プレDD(デューデリジェンス)をはじめとした事業再生におけるDDの詳しい解説

事業再生におけるDDの詳細について

先日のコラムでは、事業再生にもM&Aと同様に、DD(デューデリジェンス)が存在することをお伝えしました。

そして、その中では、事業の再生可能性を探るために、DDは、事業内容を調査する「事業DD」、財務状況について調査する「財務DD」、法的問題について調査する「法務DD」の3つに分けられることをお伝えしましたが、それぞれの詳細については触れることはしませんでした。これは皆様には、まず、事業再生におけるDDそのものを理解して欲しかったからです。

ですが、今回のコラムでは、先日のコラムからもう一歩踏みこんで、3種類のDD(+プレDD)についての詳細を扱っていこうと思います。ですので、先日のコラムをお読みいただいてからこちらのコラムを読まれることをお勧めします。

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プレDD(デューデリジェンス)とは?

この章では、まず、プレDD(デューデリジェンス)について扱っていきます。

いきなり、初見のプレDDという単語が登場してきましたが、プレDDとは、経営破綻に陥った会社が、公的な再生支援窓口やメインバンクなど、再生支援の入り口となる機関に相談をしてきた際に、最初にとられる対応になります。本格的なDDに入る前の簡易的な現状分析ともいうことができ、このプレDDをもとにその後の対応方針が決められます。

プレDDでは、対象の会社から財務書類などの必要な書類の提出を受けたり、経営者へのインタビューや現地調査などを行ったりして、現状の把握と分析を行います。この会社に再生の可能性があるかどうか、本格的なDDが必要かどうかを判断するための簡易的なDDという位置づけで、具体的な項目は主に以下の三つです。

  •  ①会社の事業の概要
  •  ②会社の財務内容
  •  ③会社を取り巻く事業環境の分析 

以上のことから分かるように、プレDDでは、先に挙げた3つのDDと似たような調査をすることになります。

まずは、会社や事業の概要を把握します。会社の事業内容はなにか、メインバンクはどこか、役員や株主の構成はどうなっているのか、会社の沿革なども調べます。

次に、財務内容について、銀行の査定程度の調査を行います。決算書などの財務書類をもとに、実際の収益力や業績の推移、同業他社との比較、債務超過の実態などについて把握します。

また、事業環境の分析では、対象の会社の置かれている市場の動向や取引先、地域など外部環境についての分析と、会社内部の経営や管理システムなどの内部環境の分析を踏まえた上で、その会社の強みや弱みを評価します。

そして、こうした調査をもとに、対象の会社の再生イメージを固めます。再生イメージは、この後に本格的なDDを行って、詳細な再生計画を作成していくために、DDを進める専門家のチームが共有する再生の方向性となります。これは、再生イメージを作ることで、収益力がどの程度、改善できるか、債務はどのような方法で整理、返済していくかなどについて、ある程度の方向付けが行われ、DDの範囲や方法についても決めていくことができるからです。

プレDDでは、対象の会社の資金繰りのチェックも行います。これは、再生プロセスがスタートし、再生計画が実行に移されていくまでには、スキームによって変わりますが、半年や一年程度の時間が掛かるためです。プレDDではその間の資金繰りに問題はないかチェックし、必要ならばスポンサーを探したり、財政支援の方法を検討したりする必要があります。当然、再生手続きには予納金や専門家への費用なども必要で、それを含めたチェックが必要です。

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こうしたプレDDをもとに、対象の会社に再生の可能性があり、支援が相当と認められれば、次の再生プロセスへと入り、再生機関や再生アドバイザーなどの再生主体は、本格的なDDの内容や方向性を決めて、専門家からなるDDチームを集め、本格的なDDをスタートさせます。

事業再生における財務DDとは?

次は、財務DD(デューデリジェンス)について扱っていきます。

さまざまなDDを実施するこのプロセスは、DDの結果をもとにして、対象企業の事業再生計画案を策定することを目的としています。再生計画案は、事業の再構築の方法と債務の返済方法のふたつの柱から成り立ちますが、それぞれのDDはそのためのベースとなるデータを提供します。そのひとつである財務DDは、財政面のデータを洗い出すもので、会社の正確な財務状況や収益力などを調べ、再生の可能性を探るとともに、再生に必要な財政面での支援の方法を検討します。ちなみに、財務DDは主に、会計事務所や監査法人が担当します。

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財務DDで精査する項目は、おもに以下のとおりです。

  •  ①実態賃借対照表の作成
  •  ②本来の収益力を明らかにする
  •  ③資金繰りの実態
  •  ④税金や債務の実態

①実態賃借対照表の作成は、財務DDのなかでももっとも基本的なものです。賃借対照表を精査することで、不動産の含み損や負債の計上漏れなど修正すべき事項は修正し、正確な資産や負債を把握することで、実質的な債務超過金額を明らかにします。

②過去数年の会計データを精査し、不適切な会計処理があれば修正し、本来の収益力を明らかにします。

③過去数年のキャッシュフローの状況について調べ、企業活動に必要なキャッシュフローと株主や債権者に配分可能なフリーキャッシュフローの額について明らかにします。

④繰越欠損金などの税務の状況や過剰債務の実態について明らかにします。

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このほか調査すべき項目は、ケースバイケースで決まってきます。この財務DDをもとに、事業が再生して継続して利益を生むようになるには、現在の財政状況をどう是正していくか、つまりどの程度の金融支援(債権放棄など)が必要なのかを明らかにして、再生計画案へと反映させる材料とします。

事業再生における法務DDとは?

