使える事業計画を作成するために
事業計画に実効性を持たせるため、KPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)を設定する方法があります。
KPIとは、その会社のビジネスの根幹部分を評価する指標で、KPIの数字を見ておけば、そのビジネスがうまく行っているかどうかがわかる、というものです。KPIの数字が達成できれば、売上や利益などの大目標も達成できることになります。
KPIは大企業に勤めている人なら常識でしょう。KPIやPDCAのような、大企業では耳慣れた言葉も、中小企業ではまったく聞かないし通じないということが珍しくありません。中小企業でこうした概念を導入すれば、ビジネスを改善できる可能性が高いでしょう。
KPIを設定する理由
事業計画を作るときは、KPIも設定しておきましょう。経営する側にとっては経営管理がしやすくなりますし、働く側にとっても、目標がKPIの達成というシンプルなものになって、何をすべきかがわかりやすくなります。
会社のオーナーとしては、経営者や従業員はKPIを達成すべく日々の仕事をこなし、オーナーは週一のメールでKPIの数字を確認するだけで、その会社のビジネスの進捗がわかる、という姿が理想です。ただし、この状態でKPIの設定が間違っていたとなると、数字的には問題がないのに、ビジネスの実態はどんどん悪くなるという悲惨なことが起こります。
KPIは当然、買収前に設定するものと買収後に設定するものでは、精度が変わってきます。デューデリでその会社のビジネスのポイントを見極めて、適切にKPIを設定することは大事ですし、経営に入った後も、事業の進捗を見ながら、適宜、KPIを見直すことが必要です。
関連用語→デューデリジェンスとは?
KPIの簡単な解説
KPIの設定方法を簡単に触れておきます。
たとえば、会社の事業目標が「売上高1億円キープ」だった場合、その目標達成のために見るべきKPIとは何になるでしょうか。
売上高を細分化すると、「顧客数」と「平均客単価」から成り立っていることがわかります。それに加え、売上高には「平均購入頻度」という数字が大きく関わります。
この3つの数字が例年通りなら、売上高1億円は変わりません。「売上高1億円のキープ」を達成するには、この3つの数字を見ておけばいいこととなり、その数字がKPIになります。
ですから普段はこの3つの数字を見ながら経営管理をします。これらの数字で思わしくないものが出てくれば、その数字を細分化して見ていくことになります。
KPIが思わしくなくなった場合の対処法
たとえば、顧客数が思わしくない場合、顧客数を細分化します。顧客数は「新規顧客数」と「既存顧客数」から成り立っていますから、その2つの数字を見て、新規の顧客が伸びていないとわかれば、さらにその数字を細分化して見ていきます。
新規顧客数は「顧客リスト」と「購入率」から構成されています。顧客リストはさらに「ターゲット人口」と「リーチ率」から成り立っています。それらの細分化した数字の中に、例年とは違う、おかしい数字が見つかるはずです。
そのおかしい数字がわかれば、それを上げるための対策を考えます。たとえば顧客リストの数字が上がっていないなら、電話やメールなどの接触方法や営業地域、顧客層などを見直す、というようにです。
このように、ビジネスのキーポイントとなる部分でKPIを設定しておけば、その数字を見ておくだけでビジネスがうまくいっているかがわかるようになります。問題があった場合の対処もしやすくなります。
会社の根幹をとらえて、最終判断へ
売上や費用を細分化しながら、KPIに通じる会社や事業のキーポイントを確認することは、デューデリジェンスにおける重要な作業のひとつです。それはつまり、その会社や事業にとって何が重要なのか、その根幹をとらえることです。その会社や事業の根幹をとらえることができれば、継続性や成長性が判断できるようになります。そしてその判断は、M&Aを最終的に実行すべきかどうかの判断につながっていくのです。
そろそろM&Aの解説も終盤になってきました。次のコラムでは、会社の買い方である「スキーム」について解説しましょう。
記事監修
三戸政和(Maksazu Mito)
2005年ソフトバンク・インベストメント入社。兵庫県議会議員を経て、2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行う。