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2018.03.09

私的整理の概要とその種類

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○私的整理概説
 つぎに、私的整理の手続きについて詳しく見ていきます。
 私的整理とは、法的整理に対する概念です。法的整理は、法律に基づいて、裁判所の関与のもとで債務整理などの手続きを進めますが、私的整理は、そのような確固たる手続きがありません。
私的整理では、債務者と債権者が、あくまでも任意で話し合い、合意を積み重ねることで、債務の整理などの権利の変更を進めていくことになります。そのため、当事者同士の利害に応じて柔軟な対応をとることができ、調整がうまくいけば、迅速な手続きが可能です。裁判所へ支払う予納金も必要ないという、コスト面でのメリットもあります。
 かつての私的整理には、暴力団や整理屋などが介入し、違法な行為が横行していました。そのため、私的整理は不公平で信頼ができないと見なされていましたが、暴力団対策法の制定や経営環境の変化によって、私的整理での違法な活動も見られなくなってきました。
 そして、2000年代の倒産法制の抜本的な改革に合わせて、私的整理の手続きも大きく変化します。バブル経済崩壊後の不良債権の処理を目的としたこれらの変革は、やがて事業再生という新たな市場を生み出すことになりますが、その端緒となったのが、2000年の法的整理における民事再生法の制定と、2001年の私的整理における私的整理ガイドラインの公表だったといえるでしょう。
 私的整理ガイドラインは、金融界や産業界の代表と学識経験者による研究会によって作られ、公表されました。あくまでも紳士協定で、法的な拘束力はありませんが、私的整理における画期的なものとなりました。
 私的整理ガイドラインは、経営破綻に陥った会社を再生させるために、債務の減免や返済猶予などの債務整理や、事業を立て直す計画作りのための手続きの進め方を定めています。手続きの主体となるのはおもにメインバンクで、その手続きの作業に加え、債務整理の内容においても、メインバンクの負担が大きすぎるとの批判もありましたが、私的整理の重要な指針として捉えられ、利用されました。
 その後、私的整理ガードラインにならって、RCC(整理回収機構)再生スキームが作られ、現在、利用が増えている事業再生ADRや中小企業再生協議会スキーム、さらには特定調停スキームなども作られました。このため現在では、私的整理ガイドラインが使われることはほとんどありませんが、ガイドライン以降に作られたさまざまなルールや手法も、私的整理ガイドラインをベースに、その運用の教訓も加味して作られています。その意味で、私的整理ガイドラインはいまも生きているといっていいでしょう。

○私的整理手続きの基本的な流れ
 私的整理手続きでは、根拠となる法律がないため、当事者同士の任意の話し合いで進められます。法的整理と違って公表されることはありませんから、手続きに入っても経営への悪影響を避けることができます。当事者同士で柔軟かつ迅速に手続きを進められるというメリットがありますが、反面、任意であるため、当事者全員の合意が得られないと手続きが進まないということにもなります。
 私的整理ガイドラインなどのルールが設けられたことで、私的整理手続きはルールを参照しながら進められるようになりました。どのルールも基本的な流れは似ており、大きく異なるのは、おもに手続きを進める主体が誰なのかという点です。
 ここで、私的整理の手続きに共通する基本的な流れを見てみましょう。
 ①申し立て、一時停止の通知
 経営が厳しくなってきた会社が、私的整理手続きを申し出て、金融機関などの債権者に債務支払いの「一時停止」の要請を出します。法的整理でいう保全処分命令にあたる手続きですが、あくまでも任意の要請という形で、要請をだす債権者の範囲も任意で決められます。この一時停止要請は、債権者が債務の一括請求をする理由(期限の利益喪失事由)には該当しないものとされています。
 ②債権、財産の調査及び事業立て直しの計画案作り
 債務支払いが一時停止されている間に、債権と財産の調査が行われ、債務の整理、返済の方法と事業立て直しの方法からなる再生計画案を作ります。尚、手続きによっては、申し立て以前に、こうした財務的な調査や再生計画案を作っておくことが求められます。
 ③債権者から再生計画案の合意を得て、実行
 再生計画案は、手続きの対象となった債権者全員の合意を得て、実行に移されます。法的整理では債権者を一堂に集めた集会を開いて、多数決によって合意を得ますが、私的整理では、債権者ごとに交渉し、再生計画案も調整しながら、合意を積み重ねていくのが一般的です。
  
