食品業界と農業のM&Aについて解説。メリット・デメリットを双方の立場から解説

本記事では、食品業界と農業のM&Aについて、メリット・デメリットを双方の立場から解説していきます。それぞれの業界が抱える課題を理解した中で、農業が抱える課題と、食品業界が抱える課題の双方を解決する選択肢として、異業種同士のM&Aを検討していきましょう。

食品業界のM&A

食品業界のM&Aについて解説していきます。そもそも食品業界とは何か、食品業界が抱える課題とは何か、そこから整理することで食品業界のM&Aの理解を深めることができます。

食品業界とは

一般的に、食品を扱っている会社が属する業界を食品業界というように日常的に使われていますが、総務省が公表する「日本標準産業分類」によれば、食品業界は、大分類「製造業」の中分類に位置する「食料品製造業」にあたると考えられます。

この「食料品製造業」に含まれるものは以下となります。
(1) 畜産食料品,水産食料品などの製造
(2) 野菜缶詰,果実缶詰,農産保存食料品などの製造
(3) 調味料,糖類,動植物油脂などの製造
(4) 精穀,製粉及びでんぷん,ふくらし粉,イースト,こうじ,麦芽などの製造
(5) パン,菓子,めん類,豆腐,油揚げ,冷凍調理食品,そう(惣)菜などの製造

食品業界の課題

近年、食品業界を取り巻く環境は大きく変わってきています。たとえば、少子高齢化等の影響により、市場が縮小している傾向にあります。また、原材料の価格上昇によって、商品価格が値上がりし、消費の消費行動を圧迫しており、食品業界は、より競争に打ち勝つ商品の開発・販売、そして、コスト削減と生産性向上が、目下、課題となっている状況です。

そこで、その一つの解決策として、食品の製造を手掛ける会社が、原材料となる農産物の栽培等の農業を営む会社を買収することで、栽培から食品の販売までを一気通貫でき、販売コストを下げるといった方法も選択肢の一つといえます。

農業の課題

農業とは、前述の総務省が公表する「日本標準産業分類」によれば、耕種農業、畜産農業及び農業に直接関係するサービス業務を指すと考えられます。

農業も、農業従事者の高齢化と減少によって人手不足が進んでおり、また、少子化等によって後継者不足も課題となっているのが現状です。
さらに、農業×デジタル化が加速しており、デジタル技術の導入によって品質管理や生産性の効率化、食材の安定供給に繋げていくことが今後の流れになっていくと予想されます。この潮流に遅れをとると、さらに同業他社との差が広がることになります。

この農業が抱える課題と、食品業界が抱える課題の双方を解決する選択肢として、異業種同士のM&Aが考えられます。

買い手のメリット

では、食品業界と農業という異業種同士でのM&Aにはどのようなメリットがあるのでしょうか。食品業界の会社が買い手となった場合を想定して、そのメリットについて解説していきます。

食材の安定的な調達

まず、食品会社等が農業を営む会社を買収するメリットとしては、食材を安定的に調達することができるという点です。食材の生産ラインを自社のグループに取り込むことで、生産から出荷まで一貫して管理を行うことができるようになります。
また、生産ラインを内製化することで、外部から食材を調達した場合と比べてコストを削減することができ、他社との競争優位性を築くことができると考えられます。さらに、自社で作った食材を使ってプライベートブランドの商品開発をすることで、ブランド価値が上がり、さらに事業拡大のチャンスにもなります。

低コストでの新規参入

次に、買い手は低コストで農業に参入することができるという点です。M&Aによって、売り手が従来から保有していた農地や耕作機械等の設備を取得することができるので、一から購入するよりも低コストで始めることができます。

また、農業を営むためにはその専門的な知識や経験が必要であり、これを一から作り上げるのは相当な時間と労力が掛かりますが、M&Aによって会社を買収することで、売り手のこれまでの農業に関するノウハウや技術力、従業員といった経営資源も活用することが可能になります。

