法的整理と私的整理の違いとは?私的整理の種類・手法についても詳しく解説

法的整理と私的整理について

この前のコラムでは、会社を終わらせる方法には、法律に基づく方法(法的整理)と、法律以外の任意による方法(私的整理)があると紹介しました。しかし、多くの人が知っている、イメージするであろう、会社の終わりというのは、「法定整理」の方であり、「私的整理」の方ついて、なかなか知っている人はいないでしょう。

そこで、今回のコラムでは、再度、法的整理と私的整理の違いやメリットを確認しながら、私的整理の方について詳しく説明していこうと思います。

法的整理と私的整理の違いとは?

この章では、もう一度「法的整理」と「私的整理」について少し述べていこうと思います。

まず、法的整理とは、法律によって手続きが定められ、裁判所の管理の下で、会社の整理が進められるものです。代表的な手続きとしては、破産法による破産手続きや会社法による特別清算手続き、民事再生法や会社更生法による事業の再生に向けた倒産手続きなどが挙げられます。

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法的整理のメリットとしては、前述したように、法律に基づいている上に、裁判所が関与することから、手続きに透明性・公平性があることが挙げられます。加えて、その手続きにおいては、債権者に対して拘束力をもち、意見の分かれる手続きに関しては、多数決によって決めることができるなどのメリットもあります。

一方で、デメリットとしては、その企業が倒産手続きに入ったことが公になるため、風評によってさらに業績が悪化したり、その後の取引が困難になる可能性があることが挙げられます。

続いて、私的整理とは、その手続きが法律で定められておらず、債務者と債権者が任意で交渉し、合意を積み重ねながら、手続きが進められるものです。代表的な手続きについては、次の章で述べますが、私的整理ガイドライン・中小企業再生支援協議会・事業再生ADRなどが挙げられます。

私的整理のメリットとしては、私的関係者の合意さえできれば、それぞれの意向に合わせた柔軟な対応ができる上、法的手続きを踏まないために、手続きを迅速に進めることができることが挙げられます。加えて、法的整理の反対で、手続きが公にする必要がないため、風評被害を防げることも大きなメリットになります。

一方で、デメリットとしては、合意を債権者全員から得なければならないため、単純に実施が難しいことや、法的整理と比べると、手続きの透明性や公平性に欠けることが挙げられます。

しかし、現在では、政府と経済界が協力し、一定のルールを設けたことで、私的整理がより使いやすくなってきています。そして、このような環境が整えられた結果、(とくに中小企業において)、倒産という風評による業績のさらなる悪化や連鎖倒産を防ぐ意味でも、法的整理の手続きではなく、まずは可能な限り私的整理を選択し、整理を進めていくことが一般的になっています。

詳しい私的整理の手続きの説明

私的整理の変遷

2章では、私的整理は使いやすさが増し、広く浸透していることを説明しましたが、かつての私的整理には、暴力団や整理屋などが介入し、違法な行為が横行しており、私的整理は不公平で信頼ができないと見なされていました時期もありました。

しかし、逆にこうした背景があったが故に、私的整理は徐々に修正が加えられていき、現在の使いやすい形になったのも事実です。ですから、私的整理の流れを見る前に、まずは、私的整理の変遷について一緒に見ていきましょう。

まず、前述した暴力団等の介入に関しては、暴力団対策法の制定や経営環境の変化によって、減少させていきました。そしてさらに、2000年代の倒産法制の抜本的な改革に合わせて、私的整理の手続きも大きく変化していきます。また、バブル経済崩壊後の不良債権の処理を目的としたこれらの変革は、やがて事業再生という新たな市場を生み出すことになりますが、(これに関しては前回のコラムで述べています)その端緒となったのが、2000年の法的整理における民事再生法の制定と、2001年の私的整理における私的整理ガイドラインの公表だったといえます。

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私的整理ガイドラインというのは、金融界や産業界の代表と学識経験者による研究会によって作成・公表された紳士協定で、法的な拘束力はありませんが、私的整理における画期的なものとなりました。具体的に、私的整理ガイドラインは、経営破綻に陥った会社を再生させるために、債務の減免や返済猶予などの債務整理や、事業を立て直す計画作りのための手続きの進め方を定めています。手続きの主体となるのは、主にメインバンクで、手続きの作業に加え、債務整理の内容においても、メインバンクの負担が大きすぎるとの批判もありましたが、私的整理の重要な指針として捉えられ、利用されました。

