Column

2018.05.18

濫用的会社分割

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○第二会社方式
 第二会社方式とは、会社や事業の再生のためのスキームのひとつで、財務状況の悪化した会社から、収益性のある事業のみを別の会社に受け継がせ、もとの会社は破産手続きなどによって、過剰債務や不採算事業とともに整理をするというものです。方法としては、新しい会社を設立して事業を受け継がせる会社分割の方法と、別の会社に事業を譲渡する方法のふたつがあります。いずれの方法も、もとの会社には会社分割や事業を譲渡した対価が入ることになります。もとの会社は、破産や特別清算の手続きによって整理されるので、債権者にとっては、第二会社に受け継がれない債権を放棄することになりますが、会社分割などで得た対価については配分を受けることができます。
 このスキームによって、過剰債務に悩んでいた経営者は、優良な事業だけを切り離して再出発することができますし、債権者は不良となっていた債権を処理することができます。取引先も事業が継続されるので影響はなしという、あらゆる関係者に有効なスキームですから、私的整理において積極的に活用されています。
 旧商法においては、第二会社方式を進めるには、もとの会社と新会社の両方に「債務の履行の見込みがあること」が条件となっており、これは事前に債権者の同意を得ることを意味していました。現在の私的整理においても、こうした再生スキームの選択は、債権者の同意を得ることが条件となっています。

○濫用的なケースが増えてきた
 一方で、会社分割や事業譲渡が、債権者に同意を得ないまま進められるケースが増えてきました。その理由としては、新しい会社法で、会社分割などが債権者の同意なく進められると解釈できる規定が設けられたことや、会社分割などを手法とするM&Aが盛んになってきたことがあげられます。
 その結果、過剰な債務から逃れるという目的のために、債権者には秘密のまま、債務者が主導して会社分割や事業譲渡を行い、債権者の権利が損なわれるという事例が多発し、問題となってきました。こうした悪質なケースは、「濫用的会社分割」と呼ばれています。
 濫用的会社分割に対しては、どのようなケースが「濫用的」なのか、債権者はどのように権利の回復を進めるのか、などについて議論が続いており、裁判でも判例が示され始めています。

○典型的な濫用的ケース
 真っ当な会社分割や事業譲渡が行われる場合、もとの会社は、新しい会社の株式や事業の譲渡代金といった対価を得ることになります。もとの会社は整理され、債権者はこの対価と残りの資産をもとに配分を受けることになりますから、その額は、会社分割などをせずに破産手続きをして資産を分け合うよりも多くなると期待できます。これが会社分割や事業譲渡というスキームのメリットです。
 しかし濫用的なケースでは、会社分割や事業譲渡の対価がひどく低かったり、もとの会社ばかりに負債を負わされたりするケースが目立ちます。会社分割や事業の譲渡をする前の状態で破産手続きをとった方が、債権者が多くのお金を得られたとみられるケースも少なくありません。こうした場合、債権者としては、権利の回復を求めて、対抗策をとることになります。
 対抗策は主なものとして、①詐害行為取消権の行使、②否認権の行使、③法人格の否認などの方法が挙げられます。以下、この対抗策について説明します。

○詐害行為取消権の行使
 民法の規定であり、債権者が自分の権利を守るために、債務者が行った行為を取り消すよう求める権利です。
 たとえば、債務者が、唯一の財産である車を人に譲ってしまい、債権者がお金を回収することができなくなった場合、債務者のその行為を取り消すよう裁判所に請求します。裁判所がこれを認めれば、債務者の車の譲渡という行為は取り消されることになります。
 濫用的会社分割のケースでは、詐害行為取消権を根拠に、会社分割の取り消しや、会社分割による所有権移転登記の抹消などを裁判で求めていくことになります。
 実際の裁判でも、詐害行為取消権が認められ、濫用的な会社分割などを取り消すことができるという判断が示されています。

○否認権の行使
 破産法に基づいて、破産手続きに入った会社の破産管財人に与えられている権利です。破産手続きでは、破産管財人が会社の財産の管理や処分の権限を持っていますが、その会社が破産手続き開始前に行っていた行為が不当で、会社の財産を損なうものだった場合、破産管財人が否認権を行使することによって、その行為を取り消し、会社の財産の回復を図ることができます。
 濫用的な会社分割や事業の譲渡についても、この否認権を行使することで取り消すことができると考えられており、裁判所でもこれを認める判例が出ています。

○法人格の否認
 法人格の否認とは、法人が形骸化していたり、濫用的に作られたものであったりした場合、その会社の法人格を認めないという理論です。濫用的な会社分割のように、法人格の設立が濫用的であると認められれば、新しい会社の法人格は認められず、もとの会社と同一の会社と扱われることとなります。
 この法人格の否認は、明文化された規定はなく、一般的な法の原理から認められるものです。裁判所の判例でも、この法理による濫用的な会社分割などの取り消しが認められています。

○濫用的か否かのライン
 では、会社分割や事業譲渡が債権者の同意なく行われた場合、その行為が濫用的か否かを分けるラインはどこにあるのでしょうか。結論的にいうと、合理的な債権者によって同意可能なものであれば、濫用的ではないといえるでしょう。
 具体的には、
①会社の経営が破綻しかけていて、このままでは法的整理に陥る恐れがあること。
②会社分割や事業譲渡によって、もとの会社が、客観的に正当な評価から導き出された対価を得ていること。
③債権者にとって、その会社が破産手続き、民事再生、会社更生といった法的整理手続きをとるよりも有利な支払いが期待できること。
④これらを踏まえた上で、債権者に対して、会社や事業の再建計画が示され、債務が今後どのように弁済されるかが説得的に示されること。
などが条件となるでしょう。これらの条件が満たされれば、合理的な債権者には同意されると考えられますが、これはつまり、私的整理手続きを進めていくための条件とほぼ同等のものです。違うのはたったひとつであり、それは、債権者からの同意を得ているかどうかという点です。
 会社分割や事業譲渡の第二会社方式というスキームは、会社や事業の再生という観点から見れば、とても有効なスキームです。そのスキームを、濫用的でないと後から認めてもらうには、上記のような債権者が同意可能な条件で進めなければなりません。つまりそれは、事前に同意を得られる条件と同等であり、それだったら、最初から同意を得ればいいということになります。それをあえて省いて進めようとするわけですから、そこには何らかの理由があると推測されます。その理由は、債務から逃れようとするなどの悪意の可能性が強いでしょう。少なくともこれまで裁判となっているケースは濫用的と指摘されても仕方のないものばかりでした。論理的には、会社分割や事業譲渡は、債権者からの同意を得ずに進める理由はないと考えられます。