保険代理店のM&A動向を解説!メリット・デメリット・M&Aの方法までまとめて紹介

この記事は、保険代理店の売却を検討されている方、あるいは保険業界のM&Aの最新動向に興味がある方に向けて、保険代理店売却のメリット・デメリット、最近のM&Aの動向、最近の売却事例を紹介します。

保険代理店のM&A動向

まずは、保険代理店におけるM&Aの直近動向について解説します。

保険代理店におけるM&Aの直近動向

保険代理店が扱う保険の中にも、特に生命保険は人口の減少に大きく依存するとされており、近年の少子高齢化によって、市場規模が縮小している傾向にあるとされています。また、インターネットの普及に伴い、顧客の保険に加入する方法が多様化したことにより、店舗型の保険代理店の存続が危ぶまれてきている傾向にあります。

これらの傾向を踏まえて、保険代理店業界は、販売のコスト削減や、販売ルートの拡大、シェアの拡大のための活路を見出すことが近々の課題であるといえます。これらの課題を解決するための方法として、保険代理店業界においてもM&Aが挙げられます。

買い手側のメリット

ここからは、保険代理店のM&Aについて、買い手側と売り手側のそれぞれの立場からのメリットを解説していきます。まずは、買い手側のメリットからです。買い手側のメリットには様々考えられますが、ここでは主に3つについて解説します。

短期間で新規参入が可能

1つ目のメリットは、短期間で保険代理店業界に新規で参入することが可能であることです。保険代理店を一から始めるすることは労力が掛かります。しかし、M&Aにより保険代理店を買収すると営業権を取得することができ、売却側の顧客情報や販売ルート等様々なノウハウを引き継ぐことができます。
そのため、一から新たに顧客の開拓が不要なので、その分大きな負担が掛かることなく、保険代理店を始めることができます。

低コストで新規参入が可能

2つ目は、上記①の短期間で新規参入が可能であることに付随して、低いコストで保険代理店業界に参入することが可能である点です。買収側は、売却側にもともとあるソースを使えるので一から事業を始めるよりも低コストで事業を開始することができます。例えば、従業員の教育はいちからは不要ですし、店舗を探す手間もありません。
さらには、売却側には既に顧客情報があるので、契約者の年齢層・居住地・属性、来店情報、過去の営業実績等の情報を活用して、その店舗を構える地域の特性に即した営業活動をスタートさせることができます。

コミッションを獲得できる

3つ目は、保険代理店の買収によって、ある程度のコミッション(手数料)が見込めるという点です。コミッションは、保険会社から保険代理店に支払われる手数料のことで、一般的には、加入1年目の場合、加入者が支払う保険料のうち約半分がコミッションとして保険代理店に支払われます。
その後、2年から7年の間は、保険料の10%程度が支払われ、それ以降なくなるのが一般的とされています。つまり、解約されない間は一定期間、ある程度のコミッション料を取得することが可能となります。

ただし、保全業務が発生します。保全業務とは、保険契約の保障の見直しや、給付金・保険金等の支払いにかかる業務等を指します。相当数の顧客数があれば、それに伴って保全業務にかかる負担も発生するので、その点は注意が必要です。

売り手側のメリット

次に売り手側のメリットについて解説していきます。売り手側のメリットには様々考えられますが、ここでは主に3つを挙げております。

事業の選択と集中

1つ目のメリットとして、不採算な事業や非主力事業を売却してその資金をより成長性の高い事業に振り向けることが挙げられます。保険代理店を営む会社の多くは、保険に関連する様々な事業を行っていますので、いわゆる事業の選択と集中を行うということです。

保険代理店の業務は、主に保険契約の各種手続きや保険商品の紹介、保全業務等があり、これらにかかる複雑な事務作業や保全作業には時間とコストがかかります。これらを売却することで、まとまった資金を獲得することができ、貴重な経営資源を中核事業振り向けることが可能になります。

シナジー効果の期待

2つ目のメリットとしてシナジー効果を期待することができます。買い手側が大手企業の場合、売却側は大手グループの傘下に入ることになります。そうすると、売却側は買い手側のデータやノウハウ、システム等を活用することができるので、それを従来の自社のノウハウと融合することで、シナジー効果を期待することができます。
また、大手企業が有する情報やノウハウ、システムを活用することで管理コストの削減も期待することができます。さらに、大手グループの傘下に入ったということでその知名度が上がります。ブランドに対する信頼感も生まれ、より新規顧客の獲得に繋がりやすくなると考えられます。

従業員の雇用維持

3つ目のメリットとして、従業員の雇用維持が挙げられます。近年、保険代理店業界でも、後継者が不足していると感じる経営者も少なくありません。適切な後継者が見つからなければ、場合によっては、黒字倒産を余儀なくされる場合もあります。そうすると、それまで会社に勤めた従業員の雇用を失うことになり、その家族にまで影響を与えてしまうかもしれません。

