類似会社比較法のカギであるEBITDAとは?

類似会社比較法とは?

前コラムで説明した3つのバリュエーションのうち、会社の値段をつけるためによく使われるのが、市場基準の「類似会社比較法」です。これはその名の通り、類似の会社を比較する方法で、買収対象の会社とビジネスモデルが似ていて、サイズも近い、競合になり得る会社を集めてきて、それぞれのデータからマルチプルを算出して比較し、会社の値段を出します。

比較対象は上場企業です。上場会社は有価証券報告書が公開されていますから、その資料を集めてきて、中の数字を拾っていきます。

「株価」と「株式数」をかけ合わせると「時価総額(株主価値)」になります。時価総額に「有利子負債」の額を足せば、企業全体の価値であるEV(企業価値)が出ます。EVから、余剰現金など事業とは関係のない「非事業資産」の額を引けば、「事業価値」になります。さらに、営業利益に減価償却費を足せば、「EBITDA」が出ます。

事業価値をEBITDAで割れば、それぞれの会社のマルチプルが出ます。マルチプルは、市場の評価が高い会社や、業種業態ほど高くなります。

こうしていくつかの類似会社のデータを集めてきて、それぞれのマルチプルが、たとえば、A社4倍、B社5倍、C社5.5倍、D社10倍となったとします。この例では、D社の10倍が突出しているので、平均を取ると数字が歪む可能性が高くなります。突出した数字は外すか、もしくは中央値を取れば、実態に近い数字を得ることができるでしょう。

この結果、この業種、業態でこのサイズだったら、マルチプル5倍くらいが市場の評価だとわかります。それが相場なら、買収対象の会社は、マルチプル3.5〜4倍くらいで買えれば良い買い物になるな、と考えることができるわけです。

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市場基準の注意点

ただ、上場企業というのは、だれでも株が買えるという流動性が高い状態なので、株価は高くなる傾向があります。一方で、上場のための管理コストがかかっているので、その分の利益は減っています。これらは念頭に置いておきましょう。

未上場会社で同様のデータを得るのは難しいですが、仲介やFAは扱う案件が多いので、過去の事例から、この業種、業態でこのサイズならだいたいこのくらいですよと教えてくれることもあります。感覚値に近いのでバイアスがかかるかもしれませんが、ひとつの目安にはなります。

ちなみにM&Aでは、EBITDA1億円がひとつの閾値になっています。EBITDAで1億円を超えると、その会社の安定性は高いと判断されてマルチプルがぐっと高くなり、高い価格で取引されるようになるのです。業種や業態でも変わってきますが、EBITDA1億円超えの会社のマルチプルは5倍以上、1億円を超えない会社は3~4倍程度という目線があります。上場企業も安定性が高いと見込まれるので、マルチプルは高まる傾向があります。

複数の算出方法を比較して、会社の値段をつけよう

私は、スモールM&Aで会社の値段をつける際には、原価基準で得られる数字と、市場基準で得られる数字を比較することが大事だと考えています。

良い経営とは、会社が持つ資産を、効率よく使って利益を上げている状態のことを言います。専門用語で言い換えると、自己資本利益率(ROE)の高い経営が優れた経営になります。ROEとは投下した資本に対して、どれくらい利益が出ているかを表す指標でした。ROEが高いほど、投下した資本を効率よく使って、利益が上がっていることを示します。

中小企業ではお付き合いでムダな資産を持ち続けていたり、過剰な資産を抱えていたりということがよくあります。資産価値は高い一方で、それを効率的に使えていない、ROEが低い状態であることが多いのです。

そういう会社は、原価基準をベースにした「純資産+営業利益3年分」という年倍法で値段を出すと、かなり高い値段がでてきます。その値段で買ってしまうとあまり良い買い方ではないかもしれません。

資産を効率的に使えていない会社は、市場評価は高くなりません。そういう会社は、市場基準で見れば、値段はまったく変わってきます。つまり、原価基準と市場基準でそれぞれ得られる数字は、同じ会社に対する価値算定でありながら大きく違うわけです。

会社の値段を付ける際には、大きく異なるその2つの数字を出して、それらを比較しながら、他のデータも加味して値段を付けると、より実態に合った値段が出せると思います。とにかく、1つの方法だけで値段をつけないことが大切です。いろいろな角度からその会社の価値を計って値段を出すようにしましょう。

会社の値段がつけられたら、次は資金調達です。次のコラムで説明します。


記事監修

三戸政和(Maksazu Mito)

2005年ソフトバンク・インベストメント入社。兵庫県議会議員を経て、2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行う。



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