fbpx

M&Aで重要視される簿外債務とは?具体例や対応策について投資ファンド目線で解説!

簿外債務とは?

中国の不動産業界大手・中国恒大集団の経営危機については、日本でも多く報じられました。米金融大手のJPモルガン・チェースが推定したところ、中国恒大集団を含む多くの中国不動産大手には、巨額の簿外債務のあることが2021年10月に判明しました。その額は何と、数十億ドルにもなる可能性があるといいます。

では、この簿外債務とは一体なんなのでしょうか?

結論から言えば、簿外債務というのはまさに読んで字のごとく、帳簿上に記載のない債務のことです。簿外債務が特に中小企業において少なからず存在するのは、中小企業が現金主義という考え方の下に、会計処理を行うことが少なくないからです。

実際は昨年に売れた商品の入金が今日あったとしても、今日の売上として処理されるのです。現金が動いたときに記帳が行われる現金主義には、不正を行いにくく、取り引き管理に費やす手間暇を小さくできるというメリットがあります。

しかし、その一方でその会社の帳簿が、会社の状況を正確に表すことができないというデメリットもあります。商品の保管場所が非常に小さく、仕入れたその日中に商品を売り切れば、その日は店じまいするような小さな商売なら話は別です。ところが、企業取引において、ものやサービスの提供タイミングと現金が動くタイミングが一致しないことは、こと商売の規模が大きくなればいくらでも出てきます。現金主義を採用している結果、「当期損益計算書」とされている書類が、その中小企業の当期取引の実態との間で差を生じてくるのです。

関連記事→基本的な簿記の解釈について学ぶ記事

また、「貸借対照表をよく見せたい」というM&Aの売り手側企業の思惑が、簿外債務を生じさせている場合もあります。これにより、自社を高く買ってもらうことを意図しているのです。

しかし、これをやってしまうとのちのち、トラブルに発展することがほとんどです。結局損をするだけですので、厳に慎むべきでしょう。

M&Aでよく見られる簿外債務の種類を具体例を用いて解説!

M&A(買収)を行う際には、売り手側企業の評価(デューデリジェンス)が行われます。この簿外債務が反映されていない損益計算書をうのみにして、売り手側企業の評価を行えないのは明らかでしょう。従ってM&Aを実行する際には、簿外債務の把握が念入りに行われます。そして、その際に見つかることの多い簿外債務には、以下の3つがあります。

未払い賞与

俗に「ボーナス」とも言われるものとほとんど同義の賞与ですが、設定される支給(査定)対象期間と実際の支払い時期に、ズレのあることが一般的には多いのです。日本の多くの企業で、賞与は毎年6月と12月の年2回支払われます。そして、6月に支払われる賞与の支給(査定)対象期間は前年12月から今年の5月であり、それも3月末日を境に、2つの期に分かれているものです。

さらに、その賞与支払いに備えて計上する賞与引当金の計上タイミングは、3月末日(前期決算末)などとされることがほとんどです。現金主義で会計処理を行っている会社からすれば、引当金を認めること自体が矛盾であり、放置された上、おざなりにされることも珍しくはないのです。

退職給与引当金

将来従業員が退職したときに支払うお金をある程度前の期から退職給与引当金として、貸借対照表の負債の部に計上することが一般的には行われています。ところが、現金主義で会計処理をしている中小企業では、実際に退職金が支払われたときに費用計上されることが多く行われます。そのため退職給与引当金が、簿外債務として見つかることが少なくないのです。

債務保証損失引当金

買い手側企業が他者の債務を保証している場合があり、これを債務保証と言います。他者が債務の履行をできなかったときに備えて、債務保証損失引当金を計上することが通常行われます。他者が債務を履行することが予定されていることから、現金主義を採用する中小企業では債務保証損失引当金の計上がなされていないことが多く、簿外債務となりやすいのです。

リース債務

リース会社が、顧客に代わって機器や設備を購入。それらを会社に長期間賃貸するするのがリース取引です。購入するのと比べて費用を抑制できることから、中小企業はリース取引を多く活用しています。

そのリース取引は基本的に、ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引に大別されます。さらにファイナンス・リース取引は所有権移転ファイナンス・リース取引と所有権移転外ファイナンス・リース取引があり、中小企業は所有権移転外ファイナンス・リース取引において賃貸借取引が認められているのです。

リース料の支払いを月々の支払いとしたい中小企業は、所有権移転外ファイナンス・リース取引を選び、しかも現金主義を採用していることから、毎月の支払い時にその金額を費用計上します。それに対してリース債務は、リース取引開始時にリース資産・リース債務、ともに計上し、リース資産を一定期間ごとに減価償却していく売買処理が一般的には行われます。この差が、中小企業で簿外債務を生じやすい原因となっているのです。

残業代の未払分

中小企業ではサービス残業が、多く行われているのが実態です。しかし、タイムカードなどの勤怠記録には、残っていない場合もあります。それでも労働基準法では、そういった記録ではなく、実際の残業時間で残業代が判断されます。残業を証明できるような証拠で残業代を請求されれば、その支払いに応じる必要性も出てきます。

デューデリジェンスの際に、社長などの会社幹部や詳細をよく知る現場責任者などへのヒアリングで、支払われていない残業代が明るみに出ることがよくあります。残業代の未払分は、簿外債務として見つかるものの中で、最も多いものの1つです。

買掛金の未払分

取引先に対する支払いが行われていないときの未払い金が買掛金です。長年にわたり取り引きを行ってきた取引先の買掛金などは、いくつかをまとめて計上するようなことが中小企業ではしばしば行われています。

