事業再生に使われる第二会社方式とは?メリットと問題点について投資ファンドが解説!

第二会社方式とは?

結論から言えば、第二会社方式とは、事業再生によく使われるスキームで、財務状況の悪化した会社から、収益性のある事業のみを別の会社に受け継がせ、もとの会社は破産手続きなどによって、過剰債務や不採算事業とともに整理をするというものです。これは、事業譲渡のメリットを利用したスキームとも言うことができ、採算の合う黒字事業「GOOD事業」を他の会社に事業譲渡し、採算の合わない赤字事業「BAD事業」や簿外債務も含めた多大な負債を元の会社に残して清算してしまうという方法とも言い換えることができます。

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このスキームによって、儲かる事業や良い商品を持ちながらも、多角経営の失敗などで赤字まみれになって立ち行かなくなった会社でも、この方法を使えば、黒字部分を切り出して、一部の事業をベースに再生することができます。

具体的に、第二会社方式は、新しい会社を設立して事業を受け継がせる会社分割の方法と、別の会社に事業を譲渡する方法のふたつがあります。いずれの方法も、もとの会社には会社分割や事業を譲渡した対価が入ることになります。もとの会社は、破産や特別清算の手続きによって整理されるので、債権者にとっては、第二会社に受け継がれない債権を放棄することになりますが、会社分割などで得た対価については配分を受けることができます。

このスキームによって、過剰債務に悩んでいた経営者は、優良な事業だけを切り離して再出発することができますし、債権者は不良となっていた債権を処理することができます。取引先も事業が継続されるので影響はなしという、あらゆる関係者に有効なスキームですから、私的整理において積極的に活用されています。

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ちなみに、旧商法においては、第二会社方式を進めるには、もとの会社と新会社の両方に「債務の履行の見込みがあること」が条件となっており、これは事前に債権者の同意を得ることを意味していました。現在の私的整理においても、こうした再生スキームの選択は、債権者の同意を得ることが条件となっています。

また、平成26年1月20日に施行された産業競争力強化法の規定に基づいて、「中小企業承継事業再生計画」(第二会社方式)の認定制度が定められています。国が定める要件を満たすと、支援措置を活用することができます。

第二会社方式のメリットと問題点とは?

メリット

真っ当な会社分割や事業譲渡が行われる場合、もとの会社は、新しい会社の株式や事業の譲渡代金といった対価を得ることになります。もとの会社は整理され、債権者はこの対価と残りの資産をもとに配分を受けることになりますから、その額は、会社分割などをせずに破産手続きをして資産を分け合うよりも多くなると期待できます。これが会社分割や事業譲渡というスキームのメリットになっています。

問題点につながる濫用的会社分割とは?

このようなスキームが注目されている一方で、会社分割や事業譲渡が、債権者に同意を得ないまま進められるケースが増えてきました。

その理由としては、新しい会社法で、会社分割などが債権者の同意なく進められると解釈できる規定が設けられたことや、会社分割などを手法とするM&Aが盛んになってきたことがあげられます。

その結果として、過剰な債務から逃れるという目的のために、債権者には秘密のまま、債務者が主導して会社分割や事業譲渡を行い、債権者の権利が損なわれるという事例が多発し、問題となってきました。こうした悪質なケースは、「濫用的会社分割」と呼ばれています。濫用的会社分割に対しては、どのようなケースが「濫用的」なのか、債権者はどのように権利の回復を進めるのか、などについて議論が続いており、裁判でも判例が示され始めています。

このように第二会社方式には濫用的会社分割のようなマイナスになるような側面がありますが、このような事態を避けるためにどのような対応策をとったら良いのか次の章で説明したいと思います。

濫用的会社分割への対応策

そして、その対抗策は主なものとして、「①詐害行為取消権の行使」・「②否認権の行使」・「③法人格の否認」などの方法が挙げられます。以下、この対抗策について説明します。

①詐害行為取消権の行使

これは、民法の規定であり、債権者が自分の権利を守るために、債務者が行った行為を取り消すよう求める権利です。たとえば、債務者が、唯一の財産である車を人に譲ってしまい、債権者がお金を回収することができなくなった場合、債務者のその行為を取り消すよう裁判所に請求します。裁判所がこれを認めれば、債務者の車の譲渡という行為は取り消されることになります。濫用的会社分割のケースでは、詐害行為取消権を根拠に、会社分割の取り消しや、会社分割による所有権移転登記の抹消などを裁判で求めていくことになります。実際の裁判でも、詐害行為取消権が認められ、濫用的な会社分割などを取り消すことができるという判断が示されています。

