スモールM&Aにおける簿外債務の対応方法とは

株主の有限責任の原則とは?

今回のコラムは、簿外債務についての第2回になります。

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結論から言えば、簿外債務を恐れる必要がないという理由は、原則的には会社の財布と会社オーナー個人の財布は別物だからです。

会社オーナーという個人と会社という法人は、当然、別人格です。ですから、もし簿外債務が見つかったとしても、その債務を返済しなければならないのはあくまでも会社であり、オーナー個人が支払う必要はありません。それはオーナーが、その会社の100%の株主であったとしても同じです。これを株主の有限責任の原則といいます。

たとえばあなたが200を出して会社を買ったとします。その会社に500の簿外債務が出たとしても、株主であるあなたにその500の返済が回ってくることはありません。

この場合、500の簿外債務の返済ができなくなって会社が潰れれば、200で買った株の価値はゼロになりますが、いわばそれだけのことです。株主の有限責任の原則の下では、リスクの最大値は自分の買った株の金額分ということになるわけです。

買収の際に個人保証がついていた場合の対処方法

ただし、オーナーが会社の債務に対する個人保証を引き受けていた場合は、別の話となります。現実的には、中小企業では、会社の債務にオーナーの個人保証が付いているケースがほとんどですから、やはり簿外債務には気を付けた方がいい、という話になるかというとそうではありません。

たしかに、会社への融資にオーナーが個人保証をしている場合は、簿外債務が出てくれば、オーナー個人の生活を直撃する大問題になります。簿外債務によって経営がおかしくなり、会社が借金を返せなくなれば、連帯保証をしているオーナー個人に借金返済が回ってくるからです。中小企業の倒産とともにオーナー個人も自己破産に陥るという、よく聞く話と同じにもなりかねません。

経営者保証ガイドラインの浸透によってM&Aはやりやすくなっている

かつては、銀行が中小企業に融資する際は、株主であるオーナー個人が連帯保証人になるのが普通でした。中小企業には、オーナーの財布と会社の財布が一体と見られても仕方ないところがあります。実際に、会社のお金がオーナーのプライベートに使われることが珍しくありませんし、中小企業は、上場企業のような、外部監査や株主による監視といったチェック体制も十分ではありませんから、中小企業の融資は、オーナーが個人保証をしてくださいということになっていたわけです。

しかしこの流れにも変化が出てきました。中小企業の経営者に個人保証を課すのは悪しき慣習だとして、それをなくそうと作られた「経営者保証ガイドライン」が、ようやく浸透してきたのです。いまでは新規貸付で、政府系金融機関では36%、民間で20%ほどが経営者保証なしで行われているそうです。

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経営者保証ガイドラインでは、会社とオーナー個人の会計管理が別だと証明できれば、個人保証を取ってはいけないとされました。会社を買ってオーナーがチェンジする際は、一旦そこで、会社とオーナーの財布は完全に分離されますから、ガイドラインの求める条件は満たすことができます。ですからここが個人保証を外す最大のチャンスなのです。このタイミングで銀行と交渉しない手はありません。

もし、買おうと思った会社に個人保証がついている場合は、個人保証を外すよう、動いてみましょう。いくつか銀行を回れば、個人保証なしで融資してくれるところがあるかもしれません。必ず見つかるとは言えませんが、会社の信用度が高ければ可能性はあります。

個人保証が外れれば、簿外債務への不安はほぼ払拭され、会社の買う際の最大のリスクは、株主の有限責任の原則通り、株を買った額ということになります。

もちろん、会社の経営がうまくいかずに、追加で費用負担が増えていくケースもあります。そのリスクも含めて、自分はどこまでリスクを許容できるのかについては、買収計画作りの段階でしっかりと考えておきましょう。

次のコラムでは、M&Aの基本的な部分として、M&Aをすることで「何が得られるのか」について考えてみましょう。


記事監修

三戸政和(Maksazu Mito)

2005年ソフトバンク・インベストメント入社。兵庫県議会議員を経て、2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行う。



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