同様に、リース料金・保険料金・ガス代・電気代などの未払分の計上漏れも、簿外債務となりえます。

社会保険金の未払分

これもデューデリジェンスで、簿外債務として見つかることが多いです。原因は中小企業の従業員の中でも、こと契約社員やパート従業員に、社会保険へ加入させていないとが一定の率で存在しているからです。

これについてデューデリジェンスで洗い出しができなかった場合のことを考え、M&A契約書内の表明保証で担保することが多く行われています。また、M&A価格から、社会保険金の未払分を差し引くこともよく行われます。

係争中の裁判や訴訟される可能性

これらが存在する場合、将来、損害賠償を請求される可能性があります。いまだ判決が確定しているわけではなく、予想される請求額が計上されることも多くはありません。訴えの内容にもよりますが、賠償金額が極めて大きくなることもありえます。

また、期待していた売り手企業の許認可が、停止されたりすることも考えられます。“場所”に対して付与される許認可も、中にはあるのです。その獲得に大きく期待してM&Aを実行したところ、停止となってしまったときの損失は、計り知れないものがあるのではないでしょうか。

簿外債務を見つける方法とは?種類ごとに解説!

簿外債務を完全に洗い出すことなく、M&Aで買収を実行してしまうと大きな損失を被ってしまうことになります。簿外債務の洗い出しをできるだけ完全なものに近づけるため、主に次の2つの方法があります。そして、その1つはもちろん、前述のデューデリジェンスであることは言うまでもないでしょう。

①デューデリジェンス

可能なかぎり隅々まで漏れなく、デューデリジェンスを行います。M&A実行時、こと買い手側にとって売り手側の簿外債務洗い出しは、最重要課題であると言っても過言ではありません。

売り手側企業の事前調査手続きであるデューデリジェンスでは、売り手側企業の事業に対して、財務や法務などの面から徹底的な精査が行われます。非常に高い専門性が求められることから専門家の協力の下、その手続きは進められます。

その道の専門家には、監査業務を独占業務とする公認会計士がいます。公認会計士なら、帳簿の流れについては知り尽くしています。会計監査の経験が豊富で、ある程度までなら簿外債務を推し量ることもその経験上可能です。

デューデリジェンスの専門家ではない人に、簿外債務を見つけ出すことは難しいことです。しかし、専門家への依頼には費用がかかります。とはいえ、買収規模が小さいなどの理由で、そのままM&Aを実行してしまうと、後に訴訟へと発展することもありえます。コンサルティング会社も含めた専門家への依頼は、必須と考えていいでしょう。

②表明保証

完璧なデューデリジェンスの行われることが望ましいですが、費用や時間などに制限があり、完璧な簿外債務の洗い出しができないこともありえます。それでも、M&A実行後に簿外債務や粉飾決算が見つかっても、大きなトラブルに発展することも考えられます。

大ごとになってしまう可能性を、デューデリジェンスだけを行う場合より小さくするために行われるのが、表明保証という事項を契約書内に設けることです。ある程度大きな会社では法務・財務・税務などについては、きちんとされているものです。

しかし、親族だけで経営が行われているような中小企業では、俗に言う「なあなあ」の関係で仕事が行われている場合が少なくありません。デューデリジェンスではあぶり出すことができなかった簿外債務などの瑕疵でさえも、事業内には存在しないことを契約書上で売り手側に表明させるのが表明保証です。

デューデリジェンスのさらなる予防線的役割が、表明保証にはあるのです。M&A実行後に簿外債務や粉飾決算が見つかったときには、契約解除や損害賠償などの請求ができることが、表明保証の内容として記載されています。

簿外債務への対応方法は?

いくら専門家でも時間的制約などもあり、デューデリジェンスで100%簿外債務を発見することは難しいものです。しかし、そのときの対応方法はあります。

①表明保証どおりに

買い手側に何らかの損失が生じたときには、表明保証に書かれていたとおり、契約解除や損害賠償の請求を行います。

②M&Aの計画変更

M&A手法にはいくつもありますが、中でも中小企業のM&Aで多く行われているのが株式譲渡と事業譲渡です。そして、事業譲渡には事業のすべてを譲渡する方法と1部だけを譲渡する方法のふたとおりあります。事業譲渡なら簿外債務を除外することはもちろん、欲しくもない契約や資産も除外し、手に入れたい事業だけを承継することが可能です。その事業譲渡に変更するのもいいでしょう。

③M&A自体の取りやめ

M&Aを実行したままことが進んで得られる利益より、簿外債務から生じる損失の方が大きいと考えられるときには、M&Aそのものを取りやめることが推奨されます。

まとめ

売り手側が悪意を持ってM&Aを推し進めることも、ないわけではありません。それをけん制できる表明保証には、一定の効果があります。アメリカの契約実務に取り入れられていた表明保証が、ここのところ日本でも採用されるようになり、むしろ一般的なものになってきました。

M&Aにおいて、簿外債務の洗い出しは非常に重要です。しかし、表明保証をどういった形で設定するかも含めて、簿外債務のしっかりとした洗い出しを行い、買い手にとって有益なM&Aを実行するには、M&A仲介会社や公認会計士など専門家の力はなくてはならないものです。

是非下記のリンクよりお気軽にご相談ください。


記事監修

三戸政和(Maksazu Mito)

2005年ソフトバンク・インベストメント入社。兵庫県議会議員を経て、2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行う。


こんなタグの記事が読まれています