事業再生における、事業スポンサーとファイナンシャルスポンサーとは?

事業再生におけるスポンサー

事業再生をするにあたって、スポンサーは、再生対象の会社に資金を拠出することで、再生プロセスを進める後ろ盾となるだけでなく、経営権を握るなどして、経営の改善にも主体的に参画します。

さらに、スポンサーが、株式を買い取るなどの形で資金を拠出したお金は自己資本となります。これは借金とは違い返済の必要がないため、自己資本が増えて財務状況が改善され、金融機関などからの資金調達も可能になります。

このようにスポンサーによって、再生企業の信用は補完され、経営ノウハウも注入されることで、再生プロセスが進みやすくなるのです。

そこで今回は、事業再生において必要不可欠なスポンサーの役割や選定方法についての解説をしていきたいと思います。

スポンサーの役割とは?

まず、事業再生におけるスポンサーの役割は、資金を拠出することです。

そして、そのスポンサー拠出された資金は、借金の返済や運転資金などに使われるのではなく、事業の再構築のための設備投資など、事業や収益の抜本的な改善策につながるものに使われます。さらに、前述したように、スポンサーはお金を拠出するだけでなく、経営にも関わってきます。一般的にはスポンサーが再生企業の経営権を握るケースが多く、スポンサーの持つ経営のノウハウによって、経営の改善が進められます。また、会社や事業の再生には、根本的な企業文化の改革が求められる場合もあります。それまでの経営の問題は、会社内のコミュニケーション不足や業務改善への消極性など、その会社の企業文化に根ざしていることも珍しくありません。そのため、外部から見れば明らかな問題であっても、内部では見えていないことも多く、こうした企業文化の問題を改善するのもスポンサーの役割と言えるでしょう。

そして、スポンサーによってバランスシートが改善され、シナジー効果も生まれて、再生会社の事業価値をあげることができれば、債権者や株主だけでなく従業員や取引先にも恩恵が及ぶことになり、スポンサーの重要性が伺えます。

また、このように事業再生において大きな役割を果たしているスポンサーは、主に「事業スポンサー」「ファイナンシャルスポンサー」の2種類に分けることができます。

そこでここからは、「事業スポンサー」と「ファイナンシャルスポンサー」について、それぞれのメリット(+デメリット)をお伝えしながら、さらに遡っていきましょう。まずは、事業スポンサーからいきましょう。

事業スポンサー

「事業スポンサー」というのは、本業のビジネスを持つ企業のことを指します。

そして、そのビジネスが再生会社のビジネスと関連があれば、スポンサーとなることが効果的になるケースが多いです。具体的には、同じビジネスであれば、単純にシェアが拡大し、原材料の仕入れの調達コストを下げることができたり、工場や販売拠点など重複する施設があれば、コスト削減ができますし、仕入れ先や販売網を補完し合うなどのメリットも期待できるといったようなことです。こうしたメリットがシナジー効果(相乗効果)と呼ばれるもので、シナジー効果が見込めるかどうかは、スポンサーにも再生企業にも重要な点です。

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また、事業スポンサーでは、取引先がスポンサーになるケースもあります。仕入れ先がスポンサーになると、販売先の確保できますし、その逆で、販売先がスポンサーになるケースもありますが、その場合は、仕入れのコストを削減するというメリットがあります。

もちろん、異業種の会社が事業スポンサーとなるケースもあります。このケースにおいてスポンサーは、この投資によって新規分野に算入することが目的になり、新規参入のための時間やコストを買うという意味合いになります。しかし、こうしたケースではシナジー効果は見込めないため、ファイナンシャルスポンサーによる投資と似た形になるでしょう。(*ファイナンシャルスポンサーに関してはこの後で説明します)ですが、ファイナンシャルスポンサーには、最終的には株式を売却して利益を出すという目的である一方で、このケースの事業スポンサーでは株式の売却が絶対の目的ではないため、比較的、長期的な視野で経営改善にあたることができるとされており、会社によってはこれも事業スポンサーを選ぶ大きなメリットになります。

ファイナンシャルスポンサー

対して、投資ファンドに代表されるように、ファイナンシャルスポンサーは、投資そのものを事業としているものを指します。それが本業を持つ事業スポンサーとは違うところで、メリットにもデメリットにもなりえます。

例えば、どんな会社にも存在する企業文化への影響などがそうです。事業スポンサーがスポンサーとなる場合、再生会社とスポンサーの会社の統合では、異なる企業文化が融合されることとなり、それが軋轢を生むことも少なくありません。しかし、ファイナンシャルスポンサーの場合は、持ち込む企業文化がありませんから、企業文化同士による軋轢が生まれる心配がなく、企業文化の融合が重要な問題となる事業スポンサーとは違って、事業の再生に集中することができます。これは、再生会社の企業文化についても、悪い部分は直し、いい部分は生かすという客観的な判断ができることになり、大きなメリットとなります。

