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2018.05.30

金融円滑化法とその終了

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○金融円滑化法とは
 金融円滑化法とは、正式名称「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」といいます。中小企業の資金繰りを助けるための法律であり、長期停滞にあった日本経済が、2008年にアメリカで起きたリーマンショックの余波を受ける中で、当時の民主党政権の金融担当大臣だった亀井静香氏の強い意向もあって成立しました。
 亀井氏は金融円滑化法の施行にあたって談話を出し、経済金融情勢はかつてない深刻な状況にあり、中小零細企業に安心を提供することを喫緊の課題と考えて法律を成立させたとしています。
 金融円滑化法は、2009年12月4日に施行され、当初は2011年3月末までの時限立法でしたが、2011年3月11日に東日本大震災が発生したこともあって、2回に渡って延長されました。法律は2013年3月末をもって終了しましたが、金融円滑化法の趣旨は、金融検査マニュアルや監督指針などに取り込まれる形で残り、事実上は恒久的な措置となっています。

○金融円滑化法の内容
 金融円滑化法の大きな柱は、金融機関に、中小企業から債務の返済の猶予や軽減を求められた場合はできる限り柔軟に対応しなければならない、との努力義務を定めたことでした。これは名目上は努力義務でしたが、実際には、金融機関がどのように対応しているかを開示させたり、監督当局に報告させたりする義務が課されていたため、事実上は義務といえるものでした。
 もうひとつの柱が、中小企業に対する貸し付けの基準が緩和されたことです。金融円滑化法以前は、債務の返済が猶予されるなど返済条件が変更された場合、その融資は原則として不良債権として扱われていましたが、金融円滑化法によって、中小企業が経営改善計画を作っているなど経営改善の可能性があれば、不良債権とは扱わないことになりました。
 このように金融円滑化法は、中小企業の資金繰りに支援を与えるもので、実際、中小企業は、金融機関に申し込みさえすればほとんどが、債務の返済を猶予してもらうことができました。多くの中小企業がいわば経営改善をするためのモラトリアムを与えられることとなったのです。亀井大臣の目的とした中小企業に安心を与えるという環境が整えられたといえます。
 では、果たしてそのモラトリアムの間にどの程度の中小企業が経営を改善することができたのでしょうか。金融円滑化法の効果はあったのかについて以下で見ていきましょう。

○金融円滑化法の成果
 金融庁が2013年8月に公表した「中小企業金融円滑化法に基づく貸付条件の変更等の状況について」によると、金融円滑化法の施行から終了までの間に、債務の返済猶予を求めた申し込み件数は、計436万9962件で、金額ベースでは119兆6000億円でした。そのうち407万5064件、金額ベースでは112兆3490億円について、返済条件の変更が認められたということです。その実行率は97.4%となり、ほとんどの申し込みが認められたといえます。
 なお、金融円滑化法終了後の半年の間のデータをみると、その実行率の高さに変化はなく、金融円滑化法が恒久的な措置となっていることが分かります。
このように金融円滑化法の施行により、金融機関の中小企業に対する対応には、大きな変化があったことは数字上明らかで、金融円滑化法は、経営の厳しかった中小企業にとって大きな支援になったことは間違いないでしょう。
 金融円滑化法の効果は、企業の倒産件数でも現れています。全国の企業の倒産件数は、リーマンショックのあった2008年をピークに、金融円滑化法が施行された2009年からは減少傾向へと転じています。東京商工リサーチのデータによりますと、倒産件数がピークだったのは2008年の15646件で、2009年からは減少傾向となり、2013年には1万1000件を下回り、2014年には24年ぶりに1万件を割りました。さらに、2015年には9000件を下回って、その後も8000件台で推移しています。
 負債総額でも同様の傾向が見られ、金融円滑化法は企業の倒産を防ぐ一定の効果があったといえるでしょう。

○金融円滑化法の負の面
 金融円滑化法の効果の一方で、その負の側面についても指摘されています。金融円滑化法は、多くの中小企業にモラトリアムを与えましたが、それは法律の目的ではなく、そのモラトリアムの間に、中小企業の経営の改善を図ってもらうことが本来の目的でした。
 しかし、一部の中小企業は、返済の猶予を得るばかりで、経営改善への努力をしていないとの指摘がされました。また金融機関の側も、返済の猶予に安易に応じるだけで、中小企業の経営改善について十分な検証をしていないとも指摘されました。金融円滑化法によって、中小企業側にも金融機関側にもモラルハザードが起きているとの指摘が少なくありませんでした。
 また、本来であれば、経営体力に乏しく市場から退出すべき企業が、金融円滑化法の措置によって延命されることとなって、経済の新陳代謝を阻害したとの批判もありました。
 このように金融円滑化法がもたらした負の側面は否定できず、一方で、中小企業の経営改善を促すという本来の目的は、なかなか見えづらいといえます。金融円滑化法の功罪については今後も詳しい検証が必要でしょう。

○金融円滑化法のその後
 金融円滑化法は、2度の延長の末に2013年3月末をもって終了しました。その終了を前に、金融担当大臣は談話を発表し、金融円滑化法の趣旨は今後も継続して残り、法律終了後も政府当局や金融機関の対応には何ら変更はない、ということを強調しました。
 その上で政府から政策パッケージが公表され、金融機関が中小事業への支援をいっそう進めることや、公的支援機関の充実、その他の環境整備などの政策が明らかにされました。この政策パッケージは、金融円滑化法の出口戦略であり、大臣談話にあるとおり、法律終了後も変わらないことを担保して、中小企業の経営者に安心感を与え、法律終了の影響を少なくさせるためのものでした。
 具体的には、金融機関には中小企業の経営改善を進めるためのコンサルティング機能を高めるよう促しました。また公的な機関である企業再生支援機構を地域経済活性化支援機構に改編してその機能を強化するとともに、中小企業再生支援協議会についても、人員体制を拡充するほか、地域に協議会を核とした中小企業支援ネットワークを作るとしました。このほかさまざまな支援環境の整備が政策としてパッケージされました。
 このような政策によって政府が目指した金融円滑化法後のソフトランディングは、返済猶予の対応状況や倒産件数の推移などを見る限り、ある程度、成功したといっていいでしょう。