ソーシングとは?現状と課題について解説

M&Aにおけるソーシングとは?

今回のコラムは、買う会社を探すプロセスである「ソーシング」の第1回です。

M&Aの案件を探すことを、業界では「ソーシング」といいます。会社は「出会い」がなければ買うことはできません。出会いのためには、自分に合う会社、買いたいと思う会社を探したり、ときには自分で「発掘」したりする作業が必要になります。それがソーシングです。いわば、結婚のための婚活ですね。

そもそも会社というのは、商品のようにパッケージされてお店に並んでいるものではありません。最近でこそ、ネット仲介を見れば、会社の売り案件が簡単に見られるようになっていますが、そういう会社であっても、クリック一つで買えるというものではありません。

売り手のオーナーが考えることは?

どんな会社を買いたいか、どんな会社なら自分は買えるか、ということがだいたいは見えてきたでしょうか。

ネット仲介に上がっている会社にも、経営者や従業員がいて、日々、一生懸命、仕事をしています。オーナーさんにとって会社は、自分の子ども同然ですから、たいていのオーナーさんは、「どこぞの馬の骨に簡単に譲るわけにはいかない」と考えているでしょう。ネットには上げてみたものの、会社を売ることが最善なのか、別の道はないかと迷い続けているオーナーさんも多いと思います。

ですからオーナーさんは、ネットを見て連絡をしてきた買い手と、すぐに交渉を始めることはしません。まずは買い手の品定めです。その買い手が、自分の会社を譲るにふさわしい人間かどうか、厳しく探ってくるのです。

それに対してみなさんは、オーナーさんとのやり取りをしながら、自分がどんな人間か、その会社を買ってどんな経営をしていきたいか、自分がいかに後継者にふさわしいかをアピールしなければなりません。

メールや電話、面談などのやり取りを経て、売り手のオーナーさんが、「この買い手なら引き継いでも良さそうだ、交渉してみよう」と考えてくれてから、ようやく、会社を買うための交渉は始まるのです。

M&Aソーシングにおける現状・課題

いま日本では、100万社の中小企業が後継者不足に直面しているとされています。しかし、M&A市場を見ると、会社を売りたい人であふれているわけではありません。私の本の影響もあるようですが、いい売り案件にたくさんの買い手が殺到して、なかなか買えないというのが現状のようです。

中小企業庁のまとめた資料によると、日本M&Aセンター、M&Aキャピタルパートナーズ、ストライクの大手仲介3社の取扱件数は、3社合計で、2013年171件、2014年234件、2015年308件、2016年387件、2018年526件となっています。年々増えているとはいえ、その数は潜在的な100万社を考えると、それほど多いとは言えません。

一方、東京商工リサーチの「休廃業・解散企業動向調査」によると、2013~15年の間に休業や廃業、解散をした会社で、利益率の判明した6405社のうち、半数を超える50.5%が黒字だったということがわかっています。

同じ2013~15年の時期に、大手仲介3社で取り扱ったのは合計で713件です。それを大きく上回る3200あまりの会社が、黒字のまま会社を畳んでいるのです。少し前のデータではありますが、次世代に引き継がれるべき中小企業の大部分は、事業承継案件として表に出ることなく、休廃業や解散という形で失われているということがわかります。

ネット仲介に上がっている案件は、多いところでも1500~2000件程度です。複数のサイトに登録しているところもあるでしょうから、実際に売り案件として表に出ているのは、各社合わせても数千件程度にとどまるのではないでしょうか。

潜在的には100万社あるはずなのに、事業承継案件として表に出てくるのは、ごく一部でしかない。なぜこんな状況なのでしょうか。

トランビを作った高橋聡さんによると、ネット仲介については、高齢のオーナーがパソコンやインターネットを使えないという問題が非常に大きいそうです。たしかに、パソコンやネットに馴染みのない高齢のオーナーが、ネット仲介に登録するのはハードルが高いでしょう。そのためネット仲介では、案件の発掘のために、金融機関や弁護士、税理士などとの連携を進めています。オーナーの周囲にいる人とつながりを作って、パソコンによる手続きなど、経営者ができない部分をやってもらうことが狙いだそうです。

いずれにしろ、表に出ている案件は氷山の一角にすぎません。スモールM&Aには、埋もれている案件をどうソーシングするかという課題があるのです。

高齢オーナーがパソコンやネットを使えない問題も大事だとは思いますが、この問題の背景にはそれよりも深刻な問題があると私は考えています。次のコラムでそのお話をしましょう。


記事監修

三戸政和(Maksazu Mito)

2005年ソフトバンク・インベストメント入社。兵庫県議会議員を経て、2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行う。



こんなタグの記事が読まれています