基本合意契約書とは?
基本合意契約書は、本格的デューデリジェンスなどのM&Aの実行フェーズに入ることを確認するための契約書です。
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そして、最初に一番重要なことを言いますが、この基本合意契約書には、契約書といえど、法的拘束力がありません。これは、実行フェーズの結果次第では、売り手買い手双方とも、意思決定が変化する可能性があるからです。例えば、DD(デューデリジェンス)の段階で未払い残業代が発覚したり、将来的に大きくなりうるリスクが発覚したりするなど、基本合意書締結後の段階でも、会社の価値を下げるような事柄は多種多様に登場してきます。
契約する当事者(特に買い手)としては、本当は法的拘束力を付けたいところですが、この段階では、約束に近い形で、基本合意契約書(MOU)を結んで、お互いに相手を信頼して、実行フェーズ、最終合意へと進んでいくことになります。
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しかし、いくら法的拘束力を持たない契約書であっても、基本合意契約書(MOU)自体は、M&Aフローにおいて必要になりますので、今回のコラムでは、基本合意契約書に書かれている項目を一つずつ解説していきたいと思います。
また、この記事の最後に、基本合意契約書のサンプルを貼っているので、もし使うことになった際には、ぜひご活用ください。
基本合意契約書を項目ごとに投資ファンドが解説!
第1条(目的)
本合意書は、買主、対象会社の一層の発展を目指し、対象会社の発行済み株式の全部を、売主が買主に対して譲渡することにより、対象会社の経営権を売主から買主に移転することを目的とする。
第2条(株式譲渡)
1 売主は、買主に対し、対象会社の発行済株式の全てである○株(以下「対象株式」という。)を譲渡するものとし、買主は売主からこれを譲り受ける(以下「本件株式譲渡」という。)。
2 対象株式の譲渡価格は、金○円とする。
また、第5条に規定する本件調査の結果、次の各号に掲げるような価格調整を行うべき必要性が生じたときは、買主及び売主は、協議のうえ上記の本件譲渡価額を変更することができるものとする。
1.役職員の継続勤務のために報酬給与の引き上げが即座に必要とされ大幅に利益が減少する場合
2.対象会社の◯年◯月期の予算達成の蓋然性が著しく低い場合
3.対象会社の◯年◯月期の予算達成に際し追加で大幅な運転資金が必要となる場合
4.著しい未払労務債務が存在した場合
5.帳簿上資産に著しい含み損や偶発債務が存在した場合
この合意書の目的(第1条)を示し、価格と株式譲渡や事業譲渡などのスキームを示します(第2条)。同時に、DDをした結果、価格が変更される可能性について列記します。
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この例では、「役員報酬や従業員の給与水準が低く、上げる必要性が出た場合」「予算の達成ができなかったり、追加で運転資本が必要になったりした場合」「未払賃金が明らかになったり、含み損や偶発債務が出たりした場合」などを示しています。いずれも後出しじゃんけんをしないために、ここで示しておくものです。先に示せるものは示しておくことが、売り手の信用を維持するための基本姿勢です。
第3条(最終契約書の締結)
買主及び売主は、本合意書に規定されたすべての事項が実施・確認され、本件取引に関する諸条件につき合意した後は、遅滞なく本合意書と同様の趣旨を骨子とした株式譲渡に関する具体的内容を定めた最終契約書(以下「最終契約書」という。)を締結するものとする。
第4条(最終契約書の締結)
買主及び売主は、下記の基本日程を目標として本件を実行する。
記
○年 ○月○日 第5条に定める調査の実施
○年 ○月○日 最終契約書の締結
○年 ○月○日 本件株式譲渡
交渉がまとまったら最終契約書を結ぶことを約束して(第3条)、その期限を記します(第4条)。期限を決めることは、売りの立場でも買いの立場でも大事になります。
というのも、期限を決めておかないと、交渉がダラダラと長引くことになるからです。とくに交渉がうまく進まなくなったときに期限がないと、交渉を終えるきっかけがつかみづらくなります。期限を決めておけば、そこでもうやめようということになるのです。期限を決めておくことは非常に大事です。
第5条(調査)
1 買主は、対象会社の事業及び財務内容の実在性・妥当性を検証するために、本合意書締結以降、買主または買主の指定する第三者(公認会計士、弁護士等を含む)による対象会社の調査(事業計画の検証、実地調査、インタビュー、会計帳簿その他の書類の閲覧、調査を含む。以下「本件調査」という。)を実施するものとする。なお、本件調査に関する費用は買主が負担するものとする。
2 本件調査の時期・項目・方法等については、別途買主売主間で協議の上決定するものとする。
第6条(善管注意義務)
売主は、対象会社をして、本合意書に別段の定めのある場合を除き、本件株式譲渡が実行されるまで、善良なる管理者の注意をもって対象会社の業務を運営させるものとし、対象会社において次の各号に掲げる行為その他対象会社の資産・財務内容に重大な変更を生じせしめる行為を行わせてはならないものとする。
①重大な資産の譲渡、処分、賃貸借
②新たな借入の実行その他の債務負担行為及び保証、担保設定行為
③新たな設備投資及び非経常的仕入行為
④非経常的な契約の締結及び解約、解除
⑤従業員の大幅な新規採用及び解雇
⑥対象会社の株式の譲渡承認
⑦増資、減資、株式分割
⑧合併、会社分割、株式交換・株式移転
⑨前各号の他、日常業務に属さない事項
また、デューデリをやりますということを示す(第5条) 一方で、売り手の善管注意義務についても定めます(第6条)。
善管注意義務とは、善良な管理者だったら、普通、このくらいは注意して行動するというもので、基本合意から最終合意契約までの間は重要な資産を処分したり、買ったりするなど、現状を大きく変えることをせず、通常の経営をしてくださいという約束です。
