「みなし配当」とは?発生するケースと課税分類について投資ファンドがわかりやすく解説!

配当金とは?

2021年6月のある日、日本郵政(株)から送られてきた“第16期 期末配当に関するお知らせ”を読んだ多くの人が戸惑ったようです。

その大きな原因となったのは、そこに書かれていたひらがなと簡単な漢字のみで構成されるひと言でした。“みなし配当”。これが、一般的に知られる“配当”とは違うのです。

株式会社などが、利益金の1部を株主や出資者に分配することを“配当”と言うのはよく知られています。そして、株式は一般個人でも購入できます。その株式に行われる配当は、会社法453条で定義されている剰余金の配当に分類されています。“配当金”は株主に、現金で分配されます。株主は持ち株数(=出資比率)に応じて、利益の配当を受ける利益配当請求権という権利のあることが、この会社法453条で定められているからです。

これに対して、みなし配当は、法人税法第24条で定められています。会社法上の配当とは異なるのです。税法上、配当として処理され、課税なども行われます。みなし配当のことを知る前には、一般的に“配当”として認知されている方をしっかりと理解することが前提となります。

配当性向と分配可能額について

日本企業が、当期純利益(税引後利益)に対してどれくらいの配当を支払っているかご存じでしょうか?

結論から言えば、その多くが、30%くらいとされています。そして、この当期純利益に対する支払った配当金合計額の割合のことを配当性向と呼び、次の計算式から求めることができます。

配当性向(%)=支払った配当金合計額÷当期純利益×100

また、会社法461条において、配当金には、分配可能額という上限額が決められており、実際に支払う配当金合計額は分配可能額以下でなければなりません。分配可能額を厳密に算出するには、少し込み入った計算をしなければなりません。

しかし、それほど複雑な取り引きを行っていない中小企業なら、次の計算式でおおまかに算出できます。貸借対照表の各勘定科目金額の通常時の大きさから考えて、簡略化したこの計算式でも計算結果がそれほど大きく変わることはないでしょう。

分配可能額=その他資本剰余金額+その他利益剰余金額-自己株式帳簿価額

配当金は、年1回の本決算と第2四半期決算の回数、つまり、年2回支払われることが多いです。また、支払時期は、決算後2~3か月後と多くの会社がしています。

それほど大きな利益が出ていなくても配当金が支払われるケースや、逆に出ていなくても支払われないケースもあることを疑問に思った経験はないでしょうか。これは、会社の方針や会社のそのときの状況が異なるためです。

配当金の受け取り方法には、4種類の方法があります。証券口座で受け取る方法や、企業から送付される配当金領収書を郵便局や銀行へ持って行く方法などです。配当金を受け取ったあとに、それをどう活用するかによって受け取り方法を考えるのがいいでしょう。

みなし配当とは?発生する可能性があるケースについて解説!

それでは、みなし配当とは何か、適用例について解説します。

みなし配当は会計法上、配当とされることはありません。収益として算入されます。ところが、税法上では実質的に利益の分配が行われたものとされ、配当所得に該当すると認識されます。所得が発生していることから、所得税が課税されてしまうのです。このみなし配当に対する所得税額が、想定以上に大きくなることが比較的多いため、みなし配当には注意が必要です。

“受け取った金額”のうち“資本の払い戻しに相当する金額”を超える部分がみなし配当とされます。式で表すと、次のようになります。

“みなし配当とされる金額”=“受け取った金額”-“資本の払い戻しに相当する金額”

みなし配当の具体例

例えば、配当金1000円を受け取ったとします。その1000円は、次のような形で構成されています。
1000円=資本の払い戻しに相当する金額(資本金等の金額からの)800円 + 資本金等の金額以外から成立している200円
この場合、“資本金等の金額以外から成立している200円”が、みなし配当とされます。

このようにみなし配当とは、受け取った金額から資本の払い戻しに相当する金額を差し引いた金額なのですが、「資本の払い戻しに相当する金額」の算出する方法が取引ごとに細かく分かれているため、算出するのが難しくなっているのです。

一般的に認知されている“配当”に対して、法人税法第24条では、次の7つのことが生じた際、“みなし配当”が発生しうることが記載されています。この中で、M&Aによりみなし配当が生じる可能性のあるのは①と②です。

  • ①非適格合併(M&A時にみなし配当発生の可能性あり)
  • ②非適格分割(M&A時にみなし配当発生の可能性あり)
  • ③非適格株式分配
  • ④資本の払戻し(資本剰余金の配当)又は解散による残余財産の分配
  • ⑤自己の株式又は出資の取得
  • ⑥出資の消却や出資の払戻しなど
  • ⑦組織変更

