーズに入ります。そこで条件合意となれば、最終契約書を締結します。実際には、M&Aスキーム名が付された株式譲渡契約書、事業譲渡契約書などの契約書名で締結されることが多いです。

仮にデューデリジェンスで何らかの問題が見つかった場合ですが、以下のような判断を下します。

  • 重大な簿外債務の見落としや隠蔽などの問題が発覚した場合には、破談にする
  • 発覚した問題に応じて買収額を減額するなど、条件を下げて最終交渉に臨む
  • 瑕疵が軽微であれば、買収条件は変更しないものの、最終契約書の損害買収請求条項を厳格化する

最後に、最終契約書に記された契約内容を履行して、クロージング、すなわち契約の終了となります。このフェーズで買い手側が取る具体的なアクションは、対価の支払や譲り受け資産の名義の書き換えなどです。

クロージングは何かしらの準備が必要になるので、最終契約書の締結日から、一定期間を置いて実行されるケースが多いです。

マッチングサイトを用いた案件探し

企業であれば顧問税理士や顧問会計士を頼ったり、仲介会社を通じて相手を探したりすることも可能でしょう。ですが、資金力やコネクションに限りのある個人で企業を同じ手法でM&Aの相手方を探すのは、限界があります。

ですが、現在では「M&Aマッチングサイト」を通じて、個人でもM&Aの案件を探しやすくなりました。案件の規模も、企業同士の売買と比べると少額の案件も登録されており、M&Aは、必ずしも個人の手が届かない話ではなくなっています。

ここからは、M&Aマッチングサイトの具体例やメリット・デメリットについてご紹介します。

M&Aマッチングサイトとは?

M&Aマッチングサイトサイトは、譲渡側と譲受側がそれぞれ会員登録することで、マッチングの機会を増やすことを目的としたプラットフォームです。仲介会社よりも利用料が安価である、相手方に直接コンタクトを取れるなどのメリットがあることから、個人M&Aでも利用が活発化しています。

プラットフォームのタイプについては、概ね「買い手募集型」と「売り手募集型」に分類できます。それぞれの契約締結までのフローは、次の通りです。

買い手募集型

まず売り手側が、M&A対象会社の特徴を匿名で登録します(ノンネームシート)。ノンネームシートに掲載される情報は、地域、業種、年少規模、従業員数、事業の特色などです。サイト運営会社は、売り手側から提示された匿名情報を、登録会員や非会員に対し、公開します。

次に、ノンネームシートを見た買い手は、サイト運営会社に対して、興味を持った企業へのオファーを依頼します。
サイト運営会社は売り手の同意を得て、買い手候補にM&Aの対象会社などの実名や資料を開示。その後、両者それぞれの立場から、M&Aプロセスをスタートするのです。

売り手募集型

買い手募集型とは逆に、買い手が「このような会社を売って欲しい」という要望を登録するサイトが、「売り手募集型」です。売り手は登録されている買い手の要望などを踏まえて、「この会社に買ってほしい」と思った会社もしくは人に、オファーを出します。

オファーを提示された買収の意向を示し、両者がマッチングに前向きになったら、M&Aプロセスの開始です。買い手募集型同様に、こちらも、サイト運営会社が仲介アドバイザーとなるケースが多く見られます。

M&Aマッチングサイトの紹介

次に、個人M&Aでも利用しやすいM&Aマッチングサイトを、3つご紹介します。いずれのサイトも、買収価格も比較的安価な案件が登録されており、全国のM&A案件が登録されているのが、特徴です。今後個人M&Aを検討されている方は、相場を把握する参考にしてください。

バトンズ

取扱い案件 全国全規模対応(8,000案件以上)
コスト 利用料:無料

成約時:買い手のみ2%(最低利用料金 税込27.5万円)

期間 平均3ヵ月(最短事例:1週間)
サポート 専門スタッフが無料で成約まで支援

バトンズは、プラットフォーム戦略が非常に充実しています。マッチングサイト自体も利用しやすく、M&Aに不慣れな人でも見やすいサイトです。買い手に対しては、「バトンズDD」や「M&A保険」を提供している点に、好感が持てます。

中でも「バトンズDD」は、買い手にとってハードルが高いデューデリジェンスについてのサービスです。実施方法や売り手側の協力態勢、提出書類のアドバイスを、バトンズが行ってくれるので、個人M&Aを行おうとする人には、心強いでしょう。

M&Aナビ

取扱い案件 394件(2022年9月末現在)
コスト サービス利用、着手金、成約手数料なし
期間 数ヶ月
サポート 着手金・中間手数料は一切なし(完全成功報酬制)

M&Aナビは、中小企業に特化したM&Aプラットフォームです。そのため、取り扱い件数はやや少なめですが、買収のオファーは平均16社と、積極的に利用されていることが伺えます。買収オファーからM&A完了までは数ヶ月で完了できるケースが多く、スピード感も魅力です。

交渉リクエスト、NDA契約の締結なども、オンライン上で完結。NDA締結後は、売り手と直接チャットでのやり取りが可能になり、仲介会社を通して交渉する際の歯がゆさがありません。

TRANBI(トランビ)