第7条(従業員等の処遇)
買主は、本件株式譲渡後当分の間、対象会社が本件株式譲渡時点において雇用している正社員および嘱託社員の雇用を維持するとともに、本件株式譲渡時点の労働条件を実質的に下回らないことを保証する。
従業員の処遇についても定めます(第7条)。従業員の処遇は、基本的には、雇用も給与も継続します。給与を上げることはあっても下げることはありません。
第8条(解除権)
本合意書の有効期限以前といえども、売主及び買主に次の各号のいずれかに該当する事由が生じ、書面で催告後10日を経過するまでの日にこれが是正されない場合は、売主及び買主は、本合意書を解除することができる。
①相手方が本合意書に違反した場合(但し、本合意書に違反し、売主と買主との信頼関係が破壊された場合)
②相手方の故意または重過失により本合意書の目的が達成できない場合
第9条(有効期限)
1 本合意書は、◯年◯月◯日(以下「有効期限」という。)までに最終契約書が締結されなかったときは失効するものとする。この場合、買主及び売主は、相互に損害賠償責任を負わず一切の金銭等の請求を行わないものとする。
2 買主及び売主は、必要ある場合、合意により、前項の有効期限を延長することができるものとする。
3 第1項の規定に基づき本合意書が失効したときは、買主及び売主は、本合意書の締結・履行に関して相手方から受け取った資料の返還方法等につき、協議の上、定めるものとする。
第10条(優先交渉権)
売主は、本合意書第9条に規定する有効期限までは、買主に対し、株式の譲渡が円滑に進むよう買主を優先して取引の交渉及び情報の交換、連絡を行うこととする。ただし、第2条2項の株式譲渡価格が大きく修正される可能性があると売主が判断した場合は、この限りではない。
さらに、基本合意契約を解除する場合の条件(第8条)、契約書の有効期限(第9条)、独占交渉権や優先交渉権といわれる権利(第10条)について定めます。
関連用語→優先交渉権とは?
独占交渉権については、この例では「譲渡価格が大きく修正される場合はその限りではない」という一文が入っているので、「交渉の中で、譲渡価格が大きく修正される可能性を感じたため、ほかとの交渉に入った」と言われれば、そこに争点が生まれますから、事実上、独占交渉権は付与されていないと考えたほうがいいでしょう。
つまり、この言葉によって骨抜きの条文になっているのです。独占交渉権をしっかりと取りたいのなら、「売り主はほかとは交渉しない」ことをしっかり書き込む必要があります。
第11条(秘密保持)
買主及び売主は、次の各号に規定する情報を除き、相手当事者の事前の書面による承諾なしに、本合意書締結の事実及び本合意書の内容、並びに本件株式譲渡その他本合意書に関する一切の情報(以下、本条において「秘密情報」という。)について第三者に開示してはならない。但し、買主及び売主は、本合意書の目的達成のための合理的に必要な範囲で、弁護士、公認会計士、税理士、司法書士及びコンサルタントその他の専門家に対し、秘密保義務を課した上で秘密情報を開示することができる。また、買主は本件取引に関する融資を打診する金融機関に対し、秘密保持義務を課した上で開示することができる。
①開示を受けた時点で、受領者がすでに保有していた情報
②開示を受けた時点で、既に公知であった情報
③開示を受けた後、受領者の責に帰さない事由により公知となった情報
④受領者が開示者の機密情報を利用することなく独自に開発した情報
⑤受領者が正当な権限を有する第三者より守秘義務を負うことなく開示を受けた情報
⑥法令、証券取引所の規則その他これに準ずる定めに基づき受領者に開示が要求された情報。ただし、当該要求を受けた受領者は、速やかに開示者に当該事実を通知するものとする。
第12条(費用)
本合意書に定める事項を実施するために要する一切の費用は、特段の合意がない限り、各当事者の負担とする。
そして秘密保持契約を改めて結んで(第11条)、費用について(第12条)定めます。
関連記事→秘密保持契約書のサンプルも無料配布しております
以上が基本合意契約書の骨子になります。
最後にもう一度、基本合意契約書の法的拘束力について説明しておきましょう。基本合意契約書の説明で、基本合意契約書には、通常、法的拘束力を持たせないという話をしましたが、それを書いてあるのが、この例では、第9条第1項になります。
ここには、この契約が失効しても、「買主及び売主は、相互に損害賠償責任を負わず一切の金銭等の請求を行わないものとする」と書いてあります。この条文によって、売り手も買い手もこの契約に縛られないこと、つまりは、法的拘束力がないことを確認しています。
この条文を入れることで、この基本合意の段階では、まだ買うと決まったわけではなく、ディールをまとめるためには、売り手と買い手の双方の努力が求められることになるわけです。
基本合意契約書のサンプル(雛形)配布
ここまで基本合意契約書についてお話ししてきましたがいかがだったでしょうか?
このコラムで説明してきた基本合意契約書の内容について、みなさん(スモールM&Aを実行する人)は自分達の案件に沿った形で作成していくことになります。その中で、「実際に内容に何を書いたらいいのかわからない」などの不安材料が出てきた場合は、必ず専門家を頼った方がいいです。我々もM&Aプロフェショナルとしてお待ちしております。
最後までお読みいただいた皆様にはいかに無料で使える基本合意契約書のサンプル(雛形)を添付したので、ぜひご活用ください。(下記のダウンロードボタンを押して頂けば、無料でダウンロードすることができます)ここまでお読みいただきありがとうございました。
記事監修
三戸政和(Maksazu Mito)
2005年ソフトバンク・インベストメント入社。兵庫県議会議員を経て、2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行う。