株式譲渡と事業譲渡の違いは承継範囲にある

株式譲渡はすべてを引き継ぐ

株式譲渡と事業譲渡という2つのスキームについて、詳しく解説していきます。

株式譲渡と事業譲渡の最大の違いは、会社のすべてを包括して引き継ぐのか、会社を部分的に引き継ぐのかという点です。

株式譲渡は包括承継ですから、その会社の何もかも、すべてを引き継ぐことになります。その会社が持っている資産や人はもちろん、権利や契約、雇用関係、取引関係などすべてを引き継ぎます。ですから、株式譲渡では、引継ぎ後に、従業員と雇用契約を結び直したり、不動産の賃貸契約を結び直したり、といった作業は必要ありません。

事業譲渡がはらむリスク

事業譲渡は対象を特定して引き継ぐスキームです。たとえば、その会社のA事業を引き継ぐ場合には、A事業で使っている工場、機械、人など、引き継ぐものすべてを特定して、事業譲渡契約書の中に書き込まなければなりません。

事業に必要な契約は、事業譲渡の受け皿となる会社が再契約する必要があります。従業員とは雇用契約を結び直しますし、土地や建物を借りていた場合には、それらの賃貸契約を結び直します。

株式譲渡がはらむリスク

株式譲渡では、会社の契約関係や従業員など、すべてを引き継ぐわけですから、たとえば簿外債務があった場合は、その存在を知らなかったとしても一緒に引き継ぐことになります。これは株式譲渡スキームの大きなデメリットです。

一方、事業譲渡では引き継ぐものはすべて契約書に書かれていますから、そこに載っていない資産、負債を引き継ぐことはありません。簿外債務を引き継ぐことは、基本的にはあり得ません。ですから、デューデリで大きな簿外債務が見つかった場合には、事業譲渡スキームを使えばそのリスクは避けられることになります。これは事業譲渡の大きなメリットです。

たとえば、よくある簿外債務として、従業員への未払い残業代を考えてみましょう。事業譲渡の場合、引き継ぐ従業員は、受け皿会社と新しく雇用契約を結ぶことになります。事業譲渡前と後の雇用契約は別になりますから、従業員から事業譲渡前の未払い残業代を請求されたとしても、法的には支払う必要はないわけです。

ただ、注意しておきたいのは、従業員から事業譲渡前の未払い残業代の話をされた場合、法的な理由をあげて、譲渡前の話は知りませんと、ドライに線引きして主張するのは、ちょっと難しいということです。そんなコミュニケーションでは、会社の円滑な運営が難しくなります。承継オーナーとしては丁寧なコミュニケーションが求められるところです。

第二会社方式とは?事業譲渡との相性

事業譲渡のメリットを利用したスキームが「第二会社方式」です。企業再生によく使われるスキームで、財務内容の悪化した企業のうち、採算性の高い事業をほかの会社に事業譲渡し、不採算の事業と簿外債務も含めた多大な負債は元の会社に残して清算してしまうという方法です。ちなみに、採算の合う黒字事業を「GOOD事業」、採算の合わない赤字事業を「BAD事業」と呼びます。

儲かる事業や良い商品を持ちながらも、多角経営の失敗などで赤字まみれになって立ち行かなくなった会社でも、この方法を使えば、黒字部分を切り出して、一部の事業をベースに再生することができます。

このようにスキームの特徴を理解して、その案件にふさわしいスキームを使うことができれば、より良いM&Aを行うことができるのです。

株式譲渡と事業譲渡の解説、次のコラムも続きます。


記事監修

三戸政和(Maksazu Mito)

2005年ソフトバンク・インベストメント入社。兵庫県議会議員を経て、2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行う。



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