M&A戦略における定性判断と定量判断の重要性を投資ファンドが説明!

M&Aにおける定性判断の基準とは?

では、M&Aをするための一歩目を踏み出しましょう。最初の一歩は、「買収計画」作りです。どんな会社を買うか、その計画を立てます。

そのためのアプローチは2つ。ひとつは数値化できない部分の判断をする「定性判断」で、もうひとつが数値で判断する「定量判断」です。この2つの物差しを使って、自分がどんな会社を買いたいか、どんな会社を買うべきかを考えていきましょう。

定性判断では3つの円を想定します。

  • 「好きな人と好きなことを好きなようにやる」
  • 得意な業界」
  • 「得意な地域」

という3つの円です。これら3つの円が重なる部分に近い会社を選んでいこうというのが定性判断です。

M&Aにおいて「好き」を判断の基準にすることの重要性

3つの円のうち、もっとも大事なのが「好きな人と好きなことを好きなようにやる」という円です。

会社の経営は上手くいくとは限りません。思い通りにいかないこと、トラブルが起きることもあるでしょう。皆さんが、そういうピンチに陥ったとき、「好きな人と好きなことを好きなようにやる」環境にいたとしたらどうなるでしょうか。簡単にあきらめることはなく、「もうちょっと頑張ってみよう」と、ひと踏ん張りできるのではないでしょうか。

新しい事業を立ち上げる起業においては、ピボットといって、事業を少しずつ変えながら、当たる事業を探るプロセスがあります。このピボットの途中で挫けてしまう起業家を、私は何人も見てきました。その彼らに共通するのが、その事業を「好き」ではなかったということです。

会社を買う場合は、長年続いている会社を買うので、起業よりもトラブルは多くありませんが、それでも経営をすればさまざまなトラブルが起きますし、トラブルが続けば、心も折れそうになります。そんなときに、心を折られることなく、成功するまで粘り強くやり続けられるかどうかは、その仕事が「好き」か、仕事の仲間や環境が「好き」かに掛かってきます。ですから、「好きな人と好きなことを好きなようにやる」円がもっとも大事になるのです。

定性判断と会社経営

定性判断では、「好き」の円に加えて、「得意な業界」と「得意な地域」という円を合わせて考えます。

得意な業界の会社を買えば、そのビジネスに関わる数字がわかるでしょうし、持っている人脈も、これまでの経験や身に付けたスキルも使えます。

得意な地域とは地の利がある地域です。経営を始めれば、会社内部だけでなく会社の外でも動くことになりますから、当然、知っている地域は有利です。

いま、UターンやIターンをして、地元や田舎で会社を買いたいという人が増えています。Uターンなら地の利が生かせますが、Iターンの場合はそうはいきません。全く知らない土地はやはり不利になります。ただ、その土地のことはまだ知らなくても、「この地域がいい」「ここが好きだな」と思えれば、その不利をカバーすることは十分できると思います。

このように買収対象の会社が、「好き」「得意業界」「得意地域」の3つの円の中で、どの辺りにポイントされるかを考えることが定性判断になります。買収候補の会社をそれぞれポイントしてみて、どの会社を買うべきかを考えていくわけです。3つの円の中心に近い会社ほど、成功の可能性が高いでしょう。

買収計画に必須の定量判断とは?

もう一つの物差しが、数字で考える定量判断です。

会社を買うときは、その会社の財務データを手に入れます。その数字を使って計算をして、その会社を買うときの最大リスクはいくらになるのか、投資の回収時期はいつになるか、その会社を売却すればどのくらいのリターンが見込めるかなどを、数字で出して検討します。その精度は、得られるデータの量で変わってきますが、基本的な財務データが得られれば、大まかな数字は見えてきます。

グラフを作ると分かりやすいでしょう。グラフはこんなイメージです。縦軸がお金で、縦軸を下に行けば費用で、上に行けば利益となります。横軸は時間の経過を示します。

まず、会社を買った時点では大きな費用が発生しますから、グラフでは下にポイントされます。そこから経営が始まって、時間とともに右に向かってグラフは伸びていきます。そこで、もし追加資金が必要となれば、グラフは下がります。そのグラフ下限のポイントがその会社を買った場合の最大リスクになります。

そこから時間の経過とともに利益が増えて、グラフは右上がりとなり、費用と収益が同じとなるポイントがいつになるかがわかります。その時点が投資の回収時期です。

その後、利益を積み重ねていくことで企業価値が上がり、その最大となるポイントが想定できます。その時点で売れば、もっとも多くのリターンが得られるということです。

このように、その会社を買った場合のリスクとリターンを考えながら、会社を選ぼうというのが定量判断になります。

定性判断と定量判断のふたつの物差しを使って、どんな会社を買うかを考えて、買収計画を作っていきます。次のコラムでは、定量判断をするときに、知っておいた方がいい知識をひとつ、解説したいと思います。


記事監修

三戸政和(Maksazu Mito)

2005年ソフトバンク・インベストメント入社。兵庫県議会議員を経て、2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行う。




こんなタグの記事が読まれています