事業承継M&Aの課題点とソーシングの重要性とは?実際の事例をもとに紹介

中小企業のオーナーの問題点

今回のコラムはソーシング第2回です。

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スモールM&Aで、「表に出る案件が少ないという問題では、高齢オーナーがパソコンやネットを使えないから」という問題が指摘されていますが、私は、それよりも深刻な問題があると考えています。

それは中小企業のオーナーに、自分の会社の価値に気付いていなかったり、「自分の代で廃業するもの」と思い込んでいたりするオーナーが非常に多いことです。

そうした中小企業オーナーは、「自分の会社が売れる」とか「事業承継先を探す」というところまで考えが及んでいません。彼らが「M&A」や「事業承継」という方法に気付いてくれれば、会社を引き継ぐべく動いているプレイヤーたちの手も届きますが、オーナーの方々が気付いてくれなければ、プレイヤーたちの手は届きません。

M&Aのプレイヤーたちも国も、中小企業のオーナーに、M&Aや事業承継のことを知らせようとさまざまな働きかけをしています。状況は少しずつ改善できているとは思いますが、それでも、承継されるよりも失われる中小企業の方が多いのが現状です。

実際にあった事例から理解した、事業承継問題の重要性

私の運営するサロンでも先頃、この現状を象徴するような経験をしました。

サロンでは、縁あって、千葉県のいすみ市の商工会と連携して、いすみ市とその周辺の中小企業の事業承継に取り組んでいます。その過程で、私たちは、高齢夫婦の営むある大衆食堂に出会いました。

その食堂はテレビのグルメ番組に取り上げられたことがきっかけで、遠方からもお客さんが訪れる人気店となっていました。それだけ魅力的な商品を持っていたのです。しかし経営者夫婦は高齢で、私たちの訪問は、お二人が事業承継について考えるきっかけとなりました。

その店は、売るとなれば買い手は殺到したことでしょう。私たちとしてはこれから、お二人に自分の店の価値や事業承継の意義を理解してもらって、売るという手続きに納得してもらおうと考えていました。

しかし私たちにはその時間が足りませんでした。経営者ご夫婦と知り合って間もなく、ご主人が亡くなられてしまったのです。残された奥さんは、残念ながら店を畳むという判断をされました。

ご主人が亡くなられたことに私たちはショックを受けましたし、事業承継についても、私たちの手の届くところまで来ていたのに間に合わないという、非常に残念なことになりました。しかしこれが実態なのです。

長年安定した業績を上げていて、次世代に引き継がれるべき中小企業が、オーナーさんが亡くなられたり、病気をしたりという理由や、「自分の代で終わり」という思い込みや事業承継という方法を知らないという理由で、どんどん失われているのです。こうした案件は日本全国にあるでしょう。その数は膨大なものになると思います。

こうした中小企業を、会社を買おうとする人たちは、ソーシングというプロセスによって「発掘」しなければなりません。ネット仲介を見ることはソーシングのごく一部に過ぎません。買い手たちにとってソーシングとは、足で稼ぐものであり、足を伸ばすべき領域は非常に広いのです。

ソーシングがM&Aのキモであり、M&Aの成否はソーシングに掛かっていると言えます。それを指摘した上で、実際にどうソーシングを進めるのかを、次のコラムでお話しします。


記事監修

三戸政和(Maksazu Mito)

2005年ソフトバンク・インベストメント入社。兵庫県議会議員を経て、2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行う。



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