大阪のM&A・事業承継を解説。会社売却事例も含めてご紹介

大阪で新しく事業を運営・拡大したいと考えても、一から事業を立ち上げるには、資金や人材確保等の諸問題は避けて通れません。一方、譲渡側としても、個人経営の小規模な飲食店などは、後継者不足や経営者の体調不安などの問題を抱えているケースが多いものです。双方の悩みを同時に解決する手段の一つが、 M&Aです。大阪でM&Aを成功させるには、どのような戦略が必要なのでしょうか。まずは、大阪の産業の特徴から分析していきましょう。

大阪府の産業の特徴

大阪の産業の特色は、中小企業が多い点です。

都道府県 中小企業数 (うち小規模) 大企業 規模合計
東京都 413,408 336,759 4,508 417,988
大阪府 270,874 227,963 1,062 271,936

これは、2016年6月時点での中小企業の割合です。東京の場合、企業数全体に占める中小企業の割合は、98.9%。一方、大阪府の場合は99.6%と、東京よりも中小企業の占める比率が高いことが伺えます。見方によっては、合理精神が地域性として息づいており、起業精神が旺盛な街であるのが、大阪の大きな特色です。

創業者としては、後継者に起業精神を引き継いでもらい、自社を存続させたいと考えている人が多いものです。特に関西の中小企業はその傾向が強く、自社への愛着はもちろんのこと、地域やロータリークラブ、業界内でのつながりなど、周囲の目を気にしながら事業継承の道を探っているケースも、珍しくありません。

中小企業の活動が活発な大阪府

大阪府の中小企業の経済活動は、どれだけの利益を生み出しているのでしょうか。一例として、大阪の中小企業のベース付付加価値額を基準に考えてみます。

  中小企業 (うち小規模) 合計
都道府県 付加価値額(億円) 構成比(%) 付加価値額(億円) 構成比(%) 付加価値額(億円)
東京都 310,983 30.6 61,949 6.1 1,016,671
大阪府 125,554 52.2 30,157 12.5 240,679

参考:総務省・経済産業省「平成28年経済センサス活動調査」

会社ベース付付加価値額とは、簡単に述べると、売上から経費を差し引いた額を指します。上記の表からは、東京全体の付加価値額に占める中小企業の付加価値額の比率は、30.6%。それに対して、大阪は52.2%ですから、大阪においては、中小企業の経済貢献度は、非常に高いと言えるでしょう。

さらに、飲食店などに代表される小規模経営の企業の比率も、大阪では12.5%を占めています。このデータからは、大阪は、大企業だけに頼らない土壌があると考えられます。

大阪の中小企業は親族間譲渡に限界が

後継者不足

親族間承継は、必ずしも後継者候補が望んでいるとは限りません。その理由としては、以下のようなケースが考えられます。

  • 後継者との対話不足
  • 経営者が十分な後継者教育を行わなかった
  • 相談できる専門家が身近にいない

後継者不足は、 M&A検討の理由として、頻繁に挙げられます。上記のような事情があれば、第三者への承継も視野に入れるべきでしょう。

会社への思い入れが強すぎて、身内以外に譲るケースを考えない

自分が立ち上げた会社に対する愛着が強すぎて、他人に売るのは恥ずかしいと考えている創業者は、少なくありません。はなから M&Aに消極的な場合、情報収取が不十分で M&Aのタイミングを逃してしまい、倒産につながる可能性が出てきます。また、周囲の目を気にする余り、同じ地域の同業者から買収される事を恐れ、 M&Aに踏み切れないという話も多いものです。

M&Aに対する誤解

そもそも M&Aに対する知識不足から、会社の一切合切を譲渡しなければならないという誤解も、広く蔓延していると考えられます。一口に M&Aと言っても、従来の救済型(事業再生型)の他に、創業者の利益確定や起業家によるイグジットなど、プラス効果を期待して M&Aを行う場合もあります。M&Aは必ずしもネガティブなものだけではないことを、認識したいものです。

大阪ではM&Aや事業継承についての専門家が不足

大阪エリアには、まだ個人経営の会計士や弁護士が多く存在しています。経営者自身が2代目3代目の場合、先代から長い付き合いであり、そのために全面的に信頼しているケースもあるでしょう。ですが、 M&Aの場面においては、会計やリーガル面の専門知識の他にも、次のような能力が求められます。

