株式譲渡とは?
M&Aの略称は、Mergers And Acquisitions(合併と買収)ですが、Acuisitions(買収)側の主な手法の一つに、株式譲渡と呼ばれるものがあります。今回の記事では、株式譲渡について解説し、この手法のメリット・デメリットについて投資ファンド目線で解説したいと思います。
「株式譲渡」とは、売手となる会社が発行している株式を一般的には、最低でも2分の1以上、多くは3分の2以上の議決権株式を買収することで経営権を取得する手法です。
すなわち、その会社の経営権を取得することになり、会社の全てを包括して引き継ぐので、その会社が持っている資産や人はもちろん、権利や契約、雇用関係、取引関係など全てを引き継ぎます。
それでは、このスキームを利用するメリット・デメリットについて次の章で解説したいと思います。
株式譲渡スキームのメリット・デメリットとは?
株式譲渡とは、その会社の経営権を取得する手法でしたが、一体どのようなメリット・デメリットがあるのか、投資ファンド目線で解説したいと思います。
以下の図は、株式譲渡のメリット・デメリットをまとめたものになります。
それでは、メリット・デメリットについて細かく解説していきます。
メリット
まず、メリットについて解説しますが、大きくまとめると以下のようになります。
1. 承認手続きの容易さ
2.包括的な承継
3.繰越欠損金
4.取得税
それでは、それぞれの項目について解説します。
1.承認手続きの容易さ
株式譲渡スキームでは、例え株式100%の買収であっても、取締役決議のみでM&Aの実行が可能です。株式譲渡以外のスキームに事業譲渡と呼ばれるものがありますが、この手法では取締役決議に加えて、株主総会の特別決議が必要になります。
関連用語→事業譲渡とは?
このように承認手続きがしやすいという点が株式譲渡のメリットと言えます。
2.包括的な承継
株式譲渡スキームでは、売り手が保有している契約や資産は、手続きのみで包括的に承継が可能です。
例として、許認可と従業員についての対応を説明します。
もし医薬品に関するM&Aを実行する際に、株式譲渡の場合は、包括的であるので、医薬品の販売等に必要な許可を引き継ぐことが可能です。又、もし従業員の契約を結ぶ際に、この契約自体も承継しているので、新たに従業員の契約を結ぶ必要がありません。
チェンジオブコントロール条項と呼ばれる特殊な条項が入っていない限り、このように引継ぎ後に新たな契約が必要ありません。
関連用語→チェンジオブコントロールとは?
先ほども紹介した、事業譲渡と呼ばれる手法では、許認可を取得し直したり、従業員と新たに契約を結ぶ必要があるので、このような手間が省けるメリットがあります。
3.繰越欠損金
繰越欠損金とは、赤字を一定期間、損失として貯め込んでおけるという税制上のルールです。繰越欠損金があれば、経営が黒字に転換しても利益が繰越欠損金分を上回らない限り、税金を払わなくていいことになります。
株式譲渡の場合、この繰越欠損金を引き継ぐことはできません。買収対象となる会社が1億円の繰越欠損金を計上していたとすると、買収後黒字になっても、利益が1億円を超えない限り、税金を払わなくていいということになります。
4.取得税
株式譲渡では株式の所有者が書き変わるだけなので、取得税はかかりません。例えば、事業譲渡スキームで買い取ったものによって税金がかかります。土地を買い取れば、不動産取得税、登録免許税がかかります。
デメリット
続いて、デメリットについて解説します。大きくまとめると以下のようになります。
1.簿外債務
2.のれんの扱い
それでは、各項目について説明します。
1.簿外債務
簿外債務とは、帳簿に載っていない、帳簿外の負債です。
株式譲渡では会社の契約関係や従業員などを全て引き継ぐので、簿外債務があった場合、その存在を知らなかったとしても一緒に引き継ぐことになります。デューデリジェンス で簿外債務がないかしっかりとチェックする必要があるでしょう。
2.のれん
通常、純資産に一定額を上乗せして会社を買い取ります。本来、会社の価値は貸借対照表に載っている純資産が全てですが、上乗せした分を「のれん」と呼びます。こののれん資産の扱いができるのは事業譲渡スキームだけで、株式譲渡スキームではできません。事業譲渡スキームにおいて、「のれん」は減価償却できることになっています。すなわち、その分の費用が増えて、結果として税金が減ることになります。しかし、株式譲渡スキームでは、貸借対照表そのものの持ち主が変わるだけなので、BS上は資産の移動がありません。したがって、のれんは減価償却できるというルールが使えません。
株式譲渡による手法は、このようなメリット・デメリットがあります。税金に関する説明をしましたが、実際に行う際は、税制が変わっていたりするので、税理士さんに確認しながら行うと良いでしょう。
株式譲渡の事例
これまでは、株式譲渡の手法、そしてメリット・デメリットの説明をしてきました。この章では、実際に行われた株式譲渡の事例をご紹介したいと思います。
ニトリの株式譲渡
株式譲渡の具体例として、家具や家庭用品を扱うニトリHDが、ホームセンター事業に従事する島忠をTOB(株式公開買い付け)で買収したのが挙げられます。ニトリの店舗数は国内外600余りの店舗数を誇りますが、首都圏進出には余地と費用の限界を迎えていました。一方で、島忠の店舗数は60店舗と少ないものの、店舗の9割が首都圏に存在していました。
このM&Aによって、ニトリは、進出困難だった首都圏店舗で、高品質家具を、島忠は、全国さまざまな地域で、ホームセンター商品とホームファッション商品を売ることができます。このようなシナジー効果を獲得するために、ニトリHDが発表したTOB価格は1株当たり5500円で、買い付け予定の下限を島忠株式の50%として、買収計画を立てていました。
まとめ
今回の記事では、会社の買収方法の一つである株式譲渡のメリット・デメリットについて説明しました。今回の説明で出てきた事業譲渡スキームと株式譲渡スキームはよく使われる手法です。それぞれの特徴を理解し、そのときにあった手法を選択すると良いでしょう。また、税制面の説明を行いましたが、実際に行う際は、しっかりと税理士さんに確認しながら進める必要があるでしょう。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
記事監修
三戸政和(Maksazu Mito)
2005年ソフトバンク・インベストメント入社。兵庫県議会議員を経て、2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行う。