○整理回収機構
 整理回収機構(RCC)は、バブル崩壊後の不良債権問題を解決するため、1999年に設立された株式会社です。当初は、破綻した金融機関の債権を管理、回収する業務と、金融機関から不良債権を買い取ることをおもな業務としていましたが、その後、会社の再生も担うようになり、RCC再生スキームという手続きを公表しました。
 RCC再生スキームはふたつあり、そのスキームⅠは、整理回収機構が主要債権者となっている会社の再生に対してとられるスキームで、整理回収機構が手続きの主体となり、会社の再生手続きを進めます。スキームⅡは金融機関などの債権者から委託を受けたうえでとられるスキームで、整理回収機構は中立的な立場から手続きを進めていくことになります。
 現在、RCC再生スキームの利用はほとんどなくなっています。
 
○中小企業再生支援協議会
 中小企業再生支援協議会は、産業競争力強化法に基づいて、各都道府県に一カ所ずつ設けられた公的な機関です。協議会には、事業再生の専門家が常駐し、中小企業からの相談や再生のための支援を行っています。中小企業の再生支援には、協議会が、公正中立的な立場で関与するという点に特徴があります。
 協議会による再生支援の方法は二段階に分かれています。苦境に陥った中小企業からの相談を受けて、まずは一次対応として、助言や支援機関の紹介などを行いながら、その会社が支援対象であるかを検討します。ここで、会社が支援対象であることが認められれば、二次対応へと移り、再生手続きが正式に開始します。専門家からなるチームが作られて、債権や財産の調査や事業の立て直しの方法の検討が行われ、再生計画案が策定されます。
 そして再生計画案が、対象の債権者全員の同意を得られれば、再生計画は実行に移ることになります。
 私的整理ガイドラインなどほかの手続きでは、手続き開始後すぐに再生計画案を示すことが求められます。そのため、手続きを申し立てる前に、事業再生の方法をある程度、固めるため、財務調査などの必要な調査をしておかなければなりません。しかし資金力の乏しい中小企業にこれを求めるのは難しいため、このスキームでは、財務的な調査や再生計画案の策定などの手続きはすべて、申し立て後にすることとなっています。
 このスキームは、手続きのための費用も割安です。再生支援協議会への相談は無料ですし、再生手続きの際も、専門家への報酬に対する補助を受けることができます。また、協議会は地域に根ざしており、地元の商工会議所や金融機関などとネットワークを持っています。地域の実情に合わせた再生支援が行われることも期待されています。
 
○地域経済活性化支援機構
 地域経済活性化支援機構は、地域活性化のために設けられた公的な機関です。弁護士や公認会計士、コンサルタント、金融の専門家などさまざまな人材で組織され、地域の中小企業の相談に応じて助言をしたり、運営するファンドを通じて財政支援を行ったりするほか、経営の厳しい企業に対して再生支援を行っています。
 地域経済活性化支援機構による再生スキームでは、機構は公的で中立の立場から手続きに関与します。会社からの相談を受けて、会社に再生の可能性があれば、機構は、専門家を派遣して事業や財務などの調査を行い、事業再生計画案を策定します。そして、メインバンクなどとの調整を行い、正式に支援が決まれば、ほかの債権者との調整も行ないます。場合によっては、機構による債権の買い取りや出資が行われることもあります。
このように機構自身が、会社や事業の再生のためスポンサーとしての役割を果たすことができるのが、このスキームの特徴です。

○事業再生ADR
 事業再生ADRとは、裁判の手続きによらずに、公正な第三者が関与することで、民事上の紛争を解決しようというADR(裁判外紛争解決手続き)という手法を利用して、会社や事業の再生を図る手続きです。事業再生実務者協会が選んだ専門家が、公正中立な立場から手続きの主体として関与し、事業再生計画案の策定や、債権者との調整にあたります。
 苦境に陥った会社からの事前の相談を受けると、実務者協会は手続きを進める担当者を選び、その会社についての予備調査を行います。その会社に、再生の可能性があり、支援に相応しいと認められれば、正式な申し込みを受けて、手続きが進められることになります。 
 このスキームでは、「一時停止」通知も、実務者協会と再生対象企業との連名で出されるなど、実務者協会が手続きに主体的に関わり、債権者などとの調整を進めていきます。そして、再生計画案が作られ、債権者全員の合意を得られた後、実行に移されていきます。
 事業再生ADRは、法的整理と私的整理の両方のメリットを兼ね備えた手法として開発されました。その手続きは、ある程度の厳格さを持って定められており、信頼性が高いとされています。債権者との協議が整わなかった場合には、裁判所を利用する特定調停などの法的整理へと移行する仕組みも備えられています。
 事業再生ADRは基本的に非公開の手続きで、手続き費用が比較的高額になるため、大企業の利用が中心となっています。