②否認権の行使

これは、破産法に基づいて、破産手続きに入った会社の破産管財人に与えられている権利です。破産手続きでは、破産管財人が会社の財産の管理や処分の権限を持っていますが、その会社が破産手続き開始前に行っていた行為が不当で、会社の財産を損なうものだった場合、破産管財人が否認権を行使することによって、その行為を取り消し、会社の財産の回復を図ることができます。濫用的な会社分割や事業の譲渡についても、この否認権を行使することで取り消すことができると考えられており、裁判所でもこれを認める判例が出ています。

③法人格の否認

法人格の否認とは、法人が形骸化していたり、濫用的に作られたものであったりした場合、その会社の法人格を認めないという理論です。濫用的な会社分割のように、法人格の設立が濫用的であると認められれば、新しい会社の法人格は認められず、もとの会社と同一の会社と扱われることとなります。この法人格の否認は、明文化された規定はなく、一般的な法の原理から認められるものです。裁判所の判例でも、この法理による濫用的な会社分割などの取り消しが認められています。

では、会社分割や事業譲渡が債権者の同意なく行われた場合、その行為が濫用的か否かを分けるラインはどこにあるのでしょうか。結論的にいうと、合理的な債権者によって同意可能なものであれば、濫用的ではないといえるでしょう。

具体的には、

  • ①会社の経営が破綻しかけていて、このままでは法的整理に陥る恐れがあること。
  • ②会社分割や事業譲渡によって、もとの会社が、客観的に正当な評価から導き出された対価を得ていること。
  • ③債権者にとって、その会社が破産手続き、民事再生、会社更生といった法的整理手続きをとるよりも有利な支払いが期待できること。
  • ④これらを踏まえた上で、債権者に対して、会社や事業の再建計画が示され、債務が今後どのように弁済されるかが説得的に示されること。

などが条件となるでしょう。これらの条件が満たされれば、合理的な債権者には同意されると考えられますが、これはつまり、私的整理手続きを進めていくための条件とほぼ同等のものです。違うのはたったひとつであり、それは、債権者からの同意を得ているかどうかという点です。

産業競争力強化法による支援措置とは?

これまでは、第二会社方式のメリット、そして問題点とその対応策について解説してきました。そのような第二会社方式は事業再生によく使われるスキームであり、産業競争力法の規定に基づきある一定の要件を満たすと、支援措置を活用することができます。

支援措置とは以下の3つとなります。

'''(1)第二会社が営業上の許認可を再取得する必要がある場合には、旧会社が保有していた事業に係る許認可を第二会社が承継できます。
(2)第二会社を設立した場合等の登記に係る登録免許税、第二会社に不動産を移転した場合に課される登録免許税の軽減措置を受けることができます。
(3)第二会社が必要とする事業を取得するための対価や設備資金など新規の資金調達が必要な場合、日本政策金融公庫の融資制度、中小企業信用保険法の特例、中小企業投資育成株式会社法の特例を活用することができます。'''

(中小企業庁による「中小企業承継事業再生計画におけるQ&A(1)」3ページより抜粋)

まとめると、国の要件を満たせば、

・第二会社方式のスキームを用いたときに障害となる営業上の許認可の問題を解決できる

・登録免許税を軽くできる

・新規の資金調達に日本政策金融公庫の融資制度などを利用できる

これらのことができるようになります。

第二会社方式のスキームを利用すると、営業上の許認可を再取得しなければならなかったり、新たに税金がかかったり、資金調達が難しくなったりします。このようなデメリットを解決するという点において、上記支援措置は非常に有益なものとなるでしょう。

国が定める要件に関しては、是非「中小企業承継事業再生計画におけるQ&A(1)」の6~7ページを参照していただければと思います。

まとめ

以上のように第二会社方式と濫用的会社分割・その対策についてみてきましたがいかがだったでしょうか?

会社分割や事業譲渡の第二会社方式というスキームは、会社や事業の再生という観点から見れば、とても有効なスキームです。そのスキームを、濫用的でないと後から認めてもらうには、上記のような債権者が同意可能な条件で進めなければなりません。つまり、それは、事前に同意を得られる条件と同等であり、それだったら、最初から同意を得ればいいということになります。それをあえて省いて進めようとするわけですから、そこには何らかの理由があると推測されます。その理由は、債務から逃れようとするなどの悪意の可能性が強いでしょう。少なくともこれまで裁判となっているケースは濫用的と指摘されても仕方のないものばかりでした。論理的には、会社分割や事業譲渡は、債権者からの同意を得ずに進める理由はないと考えられます。

また、毎度ですが、会社の再建や事業再生には早め早めの対応が必要です。相談先は、まずは顧問の税理士さんや弁護士さんなどになるでしょうが、中小企業の再生を支援する相談窓口が各都道府県にありますし、事業再生の専門家や組織も増えてきています。我々日本創生投資もまさにその中の一つなのです。

脚注

(1)https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/saisei/2014/140630saiseikeikaku2.pdf


記事監修

三戸政和(Maksazu Mito)

2005年ソフトバンク・インベストメント入社。兵庫県議会議員を経て、2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行う。


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