スモールM&Aにおける買収価格提示のポイントとは!?

基本合意契約とは?

面談が成功し、基本合意契約を結ぶ段階まで来ました。基本合意契約は、業界ではもっぱら「MOU(エムオーユー)」という言い方をします。MOUとは、英語の「基本合意契約」である「Memorandum of Understanding」の頭文字から来ています。

基本合意契約を結ぶ際の注意点について見ていきましょう。

スモールM&Aにおける基本合意契約は、前にも触れましたが、「必ず買います」という約束ではありません。買収価格を示し、その価格で買う前提で、「もう少し調べさせてください」という約束に近いものです(上場企業のM&Aでは異なります。上場企業のM&Aでは、基本合意契約を結べば、経営上の重要な意思決定事項となり、買収の確度はかなり高くなります)。

価格については、売り手側も納得した上で、ある程度、固い数字にして結びますが、この段階では、たいてい「1~2億円」などと幅を持たせて書きます。というのも、基本合意契約の後の本格的なデューデリジェンスで、あるはずの在庫がないとか、損失になりそうなものが見つかるなど、減額要因が出ることがあるからです。そのときに価格を変更できるよう、この段階では幅を持たせておくのです。

買収価格の扱いは慎重に

買収価格は、M&Aではもっとも大事なものです。オーナーさんは買い手に対して、「こんなビジネスを展開してほしい」「従業員や取引先を大事にしてほしい」などといろいろな要望を出してきますが、それらをすべて叶えても、買収価格に納得しなければ、交渉は前に進みません。とにかく買収価格の取り扱いは「慎重に」です。

オーナーさんと初めて会ったその日に、財務諸表だけをパパッと見て、「買収価格はこんなもんですね」なんて言うのは最悪です。スモールM&Aは、オーナーさんとの関係がない中で、数字だけで事を進められるものではないのです。

ほとんどの中小企業のオーナーさんはM&Aの知識を持っていません。会社の値段の付け方も相場観も知らないのが普通です。そのため、オーナーさんの中には、相場とは大きく離れた価格を考えている人もいます。

そんなオーナーさんに、こちらの提示する買収価格を納得してもらうには、オーナーさんに信用してもらうことがベースになります。その上で、その値段になった理由を、根拠をもって説明できなければなりません。

買収価格提示のノウハウ

買収価格を提示するときの私のノウハウをお伝えしましょう。オーナーさんが“その買収価格に納得できる環境を作る”というノウハウです。

大切なのは、買収価格を提示する前に、下準備をすることです。具体的には、オーナーさんと会話する中で、「一般的には、純資産に営業利益の3年分くらいを足すみたいですよ」とか、「こんな会社をいくらで買ったんですよ」みたいな話をして、中小企業の一般的な価格の付け方や市場の相場観などの情報にさりげなく触れていくのです。

そういう話をしながら、いろいろな情報を示すことで、オーナーさん自身が、「自分の会社はこのくらいの値段かな」という予想がつくようになります。そんな買収価格のストライクゾーンができ上がったところに、ストライクの球を投げ込んでいくイメージです。オーナーさんの準備ができた頃か、伝えても大丈夫かを、オーナーさんの言葉の端々や顔色、雰囲気などから探りながら、伝えることが肝心になります。言い方もズバッとは言いません。「このくらいが相場みたいですよ」というような柔らかい言い方で伝えます。

減額する可能性があれば示そう

とにかく買収価格の取り扱いは慎重に、です。

基本合意契約で幅を持たせる場合も、あまり幅を持たせ過ぎても、売り手側はいい気はしません。デューデリの結果だからといって、価格を大きく下げるのも良くありません。たとえば、2億円で提示して、デューデリの後に、「5千万円になりました」というのはちょっとありえません。そういうことがないよう価格設定をすることも大切です。

減額要因がありそうなら、MOUでその可能性を示しておくことが鉄則です。たとえば、店舗の撤退費用がかかりそうだったら、その可能性があるとオーナーに伝えて、見積もりを出し、その分の減額の可能性があることをMOUで示しておきましょう。そうすれば、本格的デューデリの結果、その費用が発生することが確定し、買収価格を減額することになっても、「そんな話は知らん」ということにはならず、交渉には応じてくれるでしょう。

基本合意契約についての解説、次のコラムも続きます。


記事監修

三戸政和(Maksazu Mito)

2005年ソフトバンク・インベストメント入社。兵庫県議会議員を経て、2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行う。



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