①非適格合併

非適格合併とは、会社合併のうちでも、会社資産が時価で渡される場合のことです。

会社合併により、複数の会社が1つの会社になります。例えば、以下のように合併が行われるとします。

A社→合併後存続する

B社→合併後消滅する

合併が行われると、消滅していく会社Bの株主が所有するB社株式も消滅。B社の株主は対価として、存続会社AからA社株式などが渡されます。このとき、対価とされたA社株式などが、消滅するB社の資本金等の額に相当する分を超える部分が、みなし配当とされます。

つまり、この時の“みなし配当とされる金額”は次の計算式で求めることができます。

“みなし配当とされる金額”=“株主が受け取った金額”-“B社の資本金等の額”ד株主のB社株式保有割合”

②非適格分割型分割

事業のすべて、あるいは、1部をほかの企業に承継するM&A手法の1つを会社分割と言います。

関連用語→吸収分割とは?

例えば、次の場合を考えてみます。

A社→分割される会社

B社→分割された事業を承継する会社

会社分割の対価としてのB社はB社株式を渡しますが、その渡す相手がA社かA社株主かで、次のように呼び方が変わります。

渡す相手がA社→分社型分割(物的分割)

渡す相手がA社株主→分割型分割(人的分割) 

また、会社資産が、時価で譲渡される場合が非適格分割です。みなし配当は、非適格分割型分割が行われる際に生じる可能性があります。

会社分割が行われると、A社株主が所有するA社株式のうち、分割された純資産に当たる分が消滅します。その対価としてA社株主は、B社の株式などを渡されます。このとき、A社の資本金等の額に相当する分を、渡されたB社株式などの合計額が超えるとき、その超過分がみなし配当とされるのです。

具体的に計算しましょう。A社の分割される事業とA社全体の簿価純資産額の比率が、50%とします。すると、“みなし配当とされる金額”は次の計算式で算出できます

“みなし配当とされる金額”=“株主が受け取った金額”-“A社の資本金等の額”×50%(0.5)ד株主の株式保有割合”

③非適格株式分配

100%子会社の株式すべてを配当するのが、株式分配です。その株式分配のうち、一定の要件を満たしたものが非適格株式分配です。配当された株式のうち、100%子会社の資本金等に相当分を超える部分が、みなし配当であると認識されます。計算する上での考え方は、④非適格分割型分割と同じです。中小企業においては、株式分配が活用されること自体、極めてまれと言っても過言ではないでしょう。

④資本の払戻し(資本剰余金の配当)又は解散による残余財産の分配

“資本の払戻し(資本剰余金の配当)”については、前述いたしました。“解散による残余財産の分配”が行われたときも、まったく同じです。

また、計算する上での考え方も、“⑤非適格分割型分割”と同じです。

⑤自己の株式又は出資の取得

自社が発行した株式を、株主から買い取るのが自己株式の取得です。株主から調達したお金を株主に払い戻すという行為は、株主へ配当するのと同じであると解釈できます。これについても、会社の資本部分を超える金額がみなし配当とされます。

計算する際の考え方は、“①非適格合併”に近いもので、次の式で表すことができます。

“1株あたりの資本金等の額”=“直前期末における資本金等の額”÷“期末における発行済株式数”

“みなし配当とされる金額”=“株主が受け取った金額”-“1株あたりの資本金等の額”ד売却株式数”

⑥出資の消却や出資の払戻し

持分会社(合名会社・合資会社・合同会社)には、出資の後戻しという制度があります。出資した金銭などの払い戻しを持分会社の社員は請求でき、それを出資の後戻しと言います。その出資の後戻しなどにより配当を受けた金銭などの合計額のうち、持分会社の資本部分を超える金額がみなし配当とされます。

算出する際の考え方は、“⑤自己の株式又は出資の取得”と同じです。

⑦組織変更

例えば、合同会社から株式会社へ変更される場合などです。それほど頻繁に起こることではありません。「みなし配当に当たる」くらいに覚えておけばいいでしょう。

これも算出する際の考え方は、“⑤自己の株式又は出資の取得”と同じです。

まとめ

以上のように、みなし配当について解説してきましたが、いかがだったでしょうか?

みなし配当額を厳密に算出するには、詳しい専門知識が必要とされます。専門家に任せるのがいいでしょう。M&A仲介会社などでは、会計の専門家である公認会計士や税理士などを雇用しているのが通常です。

何かご悩みなどがございましたら、是非下記のリンクより、お気軽にご相談ください。


記事監修

三戸政和(Maksazu Mito)

2005年ソフトバンク・インベストメント入社。兵庫県議会議員を経て、2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行う。


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