不動産M&Aとは?メリット、デメリット、不動産M&Aが注目される理由について解説!

「不動産M&A」は、売手側企業が所有している不動産を獲得するために、株式全てを売買する取引のことです。一般的なM&Aは、企業を買収して事業を統一をすることを目的としているので、不動産M&Aとは交渉内容なども大きな違いが生じます。

不動産M&Aとは?

不動産売買との違い

不動産売買は、特定の不動産のみを売買する契約のことで、買手側が欲する物件を、仲介業者を通して交渉し、同意した額で売買が成立します。不動産売買の場合は、売買が成立した物件を取得する際に掛かる、所得税などの税金を支払います。

一方で、不動産M&Aの場合は、買手側と売手側が仲介業者を通さずに直接株式売買を行い、報酬も直接売手側へと渡る仕組みになっているのです。不動産M&Aを行う場合には、非常に高度な知識が必要となるので、必ず専門科に依頼した上で行う必要があります。

不動産売買と不動産M&Aのどちらも専門家のサポートが必要ですが、不動産M&Aの方が、着手料や成功報酬など依頼先へのコストが掛かり、また依頼料は割高です。

株式譲渡を利用した不動産M&A

一般的なM&Aと同様に、不動産M&Aの場合にも株式売買で行う手法が用いられます。売手側の企業は株式の譲渡を行い、買手側の企業の100%子会社となります。株式譲渡に伴い、不動産や従業員、資産、負債なども全て買手側企業に所有権が渡ります。

株式売買にあたっては、事前に売手側企業のマイナスポイントについてしっかりと精査する必要があり、不動産M&Aに精通した専門家による見極めが必要です。子会社となった企業は、そのまま事業を継続するか、元々廃業予定だった場合は、買手側企業によって清算されます。

取得した不動産を活用することが目的なので、子会社となった会社の継続は買手側の判断で継続か清算するのかが決まります。株式売買を行うタイミングとしては、取得する予定の不動産の価値を高め、売手側にも買手側も高い収益が見込める様になった頃に行われます。

会社分割を利用した不動産M&A

会社分割を用いた不動産M&Aは、売手側企業が会社を新たに設立し、譲渡する不動産の権利は元々あった会社へ残し、本業は新しい会社へと移します。

そして買手側企業が売手側企業の株式を買収する、会社分割と株式譲渡を合わせて行う手法です。会社を分割をすることで、売手側は組織再編税制を受けられる様になるメリットもあります。

売手側企業は、売買目的の不動産のみを譲渡することができ、企業の株式や資産、その他の事業などを自社に残すことが出来ます。買手側としても、不動産売買の場合に発生する不動産取得税や登録免許税などの課税を免れるというメリットがあります。

会社を新たに設立する際にも、詳しい専門家の知識を借り、正しい手順で法的手続きや交渉をする様にしましょう。

不動産M&Aがなぜ注目されるの?

不動産M&Aが注目される理由としては、不動産売買に掛かる税金よりも、株式売買の方が大幅な節税になることです。売手側としても、株式売買を行う前に廃業することを決めていたなら、廃業コストの削減にも繋がります。

不動産売買の需要が変化している

近年、不動産業者の数が増え、同業者間の顧客獲得競争が激化しています。管理や賃貸事業を行う企業は、不動産M&Aの需要がとても高く、特に地域に根差した企業が好まれています。

顧客を惹きつけるサービスを行うために、事業の拡大や不動産の取得といった事業向上を目指す企業も多くあり、不動産M&Aの活用例が増えています。きちんと組織化されており、独自の経営システムを持っている企業を求める企業が多く、買収後に事業面の強化に繋がることが見込まれる企業は魅力的で、不動産M&Aの対象にもなりやすいです。

また、所有する不動産の立地や条件なども売手側のアピールポイントになります。以前よりも不動産M&Aが浸透し、メリット、デメリット含め検討する企業が増えていることから、今後さらに不動産M&Aの実施ケースが増えていくと思われます。

少子化や後継者不足の背景も

不動産M&Aが注目される背景には、少子化などによる中小企業の後継者不足もあります。経営が順調であっても、少子化などの理由から跡継ぎ候補がおらず、その間に経営者自身が高齢になり、廃業せざるを得ない状況に陥っているケースが増えています。

現在の日本では、どの業種でも跡継ぎ不足が問題となっていて、経営者全体の8割以上が60歳以上の高齢者であると発表されています。今後、益々少子高齢化が進む中で、さらに跡継ぎ問題が深刻化していくと見込まれています。

