事業計画作りにおいて最重要の運転資本とは?

そもそも運転資本とは?

デューデリや事業計画作りのプロセスを進める中で、最重要のチェック項目になるのが「運転資本」です。

運転資本とは、その会社がビジネスを続けるために必要な資金です。

いわゆる「資金繰り」に関わるお金で、「運転資金」という言葉も似た意味で使われています。この運転資本について説明していきましょう。

原材料を仕入れ、それを元に商品を作って販売するビジネスを例に考えてみます。商品製造に必要な仕入れの代金は通常、現金払いではなく、1ヶ月後や2ヶ月後にまとめて支払うことが多いでしょう。商品の売上代金も、1ヶ月後や2ヶ月後にまとめて入ってきます。一方、日々の会社の経営には、人件費や水道光熱費、事務所の家賃などさまざまなお金がかかります。

運転資本とは、この「仕入れ~製造~販売」のサイクルを回すためと、日々の経営のために必要な資金のことです。

たとえば、飲食店は日銭商売ですから、売上は毎日、その都度、入ってきます。一方、仕入れ代金の支払いは1ヶ月後にまとめて、ということが多いですから、毎日の売上代金を貯めておけば、仕入れ代金の支払いはできます。日々の経営のための費用も毎日の売上から出すことができます。ですから飲食店のようなビジネスでは、運転資本は少なくて済むことになります。

ビジネスによっては、仕入れ代金の支払い期日が先に来て、売上代金の回収日は後、というものがあります。製造業がその代表的なビジネスです。

たとえば、工場設備の製造販売業なら、設備を製造して納品し、検品が完了してやっと売上が認められます。しかし売上代金が回収できるのは、その翌月や、ともすれば、手形払いによって、半年後ということもあり得るのです。一方で、商品を作るための部品などの仕入れ代金は、売上代金が入ってくるよりも先に支払いをしなければなりません。

日々の経営のための費用もかかります。つまり、製造業のようなビジネスでは、売上代金が入ってくるまでの間、経営を続けるためには、「仕入れ代金+毎日にかかる費用」分というかなりまとまったお金が、運転資本として必要になるのです。

運転資本は厳しくチェックしよう

デューデリでは、その会社にはどのくらいの運転資本が必要なのか、いまある現金や借入枠で十分足りているのか、足りないなら手当てする手段はあるか、をしっかり見る必要があります。事業計画も、必要な運転資本を踏まえたものを作らなければなりません。

運転資本が多い会社は、なるべく運転資本を少なくする方法を考えましょう。支払い期日をもっと後にできないか、支払いを分割にしてもらえないか、売上の回収を早める余地はないか、などをチェックして、それらが可能なら事業計画に反映させます。

運転資本の確保、いわゆる資金繰りの安定は、会社経営のリスクを回避する最重要項目です。事業計画で、運転資本について甘い見通しを立てて会社を買ってしまうと、立ち所に厳しい局面を迎えてしまうかもしれません。

後述しますが、「事業譲渡」で会社を買う場合はとくに注意が必要です。事業譲渡では運転資本がついてきません。資金繰りはとくに厳しめに見て、余裕のある運転資本を準備する必要があります。

「株式譲渡」の場合、運転資本はついてくるので、売上が大きく変動するビジネスでなければ、従来通りの経営を進めていけば、突然、資金繰りがショートするということは少ないでしょう。

関連記事→株式譲渡と事業譲渡の違いの記事

デューデリをして、どうしても資金繰りの安定が見込めないのなら、その会社を買うことはあきらめた方がいいと思います。

中小企業における財務改善の方法

中小企業で、財務改善につながりやすいものを、いくつか指摘しておきます。

まずは、仕入れの在庫管理です。中小企業では、仕入れの在庫管理がアバウトで、仕入れの発注がルール化されていないことがよくあります。そういう会社では、「どこに何をいくつ置いておくか」「在庫がいくつになったら仕入れを発注するか」などのルールを決めるだけで、ムダな発注や不良在庫が減るので財務改善につながります。

借入金(有利子負債)を見直す方法も有効です。中小企業では銀行とのつき合いを維持するために借入をしているところが少なくありません。そんな借入を、低い利率のものに借り換えたり、支払期間を延ばしたりする方法です。

その交渉のために、ほかの銀行から見積もりを取ってみましょう。いまはマイナス金利で金利がかなり低くなり、金融機関によって利率の違いがあります。銀行側は貸出先が少なくて困ってもいますから、有利な条件を引き出しやすいと思います。

出た見積もりが、利率や支払期間などの条件で有利なものであれば、それがメインバンクとの交渉材料になります。それでもメインバンクが条件を良くしてくれず、その差も大きいようであれば、乗り換えることも検討すべきでしょう。

借入を「当座借越」に変えるという方法もあります。当座借越とは借入金の枠だけ作っておいて、必要になった分だけを借りるという融資方法です。たとえば、通常の融資で1億円を借りたら1億円全額に利息がかかりますが、当座借越の場合は、1億円の枠を作っておいても、利息がかかるのは実際に借りた分だけです。当座借越で資金繰りに余裕を持たせながら、利息を減らしたり、返済期間を延ばしたりすることができれば、財務の改善につながります。

こうした財務改善の方法について、デューデリでしっかりと見て、可能なものについては事業計画に反映させていきましょう。

事業計画作りの解説、まだ続きます。


記事監修

三戸政和(Maksazu Mito)

2005年ソフトバンク・インベストメント入社。兵庫県議会議員を経て、2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行う。




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