表明保証は期待しない!法務デューデリジェンスのやり方とは?

労働関係は最近のトピック

「労働関係」のデューデリでは、雇用契約や労働環境に関わるリスクをチェックします。ここは最近、とくに厳しくなっている部分です。労働基準監督署は、たとえ従業員数人の中小企業であっても、労働者からの訴えがあれば、対応します。タイムカードでの管理はできているか、有給休暇は適正か、未払賃金はないかなど、労働条件や労働契約で労基署に指摘されるようなリスクはないか、しっかりチェックしましょう。

許認可や紛争についての対処

「許認可」については、ビジネスに必要な許認可は何か、適正に取得しているか、届け出は適正かなどを確認します。

「紛争」については、オーナー側から申告してもらって、もし、紛争や訴訟があれば、書類などで状況を確認します。ただ、紛争やもめごとは、売り手はあまり表に出したがりません。よく覚えていないということもあり得ます。買い手としては、表明保証を取りながら、労働関係や取引関係のヒアリングをして、それらがないか探りながら確認するようにしましょう。

海外に関係会社がある場合の法務DD

「子会社」については、資本的、人的な部分、取引や契約などの関係を、法的な面から確認します。

海外に関係会社がある場合は注意が必要です。国によっては、外資に対する規制が強いところがあるからです。

たとえば中国では、外資の会社が100%の株を保有して会社を持てません。たとえば、アパレル系の会社で、中国の縫製工場で商品を生産しているところは多いですが、その工場は100%の子会社ではないということです。

100%の子会社ではないということは、その工場との関係性には大きなリスクが出てきます。その工場が、売り手オーナーと現地の人との信頼関係で成り立っていたとしたら、オーナーチェンジをすると、その工場との関係が維持できない可能性がでてくるからです。

ですから私は、海外に関係会社を持つ会社にはあまり手を出さないようにしています。こういうケースは、スモールM&Aのレベルでは、よほどその国に知見があるとか、地の利を持っているということでなければ、リスクを取っていくケースではないでしょう。

表明保証にはそれほど期待できない

債務や紛争についての法務デューデリに関連して、表明保証でリスクヘッジをするという話をしました。表明保証について少し指摘しておきます。

表明保証というのは、売り手側に「これで全部です」と保証してもらうことです。最終合意契約書では、債務や紛争の部分だけでなく、さまざまな点で表明保証を求め、契約書に書き込んでおくのが通常のやり方です。

表明保証を取っておけば、後に、確認したもの以外の債務などの問題が出てきた場合、その対応は元オーナーがすることになります。しかし、これはあくまでも原則に過ぎません。

たとえば、表明保証外の新たな債務が出てきた場合、元オーナーに「そんなの払えない」と言われてしまったら、契約上、お金を借りたのは会社ですから、こちらが払わないといけなくなるのです。

表明保証を取ろうが、相手に払わないと言われればどうしようもない。表明保証とはその程度のものです。裁判に訴えても同じです。裁判所に命じられようが、その人が「払わない」ということであれば、いかんともしがたいのです。「ない袖は振れない」と開き直られたら、手の出しようがありません。

表明保証は、一応のリスクヘッジにはなりますが、それほどの効果は期待できません。買い手側にとっては、気休め程度と考えてください。

スモールM&Aにおいて契約よりも大事なこと

これが、大企業同士のM&Aなら違います。「払え」「払わない」という対立となって、裁判に訴え、裁判所が払うべきとしたら、大企業としては社会的信用をなくすわけにはいきませんから、踏み倒すことはできないでしょう。

しかし中小企業は個人と同じレベルです。契約書でガチガチに固めようが、どんなリスクヘッジをしようが、裁判に訴えようが、すべて属人的な問題になってしまうのです。

ですから、スモールM&Aでは、契約書やリスクヘッジの方法が大事なのではありません。大事なのは何より、売り手と買い手の信頼関係を保つこと、関係性を大事にすることです。契約書より何より信頼が大事、それがスモールM&Aの世界です。

次のコラムからは、実行フェーズのもうひとつの柱、事業計画作りについての解説に入ります。


記事監修

三戸政和(Maksazu Mito)

2005年ソフトバンク・インベストメント入社。兵庫県議会議員を経て、2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行う。



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