その後、私的整理ガイドラインにならって、RCC(整理回収機構)再生スキームが作られ、現在では、利用が増加している事業再生ADRや中小企業再生協議会スキーム、さらには特定調停スキームなども作られました。

このため現在では、私的整理ガイドラインが使われることはほとんどありませんが、ガイドライン以降に作られたさまざまなルールや手法も、私的整理ガイドラインをベースに、その運用の教訓も加味して作られています。その意味で、私的整理ガイドラインはいまも生きているといっていいでしょう。

私的整理の流れ

ここで、ようやく私的整理の手続きに共通する基本的な流れを見てみましょう。

①申し立て、一時停止の通知
まず、経営が厳しくなってきた会社が、私的整理手続きを申し出て、金融機関などの債権者に債務支払いの「一時停止」の要請を出します。これは、法的整理でいう保全処分命令にあたる手続きですが、あくまでも任意の要請という形で、要請をだす債権者の範囲も任意で決められます。この一時停止要請は、債権者が債務の一括請求をする理由(期限の利益喪失事由)には該当しないものとされています。

②債権、財産の調査及び事業立て直しの計画案作り
次に、債務支払いが一時停止されている間に、債権と財産の調査が行われ、債務の整理、返済の方法と事業立て直しの方法からなる再生計画案を作ります。尚、手続きによっては、申し立て以前に、こうした財務的な調査や再生計画案を作っておくことが求められます。

③債権者から再生計画案の合意を得て、実行
そして最後に、再生計画案は、手続きの対象となった債権者全員の合意を得て、実行に移されます。法的整理では債権者を一堂に集めた集会を開いて、多数決によって合意を得ますが、私的整理では、債権者ごとに交渉し、再生計画案も調整しながら、合意を積み重ねていくのが一般的です。

以上が私的整理の主な流れになりますが、前述したように私的整理にはいくつかのスキームが存在し、会社の規模や状態によって使い分けられるのが一般的です。ここでは、RCC再生スキーム・中小企業再生協議会スキーム・地域経済活性化支援機構による再生スキーム・事業再生ADRの4つを紹介していこうと思います。

RCC再生スキーム

まず、整理回収機構(RCC)というのは、バブル崩壊後の不良債権問題を解決するため、1999年に設立された株式会社のことを指します。この株式会社は当初、破綻した金融機関の債権を管理・回収する業務と、金融機関から不良債権を買い取ることを主な業務としていましたが、その後、会社の再生も担うようになり、そこでRCC再生スキームという手続きを公表しました。

RCC再生スキームには、二通り存在します。スキームⅠは、整理回収機構が主要債権者となっている会社の再生に対してとられるスキームで、整理回収機構が手続きの主体となり、会社の再生手続きを進めます。一方、スキームⅡは金融機関などの債権者から委託を受けたうえでとられるスキームで、整理回収機構は中立的な立場から手続きを進めていくことになります。

ちなみに、現在、RCC再生スキームは、ほとんど利用されていません。

中小企業再生支援協議会スキーム

まず、中小企業再生支援協議会というのは、産業競争力強化法に基づいて、各都道府県に一カ所ずつ設けられた公的な機関のことを指します。そして、協議会には、事業再生の専門家が常駐し、中小企業からの相談や再生のための支援を行っています。この中小企業の再生支援には、協議会が公正中立的な立場で関与するという点に特徴があります。

協議会による再生支援の方法は、二段階に分かれています。具体的には、苦境に陥った中小企業からの相談を受けて、まずは一次対応として、助言や支援機関の紹介などを行いながら、その会社が支援対象であるかを検討します。ここで、会社が支援対象であることが認められれば、二次対応へと移り、再生手続きが正式に開始され、専門家からなるチームによって、債権や財産の調査や事業の立て直しの方法の検討が行われ、再生計画案が策定されます。

そして、再生計画案が、対象の債権者全員の同意を得られれば、再生計画は実行に移ることになります。私的整理ガイドラインなどほかの手続きでは、手続き開始後すぐに再生計画案を示すことが求められるため、手続きを申し立てる前に、事業再生の方法をある程度固めたり、財務調査などの必要な調査したりしておく必要があります。しかし、このスキームでは、資金力の乏しい中小企業にこれらのことを求めるのが難しいことを配慮し、財務的な調査や再生計画案の策定などの手続きはすべて、申し立て後にすることとなっています。

