事業承継における事業承継税制・引継ぎ補助金、マッチング制度のメリット・デメリットとは

事業承継は、個人事業主の方や中小企業の経営者にとって頭の片隅から離れない悩みかもしれません。事業承継が語られる際によく出てくるのは「スモールM&A」という言葉です。「個人M&A」ともいわれるスモールM&Aは、どんな制度なのでしょうか。スモールM&Aに活用できる国の制度である、事業承継税制・事業承継引継ぎ補助金・事業承継引継ぎ支援センターのメリット・デメリットについても考えます。

事業承継を語るうえで欠かせなくなっているスモールM&A

スモールM&Aとは、小規模会社や個人事業を対象とした譲渡や買収を指します。スモールM&Aの明確な定義づけはされていませんが、小規模であるかどうかの判断は、売上高や年商、従業員数や買収額などが目安になります。年間の売上高や年商が1,000万円から5億円程度、従業員数は30名前後まで、譲渡や買収金額が1億円以下となるケースがスモールM&Aに該当します。

スモールM&Aが活発化している理由の一つは、後継者不足が関係しています。中小企業庁の報告によると、60歳以上の経営者の中で後継者が見つかっていない人は7割と高いですが、自分の代でたたむのではなく、何らかの形で事業を維持していってもらいたいという願いは強いようです。子どもを含めた親族が事業を引き継いでくれないケースでは、経営者はスモールM&Aに活路を見出しています。

存続している事業や会社を継承することで、リスク軽減ができると考える起業家の存在も、スモールM&Aを活発化させています。既存顧客やすでに成功してきたノウハウを引き継げれば、一から会社を起こす場合に比べて、黒字経営ができる確率が上がるからです。

スモールM&Aと事業承継税制

事業承継やスモールM&Aを円滑に行う手段の一つとなっているのが、事業承継税制の仕組みです。事業承継税制とは、会社の事業を継続させることを条件に、事業承継する後継者の相続税や贈与税をすべて免除するという制度です。

事業承継税制の大きなメリットは、後継者が親族でなくても利用できる点にあります。まさにスモールM&Aに適した制度といえますが、デメリットもあります。まず一つが、こちらの制度の利用条件が厳しいことです。

例えば、事業承継を行う前の経営者が満たすべき条件があることに加え、継承される会社は、資本金または従業員数の点で中小企業に該当する必要があります。事業を継承してからの5年間は守るべきルールがあり、その後はさらに次の世代に事業を引き継がなければなりません。

これらのいくつもの条件をすべて満たさないと、本来の税金が発生し、経年化の分の利息も納付する必要が出てきます。 贈与税や相続税が免除される点は、親族間の事業承継ではメリットを感じやすいですが、血縁関係がない他人に事業承継するスモールM&Aには使いづらい制度といえます。

贈与か相続、遺贈などにより株式を渡す必要があるので、創業者の利権が親族に渡らなくなるからです。なお、こちらのデメリットは、役員退職金などの形で創業者に利益を移行し、そのうえで、会社株式を事業承継税制を使って贈与する方法をとることで解消できるかもしれません。

スモールM&Aと事業承継引継ぎ補助金

事業承継のハードルを低くする、国が設けているアプローチは他にもあります。その一つが、事業承継引継ぎ補助金です。事業承継引継ぎ補助金は、事業承継のタイミングで、新たな取り組みを行う中小企業や小規模事業者を対象とした支援制度になります。

既存の事業に時代のニーズを反映できる利点がある制度ですが、デメリットもあります。まず一つとして、事業承継の際に経営資源を引き継ぐ中小企業などに対象者が限定される点が挙げられます。

また、申請時期が短い点もネックです。令和4年度の事業承継引継ぎ補助金の申請時期は、2022年7月25日から8月15日と3週間程です。申請期間が短期間となるため、事前の入念な準備は欠かせません。こちらの制度の年度ごとの予算と補助金の上限額は決まっており、令和4年度は、事業予算が2,001億円、補助の上限が150万円から600万円、補助率が2分の1から3分の2となっています。

申請したものの、思ったほど補助が受けられないと感じる企業もあるかもしれません。

事業承継引継ぎ支援センターを利用するメリット・デメリット

事業承継やスモールM&Aのマッチング相談ができる国の関係先機関として「事業承継引継ぎ支援センター」が設けられました。事業承継引継ぎ支援センター事業は、中小企業庁が令和3年4月に策定した「中小企業M&A推進計画」に基づく取り組みで、5年にわたって継続される予定です。

事業承継引継ぎ支援センターを利用するメリット

事業承継引継ぎ支援センターを利用する大きなメリットは、国の事業として行っているので、無料で相談できるほか、専門家などによる質の高いアドバイスが期待できる点にあります。スモールM&Aを手掛ける民間事業者も数を増やしていますが、利益優先でコストを意識したシビアな交渉が行われるケースもあるようです。

事業承継引継ぎ支援センターを利用するデメリット

長期的な視点での意見や、価値ある事業を後世に残すという観点でのアドバイスは、事業承継引継ぎ支援センターに相談するとよいかもしれません。 一方、事業承継引継ぎ支援センターを利用するデメリットは、成約率の低さにあります。

これは、長年M&Aに携わってきた民間企業に比べて実績やノウハウが少ないことが影響していると考えられます。事業承継引継ぎ支援センターで話がうまくまとまらず、民間事業者に対応を移行するとなると、手間や時間的コストが余分にかかることになります。また、相談は無料でも、買収にかかわる調査費用などが別途かかるため、結果的に民間企業に任せた方がよいケースもあります。

まとめ

後継者不足や経営環境の厳しさなどの影響で、親族間での事業承継ではなく、スモールM&Aが活発化しています。スモールM&Aを含む事業承継を円滑に進めるため、国もさまざまな制度を設けて支援しています。事業承継税制や事業承継引継ぎ補助金、事業承継引継ぎ支援センターは利用価値が高い制度ですが、デメリットもあります。令和4年度に発表された最新の情報を収集し、慎重かつ前向きに検討したいものです。

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