静岡県は名古屋・東京間の中間位置に属しており、都市からアクセスがしやすいことから経済規模が比較的大きい県です。昔から、「産業のデパート」と呼ばれるほど食品、製造、サービス問わず様々な産業が盛んで、特に飲食品・機械器具や自動車関係の製造業が中核産業とされています。本記事では、静岡でのM&Aの傾向と事例について解説します。M&A仲介業者を選ぶ際のポイントについても触れていきますので、参考にしてください。
静岡県のM&Aの特徴
株式会社レコフの調べによると、静岡県の人口は2005年をピークに、2017年以降は人口が減少していく傾向にあります。
静岡県内には多くの工場や温泉地をはじめとする有名な観光地があり、製造業や観光業の需要は高まりつつあります。その他にも、就業者比率が大きい飲食品、電気機械器具、運用機械器具などの製造は県の中核産業です。
静岡県は年々M&A・事業継承を行うケースが増えてきています。帝国データバンクの調べによると、静岡県内では今後5年以内にM&Aに関わる企業は少なくとも38.4%という調査結果が出ています。
参考:帝国データバンク「M&Aに対する静岡県内企業の意識調査」
県内企業の3分の1がM&Aに関わってくるとなると、今後さらに高齢化や社会の大きな変化が進む中、企業規模に関係なくM&Aの必要性は高まることが予想されます。その中でM&Aを用いる企業が増えてきており、経済環境やM&Aの動向を取り上げていきます。
静岡県の経済環境
2021年現在、人口が360万55人(全国10位)に対して、県内総生産学は17兆4621億円(全国10位)です。その中でも、中核産業である製造業については、製造品出荷額は17兆1540億円(全国3位)です。
また、静岡県は人口や県内生産量から比べると一人当たりの所得が比較的高い県です。地域の経済的な豊かさを図るときに使われる指標である「1人当たり県民所得」ですが、2018年、内閣府の調べによると、県内総生産量は全国で10位ですが、1人当たりの県民所得は全国で4位でした。
参考:内閣府経済社会総合研究所「平成23年度の全都道府県の経済県民経済計算の推計結果」
静岡県の企業の廃業や解散状況とは
静岡県では、高齢化による人材不足や産業構造の変化などの問題が浮上しています。それに伴い、県内での休廃業や解散が問題視されています。帝国データバンクの「静岡県『休廃業・解散』動向調査(2021年)」によると、2021年の静岡県での休廃業・解散件数は1,502件(個人事業主含む)でした。
そのうちの49.7%が黒字決算、63.7%が代表者年齢70歳以上となっています。ということは、約5割近い企業が黒字決算のままで、6割以上が代表者の高齢化により後継者不足となり、休廃業・解散を余儀なくされています。このことから、企業代表者は引退年齢を迎えていても後継者が見つからず休廃業・解散を選択せざる得ないケースが多いということが考えられます。
静岡県のM&Aの動向について
近年、静岡県では企業の廃業や解散状況が増えている問題に対して、M&Aを用いるケースが増えてきています。買収側は、新規事業の進出や企業規模の拡大を目的としていますし、売却側はイグジット戦略や事業継承が主な目的になっています。M&A Onlineの調べによると、2018年から2021年の4年間で静岡県企業が関わったM&Aの件数の数値は以下の通りです。
- 2018年:19件
- 2019年:15件
- 2020年:14件
- 2021年:20件
こちらの数値は情報公開をしている上場企業の発表のみの件数になっています。情報公開をしていない非上場企業の件数は入っていませんので、実際にはM&Aの実施件数はもっと多いでしょう。今後もさらにM&Aを求める件数は増えてくることが考えられます。
静岡県の特産事業とは?
全国有数のシェアを誇る製造業
自動車や二輪車などの運送機械器具、ピアノ、茶系飲料などの製造業が盛んとされており、全国シェアは静岡だけで5.3%以上あり、他の指標と比べると高く、「ものづくり県」としての特徴があります。
宿泊施設件数 全国でトップ3にランクイン 観光業
日本有数の温泉地として、「熱海」「伊豆」といった観光地が有名な静岡ですが、旅館・ホテル永義業施設は東京や北海道についで全国で3位にあり、観光県としての一面もあります。近年、コロナウイルスの影響によって観光客が減りつつありますが、人気の観光スポットとして挙げられる県には変わりなく、コロナウイルスの収束と同時に観光業の方も代表的な産業の1つです。
日本一の生産量 茶の生産
静岡といえば「お茶」とイメージされる方も多いのではないでしょうか。日本の約4割近い茶園面積を占めるのが静岡県です。それに加え、牧之原、磐田原、安倍川などを含む20以上のお茶の産地があります。お茶づくりに適した気候と他にみない生産技術の高さから、多くの各種品評会で賞を受賞するなど、ブランディングとしても高い位置づけにあります。
静岡県のM&A事例
それでは、ここからは実際に静岡でM&Aの事例を紹介していきます。
明治から続く老舗呉服屋「有限会社イチマル」
1897年(明治30年)から、地元で呉服屋として老舗として店舗経営をされていましたが、今回は親子間での事業継承というケースです。時代によって移り変わりが激しいファッション業界ですが、事業継承をして若い世代に既存の風潮を継承しながら、新しい経営を取り入れたいという思いから実現しました。2019年4月から代表の方から商工会に依頼があり、その後税理士さんや継承者の方とのすり合わせを行い、2020年9月に承継完了となりました。
有名温泉街 伊豆での事業継承「株式会社 弓ヶ浜温泉」
1965年に温泉を掘り供給管を埋設して、事業がスタートした弓ヶ浜温泉。2012年に先代が亡くなり、その親族の方が一時的に事業を継ぎましたが、その後に事業継承ができる親族がいないことや施設の老朽化から管理が難しくなり、事業を廃業にすることを考えていました。
しかし、温泉業は県の観光産業と大きく密接しており、廃業となると地域経済に大きな影響を与えてしまうことから簡単に廃業することが難しい現状にありました。事業の継続支援や継承先について街に掛け合いましたが、解決先が見つからずに第三者継承という方法で探していくことになりました。そこで、今回は管理組合の70施設の組合員に事業継承をすることが決まり、交渉には弁護士と税理士が入り、2020年6月に正式に事業継承が決まりました。
理想の宿を追求した和モダンの旅館「桐のかほり 咲楽」
2006年にご主人夫妻が泊まってみたい宿を目指して、相模湾の高台に開業した桐のかほり「咲楽」。ご主人はいづれは息子に事業を引き継いでもらうつもりでいましたが、息子さんの意思を尊重し、家族間での継承を断念せざるを得なくなりました。そこで第三者継承を模索し、ご主人は後継者がいない経営者に向けたセミナーや商工会からの紹介など様々な機関から情報を集めていました。
そこで今回、業種は写真屋さんと全く異なる分野の企業でしたが、経営理念や継承先の代表の考えに賛同する部分が多く、茨城県の企業に事業継承することが決まりました。2020年10月には契約が完了し、再び癒しの宿としてリニューアルオープンされました。
まとめ
今回は、静岡県の経済環境やM&Aの事例などをご紹介していきました。本記事で静岡県の特徴を感じていただけましたでしょうか。静岡県は国内の中でも多くの工場や有名な観光地があり、製造業や観光業などを筆頭に経済的な活性をしてきています。しかし、経営者の高齢化や後継がいないことにより、せっかく資源があり、環境が整っているにも関わらず休業や廃業を余儀なくされてしまうケースが問題となっています。