M&Aで買い手に保険代理店を買い取ってもらうことで、買い手側で雇用を維持することができるので、この問題を解消することができます。また、大手企業に買い取ってもらえれば、福利厚生や労働環境が改善され、今よりも働きやすい環境につながると考えられます。

M&Aのスキーム

では、いざ保険代理店を買収するとなった場合、どのような方法があるでしょうか。ここでは、株式譲渡と商標譲渡による方法の2つを、メリット・デメリットを踏まえながら解説していきます。

株式譲渡とは

株式譲渡とは、M&Aの手法の1つで、買収の対象となる保険代理店の株式を保有する株主から株式を買い手に譲渡してもらうことで経営権を承継する方法のことをいいます。株式譲渡契約の締結によって経営権が承継できるという簡便さから、合併などの他のM&A手法と比べて手続きが楽とされています。

また、従前の従業員の雇用関係や資産、顧客は維持することが可能です。実際にも、後述する商標譲渡よりも株式譲渡の方法を採る方が一般的です。

その一方で、株式譲渡のデメリットとしては、会社全部を承継することになるので、売却側の全ての事業を引き継ぐことが挙げられます。たとえ、買収者によって不要な事業や不採算な事業等があっても、それも含まれることになりますので注意が必要です。

商標譲渡とは

株式譲渡とは別に、商権譲渡という手法があります。商権譲渡とは、事業譲渡の一種で、保険代理店の営業権を譲渡する方法になります。事業譲渡と異なるところは、「事業」ではなく、営業権が譲渡される点です。商権譲渡によって売却側は営業権を失い、以降は買い手側が営業を引き継ぐことになります。

商権譲渡のメリットとしては、売却側の会社にまとまった資金が入ることが挙げられます。株式譲渡の場合は株式を売却する株主にその対価が支払われますが、商権譲渡の場合の対価は会社に支払われます。そのため、売却側は、商権譲渡の対価を元手に主力事業や新規事業に投資を行うことができます。

一方で、デメリットとしては、商権譲渡の手続きが煩雑である点が挙げられます。商権譲渡は事業譲渡と同様に、会社の取引行為として扱われるので、例えば従業員の雇用契約や取引の契約等をひとつひとつ見直す必要がでたりします。一般的には、株式譲渡の方法がその手続きの簡便さから、利用されることが多いです。

保険代理店のM&Aで注意すべき点のまとめ

ここまで保険代理店のM&Aについて解説をしてきましたが、最後に、保険代理店のM&Aをするとなったときに気をつけておきたい点を解説します。これを知っておくか否かで、保険代理店のM&Aをスムーズにできるか変わってくるでしょう。保険代理店のM&Aで気をつけるべき点は様々ありますが、ここでは売却側と買収側のそれぞれの視点でポイントを解説します。

売却側が気をつけるべき点

まず、売却側が気をつけるべき点としては、保険代理店が担当している保険会社に、顧客の契約を移管して問題ないか事前に相談することが必要です。保険会社が契約を買い取る意向があるかもしれないからです。買収後に実は契約がなく、コミッションを得られないという事態が発生し兼ねないです。

また、保険代理店業界のM&Aの買収金額も確認しておくべきです。将来発生するコミッションの総額を予想し、その総額の約60%程度が買収金額の相場とされています。実際の買収金額は、この目安をもとに様々な条件を踏まえて決めることになります。

買収側が気を付けるべき点

一方で、買収側が気をつけるべき点としては、売り手である保険代理店における契約者の年齢層・居住地・属性等が挙げられます。契約者が死亡することで契約が終了するため、年齢層の偏りによっては、コミッションを得られる期間が変動する可能性があります。たとえば、高齢者が多ければ多いほど、将来得られるコミッションが少なくなる可能性が高まります。

また、サラリーマンには転勤の可能性があります。遠方に転勤となるとその分のフォローに時間とコストがかかることがかかり、保全業務の負担が増えることが予想されます。このように、保険代理店における契約者の年齢層や居住地等によっては、買収後に思いもしないリスクが発生することがあるので、事前に確認することが重要です。

まとめ

冒頭でご説明したとおり、少子高齢化によって人口縮減が今後も続くことが予想され、その影響は保険代理店業界も例外ではないといえます。また保険代理店のオーナーの高齢化に伴って、適切な後継者がいないと感じている経営者も少なくありません。これまでご紹介してきた通り、これらの課題を解決する鍵として、M&Aを検討することもひとつの手段であるといえます。

保険代理店のM&Aでは、ここでご紹介した以外にも、たとえば、契約の交渉や、企業価値算定、デューデリジェンスの実施等、他にも専門的な知識が求められる場面が数多くあります。専門家に相談することがM&Aを成功に導くひとつのカギといえます。

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