さらに、ファイナンシャルスポンサーはさまざまな業種の会社に投資をし、経営を立て直すノウハウや人材を持っていることから、そのノウハウや人材を再生に生かすことができます。これまでのしがらみにとらわれることなく、リストラなどの思い切った改革を積極的に進める傾向も見てとれます。

ただ、ファイナンシャルスポンサーが、一定期間の後、株式を売却し、投資を回収しなければならないという「出口」を見据えているということには留意しなくてはなりません。事業スポンサーとファイナンシャルスポンサーのそれぞれの特徴を理解して、それぞれのケースごとに相応しいスポンサーについて検討されるべきでしょう。

スポンサーの選定方法は?

次は、今まで説明してきたスポンサーをどう選べばいいのか、つまりスポンサーの選定方法について説明していこうと思います。

まず、スポンサーの選定には、主に個別に交渉する方法競争入札による方法の二種類があります。

その中で、個別に交渉する方法は、情報が漏れるリスクが少なく、交渉も迅速に進めることができるため、スポンサー候補が限定されていたり、すでに存在したりするケースは個別交渉が相応しいでしょう。これは私的整理と似たように、再生手続きに入ったことが公表されないまま手続きを進められることがメリットであり、「再生手続きに入ったことが公になって、会社の信用が一気に失われるリスク」というを軽減することができます。

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対して、競争入札の場合は、複数のスポンサーに投資条件を競わせることで、再生企業側に有利な条件を引き出すことができます。手続きも公平で透明性があるものとなりますが、情報が漏れることで、再生企業の信用が失われるリスクがあります。また、事務作業の量が増え、時間も掛かるといったデメリットもあります。

いずれの方法を採用するかは、再生企業の状況や利害関係者の事情などを勘案して判断する必要があります。

また他にも、事前にスポンサーを選定して再生手続きを進める方法として、プレパッケージ型というのも存在します。

これは、法的整理でも私的整理でも行われ、プレパッケージ型を選択した場合、再生手続きを進めていることが公になっても、スポンサーがついていることで、再生企業が信用を落とすリスクを最小化できるというメリットがあります。

しかし、デメリットもあります。それは、プレパッケージ型の場合、早い段階でスポンサーが決まるため、情報が少ない中で判断しなければならないだけでなく、競争原理も働かないので、スポンサーによる資金拠出が少なく、再生企業側に不利な条件となることもあるという点です。このため、再生手続き開始後に入札などによっては、スポンサーを選び直すケースがあります。しかし、事前にスポンサーを引き受けたスポンサーにとっては、再選定によって、より有利な条件を示すスポンサーが現れれば、スポンサーを降りることを求められるわけで、こうしたケースが続けば、事前にスポンサーを引き受けるものはいなくなるかもしれません。

一定の条件を満たせば再選定が行われないようにする、プレパッケージ型のスポンサーを保護しようという提言も出され、スポンサーの保護のあり方については議論が続いています。

まとめ

ここまで、2種類のスポンサー、その選定方法について見てきましたが、いかがだったでしょうか?

事業再生に向けて資金を捻出したり、経営に関与したりするスポンサーには、本業のビジネスを持つ「事業スポンサー」と投資事業を本業としている「ファイナンシャルスポンサー」の2種類が存在し、各々にメリット・デメリットがありました。そして、そのスポンサーの選定方法にも「個別交渉」と「競合入札」、そして事前にスポンサーを選定して再生手続きを進める「プレパッケージ型」などがあり、再生企業の状況や利害関係者の事情などを勘案して判断する必要がありましたね。

ちなみに、参考までに、なぜここまでスポンサーが資金を拠出するのかいうと、税務上の利点があげられます。再生会社には過去の赤字によって、繰越欠損金が累積しているケースも少なくありません。繰越欠損金は一定の期間、利益と相殺することができますから、控除と同じ効果を持つことになります。再生会社とスポンサーの会社が統合することで、スポンサー会社がその繰越欠損金を利用できることも想定でき、こうした税務上のメリットもスポンサーが検討すべき材料のひとつとなります。

関連用語→繰越欠損金とは?

最後にも述べたとおり、どちらかが必ず正しいというケースは存在せず、いずれの方法が適切かどうかは、再生企業の状況や利害関係者の事情などを勘案して判断する必要があります。

どのケースが、自分の会社の終わりには最適なのか、専門家のアドバイスを受けながら、こうした複雑な問題も考慮に入れて考えることが大切です。お悩みの際是非、下記のリンクより、お気軽にご相談ください。


記事監修

三戸政和(Maksazu Mito)

2005年ソフトバンク・インベストメント入社。兵庫県議会議員を経て、2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行う。


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