取扱い案件 M&A案件掲載数常時2000件以上
コスト 売り手:無料

買い手:M&A案件の閲覧、売り手への交渉申し込みは無料

→売り手からの返信閲覧時より、プレミアムプランへの加入が必要

期間 最短で1ヶ月の事例あり
サポート 着手金・中間手数料は一切なし(完全成功報酬制)
その他 今すぐ交渉できる500万円以下の案件も200件以上

未経験者によるM&A成約率:約75%

トランビの特徴は、サブスクモデルを採用している点です。もっとも、サブスクへの加入は売り手からの返信が来てからになりますから、会員登録のハードル自体は、低いと言えます。また、サイトでは「個人向けM&A」のみを検索することもでき、個人M&Aの規模感を把握するのにも適しています。

何よりも、業界最大級のサイトであり、2022年4月7日の時点で、利用登録者数は10万人を突破。買い手・売り手双方の登録者が多いので、自分に適した企業を見つけやすいでしょう。

M&Aマッチングサイトを利用するメリット

M&Aマッチングサイトの利用者が多いのは、以下のようなメリットがあるからです。具体的に見ていきましょう。

選択肢が豊富

M&Aマッチングサイトでは、プラットフォーム上で広く会員を募集します。そのため、売り手・買い手共に多くの企業会員や案件が登録されている点が、従来のM&A仲介会社と異なるのです。

選択肢が豊富だというのは、より自分の条件やニーズに適したM&Aの案件を見つけやすいということ。小規模なM&A案件も取り扱っていますから、サラリーマンからの転職組やサイドビジネス組でも、身の丈に適した案件が見つけやすいのです。

スピード感のあるM&Aが可能

マッチングサイトでは、成約までのスピードが早い案件も多く見られます。M&Aにかかる期間は、6~12ヶ月を見込むのが一般的です。ですが、案件かつ登録者数が豊富なマッチングサイトでは、その分競合も多く、よりスピーディに成約しやすい傾向があります。

売り手側が求める売却条件の中にも「スピード感」を求めているケースが多数見られますから、目まぐるしく情勢が変化する中で、利用価値が高いと言えるでしょう。

仲介会社を利用するよりもコストを抑えやすい

マッチングサイトは売り手と買い手の双方が登録しているので、相手を探したり連絡を取り合ったりする工程を、利用者自身で行います。その分仲介会社の手間が省けるので、中間コストダウンにつながっているのです。

個人M&Aのように十分な資金力がない人でも多くの企業にアピールでき、効率的なマッチングが望めます。

個人M&Aでは、資金力や労力の面では、どうしても大手企業に劣るものです。ですが、これらのメリットを最大限に活用することで、個人M&Aでも成功につなげやすくなります。

M&Aマッチングサイトを利用するデメリット

一方、M&Aマッチングサイトでは、一定のデメリットがあることも覚えておきたいものです。考えられるデメリットは、次のような点が挙げられます。

情報拡散のリスクがある

M&Aマッチングサイトでは、誰でも売買情報が閲覧できる「ノンネームシート」の状態で、企業情報が提供されます。企業名が非公開の状態で企業概要のみが掲載されるため、企業の特定はしにくいのも、売却側のメリットの一つです。ですが、限られた掲載情報から会社が特定される恐れも、ゼロではありません。

万が一、取引先や従業員らの関係者に事業譲渡計画が漏れると、反発されたり労働意欲が低下したりする危険性があります。
セキュリティの甘いサイトでは、悪意的な情報を流されるリスクも考えられるので、登録審査がしっかりしているサイトかどうかも注意するべきでしょう。

マッチングの相手探しが長期化しやすい

上記のメリットの「スピード感」と相反するようですが、仲介会社を利用するよりも、時間がかかるケースもあります。これは、会社名を記載しないノンネームシートでは、掲載内容が曖昧になり、買い手に対して、自社の魅力をアピールしにくいためです。中には1ヶ月と短期間でM&Aが成功した事例もありますが、一般的には、数ヶ月から半年を要する覚悟が必要です。

サポート内容がサイトによって差がある

M&Aマッチングサイトではコストが抑えられる反面、サポート内容にばらつきがあります。企業売買は契約書の作成や締結などの場面で、複雑な手続きを経て行われます。その際には弁護士などの専門家のサポートが必要ですが、基本プランのみでは、そこまで保証されていないサイトも多いものです。

サイトによっては、弁護士・公認会計士・税理士などのアドバイスがオプション扱いのサイトもあります。コストを重視する場合、オプションを避ける人も出てくるでしょう。コストは抑えられる反面、M&Aのプロセス上の難しい作業を、自分でやらなければならない覚悟が求められます。

マッチングサイトのデメリットを避けるには、それぞれのサイトの特徴を把握することが大切です。買収予定企業の情報だけでなく、各サイトがどのようなサービスを提供し、サポート体制がどうなっているのかも、比較検討してみましょう。

まとめ

個人M&Aを上手に活用すれば、単に自己資産が増えるだけでなく、今までの私生活にやりがいやメリハリを見出し、豊かな生活を送れるようになるでしょう。そのためには、個人M&Aのメリットやデメリットを理解した上で、会社を探し、自分に合ったパートナーを見つけなければなりません。個人M&Aに興味がある人は、単に流行に流されるのではなく、ぜひ、正しい知識を身につけて、個人M&Aと向き合ってみてください。

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