  • シナジー効果がより高い、買手企業を見つける情報力
  • 企業をより魅力的に伝える分析力及びプレゼン力
  • 事業計画書の作成など、細かい部分にも対応できる専門知識を有するマンパワーを備えているアドバイザーが在籍

これを従来の個人事務所に頼ろうとするのには限界があります。また、 M&A成功に求められるポイントの一つが、「スピード感」です。双方が納得できる形で素早く M&Aを成功させるには、まずは、 M&Aに精通した専門家に相談するのがベストです。

大阪府でM&Aを実施するメリット

従来の大阪では M&Aに否定的な人が多いと言われてきました。ですが、近年の感染症流行の影響などを受けて、その風潮が変化しつつあります。まず、買収側のメリットとしては、スピード感のある買収を実施することで、事業拡大の時間を大幅に短縮できます。既存事業拡大や新規事業の立ち上げには、膨大な時間とコストがかかります。 M&Aを利用するともろもろの時間が短縮できる上に、従来の設備や人材を引き継ぐことが前提なので、コストダウンにもつながるのです。次に、売却側のメリットについて、検討します。

M&Aでスムーズな事業承継を

近年、 M&Aに対する認知度が上がり、企業の利用も活発化しています。2019年には全国で4,088件の M&Aが成立し、過去最高水準を記録しました。2020年は感染症流行の影響もあり、やや減少しましたが、依然高水準で推移しています。 M&Aについては未公開の案件も存在することから、国内の M&Aはさらに活発化していると推察されます。また、10年前と比較すると、 M&Aに対するイメージが向上している点も、見逃せません。

東京商工リサーチが実施した「中小企業の財務・経営及び事業承継に関するアンケート」では、経営者年齢が若い企業ほど、 M&Aに対して好意的に捉えていることがわかります。後継者となるべき若い世代は M&Aに抵抗がありませんから、良い案件は、すぐに商談が成立するでしょう。

また、都市部と地方では事情が異なるのではないかという懸念もありますが、上記のデータでは、買収側・売却側のいずれも、 M&Aに対するイメージはプラスにとらえられていることが伺えます。 M&A市場が拡大しつつありますから、相手方の本拠地にこだわらない度量も必要です。

M&Aで従業員の生活も守られる

M&Aで得られるメリットの一つは、従業員の雇用を守れる点です。中小企業に従事するそれぞれの従業員は、お客様や取引先、販売先などと深く関わっていることが多いものです。従業員の雇用を守ることは、地域経済を守ることにもつながります。そのため、従業員が抱く不安は、できる限り解消したいものです。

従業員が M&Aに対して抱く不安は、以下のようなケースが考えられます。

  • 離職の可能性
  • 待遇変化の可能性
  • 人事の入替えなどにより、人間関係に軋轢を生じる可能性
  • 給与面・退職金の取り扱い

これらの不安については、事前に自社に最適な M&Aのタイプをリサーチしたり、 M&A仲介会社のコンサルタントを受けたりすることで、ある程度回避できます。M&Aの情報が漏洩すると、却って従業員の不安を煽りかねません。素早くかつ入念な準備をすることで、従業員の不安解消につながるのです。

M&Aの売却益で個人債務を償却できる

経営者がM&Aや事業承継をためらう理由の一つとして、経営者自身が会社の債務の連帯保証人になっているケースが考えられます。このケースは非常に多く、会社と命運を共にせざるを得ないと、事業承継を諦めている経営者も少なくありません。

ですが、M&Aを実施すると事業承継が行われて会社が存続するだけでなく、経営者の手元には、会社の売却益が入ってきます。その売却益を連帯債務の債務返却に当てると、経営者負担分の個人保証を外し、個人・会社双方の債務償却につなげることが可能です。

経営者の個人保証のみを外すには、法人と経営者との関係の明確な区分、財政基盤の強化、財務状況の健全化・情報開示による経営の透明性の確保などを条件としているケースが多く見られます。適用されれば、会社名義の借入について、一括返済や整理も行わずに済みますから、経営から退いても安心です。

大阪府の中小企業で実際におこなわれたM&A

大阪の中小企業でM&Aが特に活発なジャンルに、飲食業と介護福祉事業が挙げられます。いずれも求人や転職の案件が頻繁に出ていますが、それだけ、M&Aも活発なジャンルだと考えられるでしょう。ここからは、実際にあった具体的な事例について案内します。

