企業価値評価における基準は3個?その内容とは?

バリュエーション①~収益基準、DCF法

前コラムで、EBITDAマルチプルという手法で会社に値段をつけるには、その会社の事業価値を求める必要があり、事業価値を求める手法には、3つのバリュエーションがあると解説しました。今回のコラムでは、この3つのバリュエーションを解説しましょう。

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まずは「収益基準」というバリュエーションです。この方法は、その会社が将来に得られるであろう収益から会社の値段を導く方法です。

たとえば、買収対象の会社が毎年100の利益を出すとします。収益基準による会社の値段は、その将来収益を単純に足し上げれば出るというものではありません。

お金は時間が経てば増えるというのが基本的な考えでした。ですから、将来得られる収益は現在の価値に直すと割り引かれることになります。

つまり、1年後の100は現在の価値では90くらいで、5年後の100は60くらいと考えるわけです。6年目以降も順次割り引かれていって、これらの割り引かれた将来収益をすべて足し上げていけば、その会社の現在の事業価値が出ることになります。これがDCF法(ディスカウントキャッシュフロー)といわれる計算方法です。

収益基準ではもうひとつ、直接還元という方法があります。こちらは、単年度の収益を利回りで割り戻して計算する方法です。割引きの考え方はDCF法と同じですが、直接還元法は、毎年同じ収益になる不動産のような価値を計算するときに使われ、年度ごとの収益が変化する会社の価値評価にはあまり使われません。

DCF法で事業価値を出し、EBITDAで割ればマルチプルが出て、会社の値段を計算できますし、事業価値に、現金など事業に関係のない資産をプラスしたり、有利子負債などをマイナスしたりすれば、最終的な会社の値段を決める判断材料が得られます。これが収益基準を使った会社の値段のつけ方です。

DCF法は、ベンチャー企業が自分の会社を売りたいときによく使います。というのも、ベンチャー企業は、過去の実績(資産)があまりなく、将来の収益を期待して、企業価値を評価してほしいと考えるからです。将来のキャッシュフローがどんどん増えてこんなに儲かりますよというのをアピールするために使うわけです。ただ、買う側からすると、将来の収益は確定的に見通せるものではないので、DCF法で作ったデータはそれほど重視しないのが正直なところです。

ただ、このDCF法をスモールM&Aで使うことは少ないでしょう。それでも、収益基準とはこういうやり方で計算するんだなということくらいは、知識として覚えておいてください。

バリュエーション②~市場基準

2つ目のバリュエーションが「市場基準」です。この方法では、その会社が市場でどのくらいで評価されるかというアプローチから会社の値段を算出します。

市場基準で比較対象になる会社は、情報を開示している上場企業ですから、未上場の会社を買うことの多いスモールM&Aでは、市場基準はちょっと使いづらいところはありますが、目線をつける意味では参考になります。

市場での取引事例を見ると、たとえばITは高く売れる(マルチプルは高い)ことがわかりますし、逆に製造業はあまり高くない(マルチプルは低い)ことがわかります。そういう目線を知っておけば、自分が買うときに、実際とはかけ離れた値段をつけることがなくなります。高く売れる業種や業態を知ることもできます。

市場基準を使った会社の値段のつけ方はよく使われる方法ですので、他のコラムで改めて詳しく解説します。

バリュエーション③~原価基準

バリュエーションのもうひとつのアプローチが「原価基準です。その会社をもう一度、ゼロから作るとしたらどのくらいコストがかかるか、というアプローチです。基本的にはBSの資産を時価評価にし直して、負債を引いた実態純資産を出して、会社の値段を出していきます。「純資産+営業利益3年分」という年倍法は、この原価基準をベースにした方法になります。

バリュエーションを使った会社の値段のつけ方、次のコラムに続きます。


記事監修

三戸政和(Maksazu Mito)

2005年ソフトバンク・インベストメント入社。兵庫県議会議員を経て、2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行う。



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