売り手側のメリット

売り手のメリットについて解説していきます。

後継者不足の解消

農業従事者の高齢化と減少によって人手不足が進んでおり、また、少子化等によって後継者不足が課題となっています。後継者が見つからなければ、黒字倒産する可能性もあります。そうすると、それまで会社に尽くしてくれた従業員も失う可能性があります。
M&Aによって買い手に経営権を引き継いでもらうことで、後継者不足の問題が解消できますが、加えて、従業員の雇用を守ることにも繋がります。また、大手企業の傘下となれば、福利厚生や労働環境の改善を期待することができ、従業員の満足度も上がって生産性の向上を期待できます。

安定的な経営とシナジー効果の期待

二つ目は、安定的な経営と買収のシナジー効果を期待することができる点です。売り手は、買い手の経営ノウハウや資本を活用することでき、安定的に販路を確保できるので、盤石な経営基盤を築くことができるようになります。
また、売り手の従来の経営ノウハウや従業員のスキル等と、買収者の経営資源を融合することで、買収後のシナジー効果を期待することができます。

デジタル技術との融合

前述の通り、農業ではデジタル化が加速しており、この潮流に遅れをとると、さらに同業他社に取り残される可能性があります。しかし、個人農家や中小規模の農業法人が多数占める業界では、自前の経営資源で改革を進めていくことは難しいです。
M&Aの買い手にデジタル技術の強みがあるのであれば、そのデジタル技術を売り手に導入し、生産工程の管理をデジタル化することで、品質の維持・向上、生産性の効率性向上、作業コストの削減等を実現することができます。

農業法人を買う方法

次に、農業法人を買う方法について解説します。異業種の会社が買い手となって農業法人を買う場合、売り手が農地所有適格法人か否かによって、ポイントが大きくことなります。

以下では、売り手が農地所有適格法人である場合とそうでない場合に分けてそれぞれ解説します。

農地所有適格法人を買う場合

そもそも、農業法人とは、農業を営む法人の総称です。農業法人が農地を所有するためには農地所有適格法人の要件を充たす必要があり、特に、異業種M&Aという点でいうと農地法人の構成員の要件が重要になります。

農地所有適格法人となるためには、農地法人の総議決権の過半数が農業関係者で構成されている必要があるため、売り手の株式を取得する株式譲渡等の方法を採用することはできません。

そのため、例えば、買い手の役員や大株主等の複数人の個人が合わせて過半数を取得し、売り手の農業に従事する役員となったりする方法であったり、あるいは、買い手が議決権の過半数までは取得せずに、一部株式を所有するいわゆる資本業務提携のようなかたちで関係をつくる方法も考えられます。

農地所有適格法人以外を買う場合

一方で、売り手が農地所有適格法人以外であれば、特段上記のような制限を受けることはないので、事業譲渡や株式譲渡、合併、会社分割、株式交換、株式移転、株式交付等の一般的な方法を使うことができます。

このうち、株式譲渡による方法は、買い手は売り手の株式を取得することで買収でき、手続きがシンプルなので、一般的に用いられることが多いです。また、農業のM&Aでは事業譲渡が使われることもありますが、株式譲渡と比べて事務負担がかかるといったデメリットがあります。

まとめ

以上、ここまで、食品業界と農業のM&Aについて、メリット・デメリットからその方法まで解説しました。繰り返しとなりますが、食品業界は、少子高齢化等の影響により、市場が縮小している傾向にあります。また、原材料の価格上昇によって、消費行動を圧迫しており、より競争に打ち勝つ商品の開発・販売、そして、コスト削減と生産性向上が、目下、課題となっている状況です。

さらに、農業も少子高齢化により後継者不足やデジタル化の遅れ等が課題となっています。これら双方の課題を解決するために、食品業界と農業という異業種同士のM&Aを検討することも、有効な手段となり得ます。

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