飲食業:SRSホールディングスと株式会社家族亭及び株式会社サンローリーのM&A

2020年、SRSホールディングスと株式会社家族亭及び株式会社サンローリーのM&Aが成立しました。SRSホールディングスは、関西圏を中心に展開するフードサービス企業グループです。一方、家族亭はそばやうどんを主流とした飲食店を、全国に169店舗展開し、尾内区サンローリーは直営店・フランチャイズ店を関西中心に65店舗展開していました。
売り手側、買い手側双方とも関西圏に拠点を置く企業で、株式交換により、SRSホールディングスが家族亭・サンローリーを完全子会社としたM&Aです。このM&Aがもたらした効果としては、次のようなものが発表されています。

  • 双方の原材料費や物流コスト、プロモーションなど各種コストの削減
  • プレゼンス拡大
  • 顧客の囲い込み
  • 都市型ビジネス拡大への進出
  • 既存業態のショッピングセンターへの出店強化

このケースは、同一エリアにおいて、売り手側・買い手側双方に良質なシナジー効果をもたらしたモデルケースと評価できます。また、小規模な飲食店がM&Aを検討する場合には、譲渡側には撤退金額削減などのメリットもあります。飲食店経営から撤退する場合には、原状回復費用や解約予告家賃など、閉業でもかなりの金銭的負担が発生します。貸物件で飲食店などを経営している場合には、閉業よりもM&Aの方がはるかに負担が少ないケースも多いですから、経営撤退の選択手法に入れると良いでしょう。

介護福祉事業:キコーメディカル株式会社とドラッグストア及び調剤事業で実績豊富なココカラファインのM&A

現在の介護福祉事業は、2000年の介護保険法施行時に事業を立ち上げたケースが多く見られます。20年経った現在、当時起業した経営者は、現在60~70代となっており、年代的にも事業継承期に当たります。介護福祉事業のM&Aが活発化している背景としては、このような要素も見逃せません。

介護福祉事業においては2021年4月、大坂府堺市に拠点を置くキコーメディカル株式会社と、ドラッグストア及び調剤事業で実績豊富なココカラファインのM&Aが成立しました。

キコーメディカルは、大阪府で福祉用品のレンタルや販売などを手掛ける企業です。在宅医療・介護を一元的に提供する「地域におけるヘルスケアネットワークの構築」を目指し、全国展開しているココカラファインの傘下に入ることで、人々の心身の健康を追求し、さらなる地域社会への貢献を図っています。

このM&Aは、株式取得による完全子会社化です。ココカラファインの本社は神奈川県横浜市にあり、地域の垣根を越えたM&Aが行われた一例と言えるでしょう。

大阪事情に精通したM&A仲介業者を

ここまで見てきたように、M&Aは県境や地域の垣根を越えて行われるケースが増加しています。地元の目を気にしてきた大阪でも、例外ではありません。全国規模で見た場合、売り手側は必ずしも地域性にこだわっていない傾向が見られます。

  海外 その他国内全域 近隣都道府県 同一都道府県 同一市区町村
買い手として意向あり 0.8% 24.0% 38.5% 26.3% 10.4%
売り手として意向あり 0% 46.8% 24.1% 22.8% 6.3%

参考:(株)東京商工リサーチ「中小企業の財務・経営」

ですが、M&Aを成功させるには、やはり大阪の事情に精通している業者を選択したいものです。たとえば東京や東海地方の企業が大阪への進出を検討する場合、大阪の地域経済の慣習も考慮してくれる仲介業者を選ぶことで、双方に有意義なM&Aにつながります。M&Aを成功に導くには、さまざまな分野の専門知識や交渉力、時勢を見極める判断能力など、複合的かつ高度な能力が求められます。他の地域に拠点を置くM&A仲介業者を利用する場合でも、まずは関西圏における実績の有無を確かめましょう。

まとめ

従来の大阪は、譲渡企業側が高く売却するために、売却条件を細かく提示したり、必要なコストの値下げ要求が多いなど、M&Aの市場としては敬遠される傾向がありました。事業を継続させることは、大阪の取引先や従業員を守ること、地域を守ることにもつながっています。自社の事業継承に悩まれている方は、ぜひM&Aのプロフェッショナルに相談してみてください。

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