次に、法務DD(デューデリジェンス)について扱っていきます。

法務DDは弁護士や法律事務所が担当するDDで、法的な観点から対象の会社の状況について精査します。

調査項目は主に以下の通りです。

  • ①支援に法的なリスクはないか
  • ②会社に法的なリスクはないか

法務DDでは、対象の会社の沿革や役員や株主の構成、登記や定款など会社を構成するデータを確認するほか、会社が結んでいる契約の内容や許認可の必要な業務など、会社や事業について法的な側面から調べていきます。その目的は、再生プロセスを進める上で、法的なリスクはないかを精査することです。たとえば、法的整理手続きに入った場合に、事業の許認可が取り消されるような条項や、会社が結んでいるさまざまな契約のなかで、会社の状況によっては契約が解除されるといった条項など、法的な面から事業に影響を与えるものはないか洗い出していきます。

また、会社が抱える訴訟などの紛争、コンプライアンスなどの法令遵守の問題、人事関係の問題、環境問題に関わるリスクなどについても精査し、再生プロセスを阻害するような法的な問題がないかどうかを明らかにします。

事業再生における事業DDとは?

最後に、事業DD(デューデリジェンス)について扱っていきます。

事業DDとは、対象の会社の経営や事業について精査することであり、再生プロセスにおいてもっとも重要なDDです。会社の事業はどんなビジネスモデルで経営されているのか、会社を巡る内外の環境や競合他社の状況などについて調べ、対象の会社が持つ強みや弱みを明らかにして、会社に再生の可能性があるかどうかを判断します。再生が可能ならば、いかにして事業を再構築するかを検討し、再生計画案という形で具体化させます。

事業DDでなにより大切なのは、対象の会社の事業について理解し、経営破綻を招いた原因を突き止めたうえで、再生のための方策を探ることです。経営破綻を招いた原因がうやむやのままでは、どんな再生計画案を作っても理解は得られないでしょう。

事業DDの主な項目は以下の通りです。

  •  ①対象の会社の事業を把握し、経営破綻の原因について明らかにする
  •  ②事業の内外環境の分析、強みや弱みを明らかにする
  •  ③事業再生の方向性を明らかにする

事業DDでは、まずは対象の会社について理解をしなければなりません。どんな事業を、どんなビジネスモデルにおいて経営しているのかを理解した上で、経営システム、マーケットや取引先などの会社を取り巻く内外の環境の調査やここ数年の業績の推移などを調べ、どこに問題があり、なぜ経営破綻に陥ったのかを明らかにしていきます。

さらに、事業の強みや弱み、脅威となるものなどについても、さまざまな分析ツールを用いて分析します。再生計画案では、再構築した事業からどの程度のキャッシュフローが生まれ、どの程度を債務の支払いに充てることができるのかを、論理的に説明できなければなりません。そのためには、この事業DDの段階で、経営破綻に陥った問題点を特定し、それをどのように改善して事業を再構築し、収益を上げていくのかを説明できる材料を揃えなければなりません。

そして、再生プロセスは次のステップへと移り、再生計画案という形でまとめ上げられることになります。

まとめ

以上のように、事業再生におけるDD(デューデリジェンス)を見ていきましたがいかがだったでしょうか?

デューデリジェンスにおいて、もし、情報が正しくなかったり、情報の理解の仕方に誤りがあったりした場合、会社の実情を反映しない再生計画が作られることになり、再生プロセスの成否に大きく関わってきます。デューデリジェンスで集められた情報については、歪んでいないか、不正などのリスクを示していないかなどを慎重に見極めなければなりません。

とくに、粉飾が行われていないか、誤謬など誤った情報となっていないか、財務書類にのっていない債務が隠れていないか、人事や給与体系に問題はないか、経営陣に問題はないか、有能な従業員が立て続けに退職していないかなど、会社の再生プロセスに少なからず影響を与える問題には十分な注意が払われなければなりません。

そのためにも、しっかりと専門家を活用し、事業再生の可能性を探りましょう。我々日本創生投資も事業再生の案件を何度も経験してきました。ぜひ、選択肢の一つとして覚えておいてくれたら幸いです。


記事監修

三戸政和(Maksazu Mito)

2005年ソフトバンク・インベストメント入社。兵庫県議会議員を経て、2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行う。


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