有能な企業の場合、廃業してしまうのではなく、買手側企業へ事業を引き継ぎ、従業員の雇用なども守られるという判断で不動産M&Aを行うケースもあります。

買手側企業としても、事業の拡大や有能な人材を自社へ獲得出来るなどのメリットがあるので、不動産M&Aの需要は年々増え続けています。

不動産M&Aで課される税金

不動産M&Aの大きなメリットとして重要視されているのが、税務コストの削減です。売手側が所有している不動産を取得する際、不動産売買よりも不動産M&Aの方が税務コストを抑えることが出来ます。適切な手法で活用すれば、売手側にも買手側にも大きな利益となります。

株式譲渡した場合

株式譲渡による不動産M&Aの場合、売手側には譲渡所得に対して2割が申告分離課税として課せられます。譲渡所得税というのは、株主価値から必要経費を差し引いた金額から計算される税金のことです。廃業予定の企業が株式売買を行う場合、不動産M&Aによって廃業コストを大幅にカットすることができます。

一概に利益が残るということではなく、売手側企業に大きな負債や瑕疵があった場合、買手側から支払われる対価が減額したり、対価で返済を済ませるといったケースもあります。買手側企業は、株式売買によって特に掛かる税金はありません。

もし株式を譲受し、子会社となった企業を解散させ利益が発生したとしても、買手側企業が100%株式を所有しているので、課税対象にはならないのです。

新設分割と株式譲渡をした場合

新設分割と株式譲渡を組み合わせた不動産M&Aの場合、売手側には新たに会社を設立する事による、法人税や所得税、不動産所得税が課されます。ですが、一定の条件を満たすことで組織再編税制が適用され、税金が免除されるというメリットがあります。

売手側が事業の継続を望む場合、売手側のメイン経営者やその一族が株式を占有していることや、新設会社へ主要な資産や従業員を移すなど、いくつかの要件を満たす必要があります。

そして会社を設立し、条件を満たすための準備をした後、株式譲渡が行われる様になっています。不動産M&Aという目的に基づいた会社設立であることを、きちんと示しておかないと、税務調査で却下されることもあるので注意が必要です。

まずは専門家の手を借り、確実な手順で会社の分割、新設を行いましょう。

不動産M&Aのメリット

不動産M&Aには、譲渡側と譲受側どちらにも金銭面で大きなメリットがあります。しっかりと専門家を含め交渉を続ければ、どちらにも有益な結果をもたらすことが出来ます。不動産M&Aにおける代表的なメリットについて解説します。

譲渡側のメリット

譲渡側のメリットとして、不動産売買の場合に掛かる法人税や所得税といった税金が不要になる点です。

不動産売買を行った場合、最大収益の半分程の高額な税金を収める必要があったり、仲介手数料などの経費も掛かります。不動産M&Aは、株式譲渡の際に手にした対価の2割を税金として収めるのみなので、手元に多くの資産を残すことが出来るというメリットがあります。

また、廃業予定だった場合には、企業自体が譲渡されるので廃業コストの削減にもなるのです。会社分割をする場合など、手法によって掛かる税金が変わってくるので、無駄な税金を支払わないためにも、不動産M&Aに特化した専門家によって、最低限の税務コストで抑えてもらうことが重要です。

譲受側のメリット

不動産M&Aは、株式売買をして企業そのものを買収するので、不動産だけでなく、従業員や資産、負債なども全て買手側企業へと移ります。買収した企業の技術や資産、優秀な従業員などを取得出来るので、譲受側の企業には多くの恩恵が見込めます。

そして不動産M&Aで取得する不動産の多くは、市場に出回ることがほとんどない様なレアな物件です。物件を取得した後、新たな事業を展開することも可能です。事業拡大へ向け、より多くの不動産や地域への展開を見込める不動産M&Aは、譲受側にも多くのメリットがあります。

譲渡側に負債があった場合などでも、契約の段階で損害がない様に交渉を進めることも出来ますが、まずはしっかりと調査した後、契約交渉へと繋げる必要があります。

不動産M&Aのデメリット

金銭面や事業を充実させることが出来るなど大きなメリットのある不動産M&Aですが、メリットだけでなくデメリットも多くあります。不動産の専門家であっても、不動産M&Aは非常に難しいとされています。失敗しない不動産M&Aの活用のために、デメリットについても知っておきましょう。

譲渡側のデメリット

譲渡側のデメリットとして、不動産M&Aにはとても長い時間がかかります。通常半年以内で終結する不動産売買に対し、不動産M&Aは1年以上の年月がかかることもしばしばです。

