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M&Aにおけるシナジー効果とは?
M&Aにおけるシナジー効果とは
まず、M&Aにおけるシナジー効果とはどういったものであったか一度整理しましょう。
シナジー効果とは、M&Aや事業提携を通じて生み出される相乗効果のことを指します。ざっくりいうと、買い手と売り手、お互いが持つ経営資源を統合することで、生産面、販売面などあらゆる側面で、競争優位性を獲得することです。
では、具体的には、どういった競争優位性を獲得することができるのかを次に見ていきましょう。
関連用語→シナジー効果とは?
シナジー効果の種類
事業会社などが、M&Aを成長戦略として実施する場合、対象企業とのシナジー効果を期待して行うケースが多いです。
そのシナジー効果には、主に下記の7つがあります。
- クロスセリング
- 補完的資源
- 市場支配力の強化
- 垂直統合による利益
- 範囲の経済
- 規模の経済
- マーケットポジション
そこで今回のコラムでは、その7つの種類のシナジー効果を、実際の事例をもとに少し紹介して行きたいと思います。
M&Aによるシナジー効果〜クロスセリングの事例〜
クロスセリングとは、「複数の商品やサービスを取り扱う企業が、お互いの販売チャネルを利用することで、製品・サービスの販売経路を拡大すること」です。
ここでは、クロスセリングの事例として、家具や家庭用品を扱うニトリHDが、ホームセンター事業に従事する島忠をTOB(株式公開買い付け)によって買収した案件を取り上げます。
関連用語→TOBとは?
ニトリの店舗数は国内外600余りの店舗数を有していますが、首都圏への出店数は、余地と費用の面から、限界に達していました。一方で、島忠の店舗数は60店舗と少ないものの、店舗の9割が首都圏に位置していました。
このM&Aによって、ニトリは、進出困難だった首都圏の島忠店舗で自社の高品質の家具販売し、対して、島忠は、全国の広範な地域に存在するニトリ店舗で、ホームセンター商品とホームファッション商品を販売することができる、というシナジー効果を生み出しました。
M&Aによるシナジー効果〜補完的資源の事例〜
補完的資源とは、「お互いが持つ経営資源を統合することによって、足りない経営資源を相互に補完すること」です。
ここでは、補完的資源の事例として、Yahooの親会社であるZホールディングスとLINEの経営統合を取り上げます。
Yahooは、月間利用者数6,743万人・ビジネスクライアント300万社超を抱えていますが、メッセンジャーサービスの開発に課題を抱えていました。一方で、LINEは月間利用者数8,200万人、ビジネスクライアント約350万社を抱えていますが、EC領域への事業進出において、競合他社に遅れをとっていました。
この経営統合によって、YahooとLINEはお互いがカバーできていない利用者やビジネスクライアントの獲得(クロスセリングともいえると思います)だけでなく、お互いが課題としている領域を、それぞれが持つ人材・ノウハウ・既存サービスなどの面でカバーしあえるという、補完的資源のシナジー効果を創出しています。
M&Aによるシナジー効果〜市場支配力の事例〜
市場支配力の強化とは、「主に同業との統合により、企業の市場支配力を発生・強化させ、統合後のシェアを元の市場シェアの合算よりも大きくすること」です。
ここでは、市場支配力の強化の事例として、JT(日本たばこ産業株式会社)による同業他社の企業買収を取り上げます。
JTは、国内たばこ市場の縮小を背景に、海外たばこ市場におけるプレゼンス強化に狙いを定め、1999年に米国外煙草事業部門(RJRI)を約9,400億円で、2007年にギャラハーを約22,500億円で買収しました。
このM&Aによって、これまで海外たばこ市場で圧倒的なプレゼンスを誇っていた業界1.2位の企業と互角に張り合える世界3位のたばこ会社としての地位を確立し、市場支配力の強化を実現しました。
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M&Aによるシナジー効果〜垂直的統合による利益の事例〜
垂直的統合による利益とは、「他業種または、他サービスとの統合によって、企業間に発生している非効率を解消し、商品・サービス供給に必要な工程の範囲を広げること」を指します。
ここでは、垂直的統合による利益の事例として、Appleによる一連の企業買収を取り上げます。
2014年、Appleは、買収額が30億ドル(約3,290億円)に達するBeats Music社の高額買収を行っています。こういった巨額買収が目に留まりがちですが、実は、Appleは、新技術や自社よりも優れている資産、人材を獲得するために、たとえ従業員が数人の会社であっても、積極的に日々買収を続けています。現在のiPhoneに搭載されているカメラや指紋認証技術もM&Aによって獲得したものです。
このように、開発・生産・販売等のサプライチェーンをできるだけ自社で賄うことで、コスト削減や競争優位性の獲得を実現する、これを垂直統合による利益と呼びます。
M&Aによるシナジー効果〜範囲の経済の事例〜
範囲の経済とは、「単一の企業が複数の財・サービスをまとめて生産することで、個別に生産する場合と比較して、総費用を抑え、効率性を向上すること」です。
ここでは、範囲の経済の事例として、Amazonを取り上げます。
Amazonは、設立当時は「本」をネット販売する事業をメインに扱っていました。その後、「家電製品」や「日用品」などの商品分野にも進出することで多角化を図りました。その際に、M&Aによって、他の商品分野の会社を買収し、「本」の販売のために使用していた流通網を他の商品分野でも共有利用し、コストを抑えつつ、事業拡大していきました。
このように、A事業(商品)から、B事業(商品)、C事業(商品)へと、流通網の共有などの強いシナジーを効かせて、コストを抑えたり、競争優位性を獲得したりしながら拡大していくことを範囲の経済の獲得といい、その手段としてM&Aも利用されているということです。
M&Aによるシナジー効果〜規模の経済の事例〜
規模の経済とは、「生産規模を拡大させることで、収益性が向上すること」です。
ここでは、規模の経済の事例として、日本電産を取り上げます。
日本電産は、精密小型モーターを始めとしたモーターを扱っています。同社は、「回るもの、動くもの」に特化したM&Aを通じて、売上高1兆円の世界一のモーターメーカーへと成長を遂げました。この要因は、同業種に絞ったM&Aにより、「生産に使用していた工場を共有すること/生産規模を圧倒的に拡大することにより、1単位当たりの生産コストを小さくし、市場での競争優位性し販売競争力を強化すること」という規模の経済性をはたらかせていたことがあげられるでしょう。
M&Aによるシナジー効果〜マーケットポジションの事例〜
マーケットポジションとは、「市場においてリーダー的ポジションを確保することで、高い顕示効果が得られるなど優位性を獲得すること」です。
ここでは、マーケットポジションの事例として、レンゴーを取り上げます。
レンゴーは国内ダンボール市場においてトップシェアを誇っていますが、同業種である武田紙器などの買収を通じて、さらなる拡大とトップ堅持を図っています。
これらのM&Aを通じて20年間で売上高3,000億円から7,000億円へと成長し、国内から海外事業へと進出する資金や余力を確保できているほど、マーケットリーダーとしての利益を享受しています。
最後に
本記事では、7つのシナジー効果の事例を紹介しましたが、いかがだったでしょうか?
実際のM&Aにおいて、このようなシナジー効果を創出しようと思うと、非常に綿密な調査や経営計画が必要になります。今回取り上げたのは、ほんの一部の成功事例にすぎません。成功したM&Aもあれば、当然失敗に終わったM&Aもあります。興味がある方は、ぜひ、より深堀って調べてみてください。M&A業界にいらっしゃる方や、個人M&A・スモールM&Aを志す方でなくても、学べることや新たな視点、気づきが得られると思います。
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