加えて、このスキームは、再生支援協議会への相談は無料な上、再生手続きの際も、専門家への報酬に対する補助を受けることができるため、手続きのための費用が割安なことも特徴として挙げられます。また、協議会は地域に根ざしており、地元の商工会議所や金融機関などとネットワークを持っているため、地域の実情に合わせた再生支援が行われることも期待できます。

地域経済活性化支援機構によるスキーム

まず、地域経済活性化支援機構というのは、地域活性化のために設けられた公的な機関のことを指します。そして、この機構は、弁護士や公認会計士・コンサルタント・金融の専門家などのさまざまな人材で組織され、地域の中小企業の相談に応じて助言をしたり、運営するファンドを通じて財政支援を行ったりするほか、経営の厳しい企業に対して再生支援を行っています。

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地域経済活性化支援機構による再生スキームでは、機構は公的で中立の立場から手続きに関与します。会社からの相談を受けて、会社に再生の可能性があれば、機構は専門家を派遣して事業や財務などの調査を行い、事業再生計画案を策定します。そして、メインバンクなどとの調整を行い、正式に支援が決まれば、ほかの債権者との調整も実施します。場合によっては、機構による債権の買い取りや出資が行われることもあります。

このように機構自身が、会社や事業の再生のためスポンサーとしての役割を果たすことができるのが、このスキームの特徴です。

事業再生ADR

まず、事業再生ADRとは、裁判の手続きによらずに、公正な第三者が関与することで、民事上の紛争を解決しようというADR(裁判外紛争解決手続き)という手法を利用して、会社や事業の再生を図る手続きです。事業再生実務者協会が選んだ専門家が、公正中立な立場から手続きの主体として関与し、事業再生計画案の策定や、債権者との調整にあたります。

苦境に陥った会社からの事前の相談を受けると、実務者協会は手続きを進める担当者を選び、その会社についての予備調査を行います。そして、その会社に再生の可能性があり、支援に相応しいと認められれば、正式な申し込みを受けて、手続きが進められることになります。

このスキームでは、「一時停止」通知も、実務者協会と再生対象企業との連名で出されるなど、実務者協会が手続きに主体的に関わり、債権者などとの調整を進めていきます。そして、再生計画案が作られ、債権者全員の合意を得られた後、実行に移されていきます。

事業再生ADRは、法的整理と私的整理の両方のメリットを兼ね備えた手法として開発されました。そのため、手続きは、ある程度の厳格さを持って定められており、信頼性が高いとされている上、債権者との協議が整わなかった場合には、裁判所を利用する特定調停などの法的整理へと移行する仕組みも備えられています。しかし、事業再生ADRは基本的に非公開の手続きで、手続き費用が比較的高額になるため、大企業の利用が中心となっています。

まとめ

ここまで法定整理と私的整理(主に私的整理)についてみていきましたが、いかがだったでしょうか?

法的整理とは、法律によって手続きが定められ、裁判所の管理の下で、会社の整理が進められるものである一方で、私的整理とは、その手続きが法律で定められておらず、債務者と債権者が任意で交渉し、合意を積み重ねながら、手続きが進められるもので、お互いにメリット・デメリットが存在していました。

その中でも私的整理のスキームには、私的整理ガイドラインから派生した、「RCC(整理回収機構)再生スキーム」・「事業再生ADR」や「中小企業再生協議会スキーム」などが存在し、それぞれの特徴を活かし、自身の会社の状況や資金によって使い分けることが重要になっていました。

しかし、私的整理に関しては、まだまだ知名度が低く、歴史的な印象も良くないため、いろいろな不安や、「どのスキームを選択した方がいいのか」といったような疑問なども生じることでしょう。何度も言いますが、事業再生に関しては、確実に専門家に頼った方がいいです。何かお困りのことなどありましたら、是非下記のリンクよりお気軽にご相談ください。


記事監修

三戸政和(Maksazu Mito)

2005年ソフトバンク・インベストメント入社。兵庫県議会議員を経て、2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行う。


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