不動産M&Aは、当事者間で細かい取り決めをする必要があり、交渉に非常に時間が掛かってしまうのです。また、株式をオーナー株主以外にも複数の出資者が所有している場合や、株主が反対している場合など、交渉が難航するケースもあります。

株式売買が決定してからも、法律に則り手続きを進めていく必要があります。もうひとつのデメリットとして挙げられるのが、買手がなかなか見つからないという点です。

オープンに買手を募集することが出来ないので、経営難が続き苦しい状況の企業などは、負担が大きくなってしまう可能性もあります。

譲受側のデメリット

譲受側のデメリットとしては、譲渡側企業の負債や瑕疵なども引き継ぐ可能性がある点です。譲渡側企業に薄外債務などのリスクがある場合、そのまま譲受側企業が引継ぎ、全て対応しなければなりません。

なので、事前にしっかりと譲渡側企業について精査し、不利益になる項目を交渉段階で除外していかなければなりません。不動産売買の場合は、事前に譲受側企業へマイナス要素を報告する義務が発生しますが、不動産M&Aでは報告義務がなく、独自に調査を行わなければいけないのです。

譲受予定の物件や事業に何らかの瑕疵や不具合があったとしても、株式売買が成立してしまえば譲渡側企業には一切責任がないのです。
不動産物件の調査を請け負っている業者などへ依頼する費用なども掛かってきます。

不動産M&Aの相談先

不動産M&Aを行う場合には、必ず専門家へ相談することが重要です。不動産M&Aは非常に難しく、早い段階から専門家からのアドバイスを受けて行動しなければなりません。活用を考えている企業の方は、対応可能な相談先を吟味しましょう。

金融機関

不動産M&Aを行う際に、最も気軽に相談しやすい場所のひとつが金融機関です。普段から取引している銀行であれば、業態なども銀行側が把握しているので相談も進めやすくなっています。

都市銀行では大規模な不動産M&Aに関しても対応していて、企業を紹介してくれることもあります。

物件の譲渡などに強いのが信託銀行です。資産運用などに重点を置いているので、不動産M&Aに関してもサポートしてくれます。

売手側企業に有利に対応してくれるとされているのは、証券会社です。不動産M&Aに強い専門家を紹介してくれたり、買手の紹介も行ってくれます。

M&A仲介業者

M&A仲介業者には、仲介会社とアドバイサリー会社の2種類があります。仲介者の特徴としては、まず買手を紹介してくれます。

そして譲渡側と譲受側のどちらにも有益な取引になる様に、中立の立場に立って交渉を進めてくれるので、円満に株式売買まで完了することが多いです。

アドバイサリー会社の特徴としては、依頼した側の企業と契約を結ぶので、契約した企業に有益な取引を進めます。アドバイサリー会社には買手を紹介する制度はないので、交渉段階へ進んでからの以来となります。

仲介業者、アドバイサリー会社のどちらもM&Aに関して専門知識と交渉能力に長けているので、自社に有利になる業者へ依頼するようにしましょう。

公認会計士や税理士

公認会計士や税理士への依頼は、買手が決まっている場合に行います。交渉に際して、条件の取り決めを書面化したり、税務に関しても適切なアドバイスを受けられます。

不動産M&Aは非常に細かい取り決めを行い、秘密保持契約なども結ぶ必要があります。後々問題が起きないためにも、公認会計士や税理士といった専門家が立ち合い、細部まで契約事項を精査し、明確にしていくことが大切です。

税務面に関しても、法律に則り、正しい手順で税務コスト削減へと導いてくれるという利点もあります。公認会計士や税理士もたくさん事務所があり、M&Aに特化した専門家がいる事務所がわからない場合には、コーティネーターへ依頼し、紹介してもらう方法があります。

まとめ

以前は大企業が倒産危機など不利な状況にある会社を買収するというマイナスイメージの強かったM&Aですが、成功例が増えることによりプラスの情報が出回る様になり、合理的な手法として捉えられる様になりました。不動産事業を営む企業同士で行われることの多かった不動産M&Aですが、他事業の中小企業もM&Aを活用し始めており、その注目度が伺えます。

不動産M&Aを活用することにより、新しい事業への進出や会社の規模を拡大が見込まれると注目されています。譲渡側と譲受側どちらにもメリットが大きい反面、デメリットも伴います。専門家の協力の元、正しい手順でリスクの少ない取引を目指すことが重要です。

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