事業譲渡と会社分割の税務上の違いやメリット・デメリットを紹介

事業譲渡と会社分割は、事業の一部あるいは全てを別の会社に引き継がせるという点で共通しているM&Aの手法です。しかし、詳しく見れば、いろいろと違いも見えてくるでしょう。今回の記事では「株主総会の特別決議が必要なのか」、「会計処理はどうなるのか」、「許認可は引き継がれるのか」、「債権者保護はどうなるのか」、「消費税は課せられるのか」といった疑問点に関するそれぞれの違いや、メリットなどを解説していきます。

事業譲渡と会社分割とは何か

事業譲渡

事業譲渡とは、会社法第467条第1項に基づき会社の事業を一部あるいは全てを他の会社に譲渡(売買)することです。ここで言う事業とは、取引に使っていた商品の在庫や生産拠点である工場だけでなく、従業員・取引先との関係・所有している技術や法的な権利なども対象になります。

事業譲渡を行うときには、買い手の会社と従業員の間で雇用契約を締結しなければいけませんし、不動産に関しては登記移転の手続きが必要です。そういった手続きを一つずつやることになりますから、事業譲渡は手間がかかります。

事業譲渡において、譲渡の対象となるのは事業だけで経営権は対象外です。したがって、事業譲渡が行われた後も売り手の会社は組織として生き残ることができます。なお、売り手の会社に対しては「20年の競業避止義務」が課せられます。売り手と買い手の合意なしに、同一のエリアで譲渡した事業と同じものはできないという制約です。その点を理解していないと、後々になってトラブルが起きる恐れがあります。

会社分割

会社分割とは、株式会社または合同会社で運営する特定の事業について、権利義務の全てあるいは一部を別の会社に移転させることです。会社分割は、移転先の会社によって区別することができます。

新しい会社に分割する場合は「新設分割」、既存の他社に移転場合は「吸収分割」です。M&Aの場合は、会社分割を行う会社に対して対価を渡すのですが、その対象で区別できます。

分割を行う会社が対価を受け取る場合は「分社型分割」で、分割を行う会社の株主が対価を受け取る場合は「分割型分割」と呼ばれます。会社分割は権利義務をまるごと移転させることができるので、契約や権利について個別に手続きをしなくて済みます。

事業譲渡と会社分割の違い

株主総会の特別決議が必要なのか

事業譲渡において譲渡会社は、事業のすべてあるいは重要な一部の譲渡する場合、原則として株主総会の特別決議が必要です。譲渡される会社も、対価として渡す財産が純資産の5分の1を超える場合は株主総会の特別決議がなければいけません。会社分割においても、株主総会の特別決議が必要です。株主総会の特別決議が必要ということは、反対を受けることもありえます。株主に事業譲渡あるいは会社分割の趣旨を丁寧に説明する必要があるでしょう。なお事業譲渡は一定の条件で株主総会を経ずに手続きを進められるので、迅速に終わらせたいときには便利です。

会計処理はどうなるのか

事業譲渡は売買契約に基づく取引であり、時価総額から簿価総額を差し引いた金額が事業譲渡益です。譲渡した会社では、借方に現金預金(売却価格)、貸方に譲渡対象の資産の簿価と事業譲渡益を計上します。

一方で、譲渡された会社は、借方に譲渡対象の資産の時価を、貸方には現金預金を計上することになります 会社分割では、分離元企業(分割元の会社)、分離先企業(事業を受け入れる会社)、分離元企業の株主、分離先企業の株主という4つの主体で会計処理が必要です。

また、会社分割には「新設分割・分社型」、「新設分割・分割型」、「吸収分割・分社型」、「吸収分割・分割型」の4パターンがあり、個々の事例に合わせて仕分けをすることになるでしょう。

例えば「吸収分割・分社型」であれば、分離元企業では分割する事業の負債と分離先の企業の株主を借方、分割する事業の資産と譲渡損益を貸方に計上します。分離先の企業は譲り受ける事業の遺産が借方、譲り受ける事業の負債と株主の発行で得た資本金が貸方となります。

この場合、分離元企業と分離先企業の取引なので、それぞれの株主で仕分けをする必要はありません。

許認可は引き継がれるのか

事業譲渡において、許認可は引き継ぐことができないので取り直しが必要です。そのため、事業譲渡をした直後に、営業ができないケースもあるので注意しなければいけません。

なお、許認可の種類によって、経営力向上計画を役所に提出することで引き継げる場合もあります。会社分割では、継承できるもの、行政庁の許可を受ければ継承できるもの、継承が認められないものがあります。

事業の内容によって、確認が必要です。 #債権者保護はどうなるのか 事業譲渡において、異議があれば一定期間内に申し出るようにと伝える「債権者保護手続き」は不要です。

しかしながら、債権者一人ひとりに同意を得なければいけません。会社分割においては、債権者保護手続きが必要です。こちらは、債権者ひとりひとりの同意は不要です。

消費税は課せられるのか

事業譲渡は売買契約であり、消費税が課せられます。譲渡する事業の中で、消費税で課税対象となるのは、有形固定資産(土地以外)・無形固定資産・棚卸資産・営業権(のれん)です。会社分割は、消費税法で対価を伴う資産譲渡の対象外となっており、消費税は課せられません。

事業譲渡と会社分割のメリットとは

事業譲渡のメリットは、売り手側からすると譲渡対象を選択できるので、不採算事業だけを切り離したり必要な事業を残したりという選択ができることです。人材も対象であり、会社の将来を担う従業員を残すこともできます。買い手側のメリットは、引き継ぐ事業を特定できることです。将来的に問題となる偶発債務のリスクを抑えることができます。

会社分割のメリットは、権利義務を一括移転(包括継承)できるので、手続きがスムーズに進めることがメリットです。また、対価として金銭以外のもの、例えば新株なども選べます。資金に乏しい中小企業も会社分割であれば、M&Aが可能です。

事業譲渡と会社分割はどちらを選べば良いのか

事業譲渡と会社分割ですが、売り手・分割元の会社と買い手・事業を受け入れる会社の事情によって適切な選択肢が異なります。事業譲渡の方は、売り手が事業を売却して資金を得たいときには最適です。

また、対象となる事業について、細かく選択できることから将来のために特定のものを売り手が残したいときには便利でしょう。会社分割の方は、事業譲渡に課せられる20年の競業避止義務を分割元の会社が回避したい場合、資金に乏しい会社がM&Aを試みたい場合、面倒な手続きをせずに事業を継承させたいという場合に最適です。

それでも、どちらを選ぶべきかと判断に迷うならば、専門家に相談をしてみましょう。

まとめ

似ているようで、実は違いのある事業譲渡と会社分割。M&Aを検討しているならば、自社と相手の会社の状況を照らし合わせて、最適な選択をしてみましょう。しかしながら、税務上の手続きなどには、複雑な部分もあります。十分に理解していない状態で、事業譲渡あるいは会社分割をするのはリスクがあります。専門家に力を借りるなど、2つの手法を完全に理解してから取り組むことをおすすめします。

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